京都府亀岡市で集団登校中の小学生ら10人がはねられた事故で、検察は、無免許・居眠り運転をしていた少年の適用罪名につき、より罪が重い危険運転致死傷罪ではなく、通常の自動車事故に適用される自動車運転過失致死傷罪で処理した。また、防音壁に激突して7人が死亡した関越自動車バス事故で、居眠り運転をしていた運転手の適用罪名につき、同じく、危険運転致死傷罪ではなく自動車運転過失致死傷罪で処理した。
なぜ、無免許・居眠り運転が危険運転といえないのか。まさに素朴な市民感覚と法律とのギャップが甚だしい典型例といえる。
市民感覚を反映させない司法の判断は理解し難いとの批判も起きている。何が問題で、どうすればよいのか。本日は、この点につき視界良好にしたい。その読み解き鍵は「前例に学べ」。
危険運転で起訴すべきとの遺族の気持ちは痛いほど分かる。また、通常の事故に適用される罪では軽すぎるという国民意見も正しいと思う。ただ、居眠り運転を主な原因とする事故も危険運転を適用し得るとの解釈は、現行の条文の要件に照らし無理があり、長い目で見れば罪刑法定主義の観点から危険である。
もっとも、法律と市民感覚とのギャップをそのままにしてよいはずがない。どうしたらよいか。
前例に学ぶ。危険運転致死傷罪が新設された経緯である。2000年11月からの1年間で、飲酒運転や著しい速度違反による重大死傷事故が続発した。
マスコミも国民も刑が軽すぎるとし、交通事故遺族ら約40万人がその旨を法務大臣に訴えた。それらが裁判所も動かし、判決において「新たな交通事故の犯罪を新設するか、法定刑を引き上げる必要がある」旨指摘するに至った。こうして重い刑を伴った危険運転致死傷罪の新設が国会で可決された。
裁判員裁判や検察審査会による起訴制度もなかった10年前でも、素朴な市民感情が世論を動かし、裁判所を動かし、国会を動かした。裁判員裁判と検察審査会による起訴制度が開始された今、素朴な市民感覚が司法に当然反映されるべきであり、それが国民の国民による国民のための刑事司法である。
今回、危険運転致死傷罪で処理しないのは不合理との市民感覚に沿って、
(1)新たな犯罪(例えば結果重大運転罪)の導入
(2)危険運転致死傷罪の要件の追加(居眠り無免許など)
(3)悪質事故への対応を可能とする自動車運転過失致死罪の重罰化
いずれかの法改正が必要であるが、いずれも「動く国会」が必要不可欠である。
京都府亀岡市で4月、集団登校中の小学生ら10人が軽乗用車にはねられ死傷した事故で、運転していた少年(18)が調べに対し、最初の被害者をはねた際、被害者が飛んできてフロントガラスにぶつかったと供述していたことがわかった。京都地検は、事故原因は居眠り運転として危険運転致死傷罪の適用を見送っているが、遺族側は「被害者がぶつかるのを認識できたならハンドル操作のミスだった疑いがある」と31日、地検に再捜査を申し入れた。
亡くなった小学2年小谷真緒(おだに・まお)さん(7)の遺族代理人、中隆志弁護士(京都弁護士会)が京都家裁に捜査資料の開示を求め、少年の供述調書など約4千枚の資料コピーを受け取った。
それによると、少年は居眠り運転をしていて児童ら10人をはねた後、民家前の置き石にぶつかって目が覚めたと供述。だが別の供述調書では、最初に保護者をはねた際に「大きなものが飛んできて」と説明しており、事故を早い段階で認識していたことをうかがわせた。同乗者の供述調書には、少年はカーブを大回りする癖があったと書かれていた。
少年の審判は6月上旬にも開かれる見通しで、刑事処分相当として検察官送致(逆送)が決まれば、地検は10日以内に少年を起訴するとみられる。
中弁護士は、遺族が地検や家裁から受けた説明などから、
▽少年は居眠り運転したとされるが、本人らの供述以外に証拠がない。
▽事故直後の少年の携帯電話の発信・着信記録を警察が押さえていない。
▽少年はカーブを大回りする癖があり、事故現場でもハンドル操作を誤った可能性がある。
などの疑問点があると指摘。
中隆志弁護士
捜査は不十分で、まだ同罪の成立要件を満たす可能性がある。
地検側
できる限りの捜査をしたい。
中弁護士
小谷さん遺族は審判を傍聴する予定。