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マリア・シャラポワという歴史的な存在=全仏オープンテニス第14日

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 マリア・シャラポワ(ロシア)がグランドスラムに初めて登場したのは、2003年のことだったが、それ以前から「次のテニス界のスーパースター」として注目されていた。なかでも日本との関係は深く、プロ選手として初めて勝った大会は下部大会もツアーレベルもともに日本での大会で、08年秋の右肩の手術の後に、初めて獲得したタイトルもまた、日本の大会だった。本人も日本好きと公言してはばからず、今大会中ですらまるで関係ない場面で「一番興味深い街は東京」と話していたほどだ。





 日本での人気、知名度も非常に高い。恐らく、日本のファンが世界で最初に彼女をスターとして認めた存在だろう。これは手前みそに過ぎるかもしれないが、日本での人気とファンの存在が初期の彼女に自信を与えたことが、今の活躍の土台を作ったのではなかろうかとすら思うことがある。

 だが、人気が高まりすぎた反動か、日本の真面目なテニスファンには逆に敬遠されがちになっているのも否定できない。シャラポワを否定する人はたいてい彼女の打球時の「叫び声」がテニスに相応しくないとし、恵まれた上背とパワーを生かした攻撃的なプレースタイルを「大味で退屈」だと言う。

 いずれもおっしゃる通りと思える部分は多いし、それらの指摘が的外れただとも思わない。

 だが、シャラポワを見ていていつも思うのは、その信念の強さだ。彼女は昔から、そして今もただ「強くなりたい、勝ちたい」という気持ちをその中心に置き続けている。多くの欠点も、この一点だけで個人的には許せてしまう。


 恵まれた美貌でモデルの仕事もこなし、ファッション関連の副業もやっているが、彼女は常にテニスを自分の軸として譲らない。大きな故障でも抱えていない限り、世界中の大会に出場して、試合では常に全力。オフコートでもトレーニングを欠かさない。ルックスが注目されるようになった女子選手の中には、「足や腕が太くなる」という理由でトレーニングを嫌がる選手がいるという話さえ普通に聞かれることもある女子テニス界で、シャラポワのそういう話を聞いたことがない。

 テニスに対してはいい加減なところがなく、とても真面目で、ひたむきな選手だと素直に思う。今の彼女なら、何もここまで必死にならなくても副業の分野で十分にスーパースターでいられるはずなのに、「どうしても全仏で勝ちたかった」という理由で、そのフットワークを磨き、さらに高いレベルで戦うための準備をし続けて来た。「ドライブボレーの練習は大好き。一日中でもできるわ」と大会期間中に話していた理由は、「ヒザを曲げなくても打てるから」。何気ない一言だが、少し驚かされた。

 彼女の体格を生かせば、上半身の力だけで打ってもほとんどの相手には勝てる。それはこれまでの彼女の実績が雄弁に物語っている通りだ。

 しかし、よりいいプレーができるようになるために、そしてバウンドの高低差が激しいクレーの全仏で勝つために「きちんとヒザを曲げて打つ」などという、まるでアマチュアのプレーヤーのようなことを、彼女は毎日必死で練習してきたというのだ。


 10年の全仏の3回戦。ジュスティーヌ・エナン(ベルギー)とフルセットを戦って敗れた時に、彼女は感じたのだという。


マリア・シャラポワ
 あの時の彼女はクレーで一番の選手だった。でも、まるで敵わないほど強いとは思わなかった。もちろん、彼女のクレーでの実績はすごいと思っていたけれど、そこまで差があるとは思わなかった。多分、その時だと思う。いつか私にもチャンスが来るって感じたのは。


 シャラポワが一度こう感じたら、それを実現するまでは止まらない。今回の優勝もそうした文脈の末に導かれた答えなのだろう。

 優勝した瞬間について聞かれた彼女は、こう話している。


マリア・シャラポワ
 17歳でウィンブルドンで優勝した時、これが私のキャリアの中で一番の宝物になると感じたけれど、今日、両膝がコートについた瞬間に、これは今まで以上のすごく特別な瞬間だと感じたの。私はもっといい選手になれると信じてきた。たとえクレーでも必ず勝てるようになるし、芝でも、ハードコートでもいつでも一生懸命にやれば、もっと良くなれると思ってやってきたの。それがどれほど難しくても、誰も私ができると信じてくれないようなことであっても、私にはできると信じて来た。

 そして彼女は成し遂げた。

 史上10人目の生涯グランドスラムは、そんな毎日の積み重ねの上に成し遂げられた勲章だ。



























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