野田首相の書簡の処理をめぐる大統領府の動きは、かつて日本にもあった。北条政権の頃、中国から親書が送られてきた。その親書に記された「日本王」という言葉が大問題になった。問題にしたのは公家である。理由は簡単で、公家は中国文化を権威とし、それを猿真似(完璧に真似ることはできなかったが)しているから、中国と公家とは対等ないしは公家の方が上だという感覚をもっていた。そのため「日本王=臣下」という言葉が彼らのプライドを逆撫でしたのである。
そこで、その親書に対して「そのまま返送」「反論する書簡を送る」「無視」という意見がでてきた。一方、幕府(北条政権)は平気だった。平清盛の頃にも「日本王」という親書がきたことがあったが、清盛は、それを問題としてない。理由は簡単で、武士は公家と違い、中国を模倣とした文化を有する階層ではなかったからである。だから武士にとって、中国側が彼らをどう呼ぼうが気にならなかった。そのことは後代の足利義満にあったが、彼もまた問題としていない。実利が重要であり、呼称=文化的価値など、どうでもよかったのである。
問題が同じだというのではないが、今、韓国で起こっている親書への返答問題は公家による文化的価値問題でもあるようだ。反論する書簡を送ることは、韓日両国政府間に独島の領有権争いが存在することを認めると受け止められ、また無視した場合は日本側の主張を受け入れると受け止められる恐れがあるという点を考慮して「そのまま返送」されてくるらしい。
単独訴訟になるが、国際司法裁判所の規定36条2項には「選択条項受諾宣言」というものがある。この宣言をしている国は提訴されたら、それに応じる義務が生じる。日本は宣言しているが、韓国は宣言していない。よって裁判は開始されない。ネットでは「韓国は宣言している」かのようなデマが飛び交っているようだ。
■竹島問題、提訴巡る日韓の攻防長期化へ
島根県・竹島の領有権問題を巡り、日本政府が国際司法裁判所での裁判に応じるよう韓国に提案した。韓国は拒否する方針で日本は初めての単独提訴に踏み切る構えだ。訴状の準備などで提訴は早くても2〜3カ月先になる見込みだ。日韓の攻防は長期化が避けられない。
半世紀ぶりとなる国際司法裁判所への共同付託の提案は、口上書を渡す段取りからギクシャクした。会談の時間が二転三転したほか、日韓双方の担当者も揺れ動き、実際に手渡したのは21日の午後5時になった。
日本政府は口上書で、国際司法裁判所への共同付託のほか、1965年の日韓国交正常化時に定めた「紛争解決に関する交換公文」に基づく「調停」を提案した。
調停とは、第三者を間に立てる紛争処理の手段をいう。裁判と違い、調停者や手続きは当事者間で決める。調停を行う第三者には国や国際機関などがあり、当事者間で人選した調停委員会を設置するケースもある。
日韓両政府は65年の国交正常化交渉で、竹島を巡る見解の違いが最後まで埋まらなかった。そこで両国は「紛争が外交上の経路で解決できなかった場合、調停によって解決を図る」とする公文を交わした。
◇訴状準備2〜3カ月
日韓間の調停に関して、外務省幹部はかつて日露戦争で米国に仲介を求めた例などを挙げる。しかし日韓間で調停の交換公文を交わした時点で具体的な第三国を想定していたわけではない。竹島問題をいったん棚上げした側面が強く、具体的な解決には結び付かないとの見方が多い。
韓国は「紛争は存在しない」との立場で、調停にも応じない見通しだ。日本側もそれは織り込み済みだが、それでも日本が調停を提案したのは、問題の平和的解決のため様々な手段を模索する姿勢を国際社会にアピールする狙いがある。
単独提訴の場合、共同付託よりも詳細な訴状の提出が必要となる。この作業に必要な時間は「どんなに急いでも2〜3カ月間は必要」(外務省幹部)という。その間、日本は日韓間の高官級協議の延期などで李明博(イ・ミョンバク)大統領の竹島訪問への対抗措置をとっていく方針だ。
◇韓国外相発言に反発
政府は追加的な措置も検討する構えだが、韓国がいっそう態度を硬化させる可能性もある。
21日には再び日韓の間で火花が散った。金星煥(キム・ソンファン)外交通商相は国会答弁で、李明博大統領が天皇陛下の訪韓時に謝罪を求めた発言について「当然(韓国に)来れば、謝罪すべき部分は謝罪すべきなので、その部分は間違いない」と追認した。
藤村修官房長官は記者会見で、外交通商相の発言に触れ「極めて遺憾だ。しかるべく韓国側に抗議する案件だ」と反発した。大統領発言を巡っては、民主党の前原誠司政調会長が21日の記者会見で「外交儀礼的にはあり得ない非礼な発言だ。許すことはできない」と批判した。今後の天皇陛下の訪韓について「かなり遠のいた」との認識も示した。
■韓中日新冷戦:大統領府、野田首相の書簡を返送へ
日本の野田佳彦首相が在日韓国大使館に送った、李明博(イ・ミョンバク)大統領の独島(日本名:竹島)訪問や、天皇の謝罪を求めた発言に対し遺憾の意を表する書簡について、大統領府は23日に返送する方針を固めた。
大統領府の、ある高官は22日「まだ最終的に決定してはいないが、専門家たちの意見は『返送すべきだ』という方向に傾いている。早ければ23日に最終的な決定を下し、書簡を返送できる」と語った。この場合、外交通商部(省に相当)は、在日韓国大使館が保管している書簡をそのまま日本政府に返送することになる。大統領府の高官は、返送すべきだとの意見が優勢になっている背景について「日本政府が書簡を送付した直後、一方的にその内容を公開するなど、外交的に礼儀を欠く行動を取り、内政のために利用したほか、事実と異なる内容が含まれているためだ」と説明した。同関係者は「李大統領は『竹島』ではなく、韓国の領土『独島』を訪問したのであり、野田首相の書簡の内容は事実と異なる」と語った。
大統領府はこれまで、野田首相の書簡の処理をめぐり「そのまま返送」「反論する書簡を送る」「無視」という三つの案を検討してきた。このうち、反論する書簡を送ることは、韓日両国政府間に独島の領有権争いが存在することを認めると受け止められ、また無視した場合は日本側の主張を受け入れると受け止められる恐れがあるという点を考慮したという。
■日本の国際司法裁判所への提訴、効力あるの?…日大名誉教授「アピールの意味はあるが、あまり実効力はありません」
政府は17日、韓国の李大統領の島根県・竹島訪問への対抗措置として、領土問題に関して国際司法裁判所(オランダ・ハーグ)に共同提訴することを韓国へ提案したが、その効力はどれほどなのか。
板倉宏日大名誉教授(刑法)は「今回のケースでは、あまり実効力はありません」と解説する。国際司法裁判所での 裁判開始には、当事者国同士(今回のケースでは日本と韓国)が同意した「共同提訴」が基本的には必要。もしくは、日本による単独提訴のケースでも被告の同意が必要となる。韓国が同意を拒否している以上、裁判は始まらないというわけだ。
また、国際司法裁判所の規定36条2項には「選択条項受諾宣言」というものがある。この宣言をしている国は提訴されたら、それに応じる義務が生じる。日本は宣言しているが、韓国は宣言していない。よって「裁判は開始されない」(板倉教授)ということになる。
板倉教授は「世界に向けて、日本の立場をアピールするという意味はあると思う」としたが、野田政権下では「国民に向けたパフォーマンス」としか映らない。残念ながら解決するには、まだまだ時間がかかりそうだ。