現実が重く感じられるとき、その反動として、人は文化や娯楽といったものには、どんどん現実とは違う世界に連れて行ってくれるものを求める。子どもの父親が「私は彼にあまりテレビを見るなと、何度も言っていた」としても、その父親が構成している家庭という場所が、子どもにとって重く感じれば感じるほど、子どもの方は
テレビという娯楽に「自分を、どんどん現実とは違う世界に連れて行って」と思っても不思議ではなく、それが、やがて父親には「彼は現実と虚構を区別出来ない様子だった」という状態になったとしても不思議なことではない。
ロシアにある街では、自分を、どんどん現実とは違う世界に連れて行ってと思う気持ちからなのか、テレビの中のキャラの死に触発されて、後追い自殺する少年がでてしまった。
ある街とはチャイコフスキー。作曲家、チャイコフスキーから名付けられたこの街で、日本の大人気漫画・アニメ「NARUTO」(作者:岸本斉史)で自殺者が出てしまった。ナルトは忍者をヒーローとしたマンガだ。テレビアニメの「NARUTO ハリケーン・クロニクル」の登場キャラクターである「うちはイタチ」が死んでしまったことで大ショックを受け、その後絶望した14歳の少年がアパートの100フィート(約30メートル)高さのところから飛び降りて自殺してしまった。捜査の結果、自殺したのはレオニード・フメルフくんだと判明した。
レオニードくんはイタチの死を見た後、利用しているSNSのページに「死のうと思う」とコメントを投稿。その後レオニードくんが家に戻らないのを心配した両親が近所の隣人たちと捜索を開始したが、行方不明になってから二日後、遺体が発見された。「私はいつも言ってたんですよ、テレビを見過ぎるなと。きっと現実とフィクションの区別がつかなくなってしまったんでしょう」とレオニードくんの父親はコメントしている。
ロシアでの10代の若者の自殺件数は世界第3位だという。
最近、同漫画は激しい展開が続いているようで、主要登場人物であった「うちはイタチ」が死亡した。この展開に絶望し、彼は自殺という選択をしたらしい。
彼は自分のブログ上に「死にたい」とメッセージを投稿した後、30メートルの高さアパート2階から飛び降り自殺をした。家族は2日前から息子の失踪の行方を追っていたが、再会は叶わなかったという。父親は取材に対して、「私は彼にあまりテレビを見るなと、何度も言っていた。彼は現実と虚構を区別出来ない様子だった。」と語っている。
中国のオンラインユーザーも、このニュースに驚きを隠せない様子だ。あるユーザーは「この漫画から学ぶべきは、強い意志と諦める事のない勇気のはずだった。それがこんな結果を引き起こし、非常に残念だ」と語る。
有名歌手の引退や、漫画の展開などが影響し、命を落とす若者の話題は今までにも存在した。それほどまでに人を没頭させる芸術に、ある意味では感嘆する。人は現実では動かないが、虚構では動く。レオニードくんが、どのような環境にあったかは知れない。ただ、彼にとってイタチは現実を忘れさせる存在であったのだろう。イタチの不在によって、忘れた現実は重くレオニードくんに圧し掛かる。自殺によって、彼はその重みから解放されたのかも知れない。