7月4日、第23回参議院議員選挙が公示となり、投開票日21日まで17日間の選挙戦の火ぶたが切って落とされた。昨年12月に行なわれた衆議院議員選挙で大勝し、政権に返り咲いた自民党の勢いは明白で、参議院でのねじれ解消が果たせるかに注目が集まる。しかし、どこの政党、あるいはどの候補者が当選するのか、どのような政策が有権者の支持を集めるのかというという本質以外に、今回の選挙は選挙戦自体が注目される選挙となっている。昭和25年に制定されて以来、大幅に改正された公職選挙法では、インターネットによる選挙運動が解禁になったのだ。ルールを整理するとともに、政党や候補者、有権者にとってどのような影響があるのかをまとめた。
◆選挙運動に参加しやすくなる、でもややこしい改正公選法
7月4日、ついに第23回参議院議員選挙の公示日を迎えた。ネット選挙のスタートである。
政党や候補者はネットコミュニティに対してダイレクトにアプローチできる。同時に、すべての有権者もインターネットによる選挙運動ができるようになる。ネットによる選挙運動が解禁されていなかったこれまで、特定の候補者を当選させようと選挙運動に参加することは、なかなかハードルが高かった。それが、だれもが日常的に使っているネットという手段が選挙運動に使えるとなれば、ハードルはぐっと下がる。
もし気になる候補者がいて、その人の動向を知りたければパソコンに向かえばいい。その人の名前を検索してみれば、公式ホームページやツイッター、フェイスブックなど、あらゆる情報が出てくるだろう。ネット選挙解禁前は、こうしたことは起こりえなかった。公示後、インターネットでの情報発信はもちろん、更新もできなかったからだ。
しかし、そのルールを定めている改正公職選挙法は、なかなかわかりにくい。そこで、以下に有権者が直面するであろうシーンを想定して、違反するかどうかを簡単に整理してみた。
◆本音丸見えで発言の整合性が問われる ダメな候補者はちゃんと落ちるか!?
今回のネット選挙解禁によって、候補者や政党の情報や主張が簡単にチェックできたり、選挙運動に参加しやすくなったりするということ以外にも、有権者には多くのメリットがある。
その一つが、候補者たちの本音が見えるということだ。
6月25日に、参議院講堂で「ネット選挙公開討論会」のパネルディスカッションが開催され、平将明・自民党衆議院議員、福田峰之・自民党衆議院議員、鈴木寛・民主党参議院議員、松田公太・みんなの党参議院議員が参加。以下のような発言があった。
福田峰之衆議院議員
今までの選挙運動では、街頭演説なんてけっこう適当なことを言う候補者が多かったですよ。平気で前言撤回するなんてしょっちゅう。でも、これからはそういうことは、有権者に厳しく評価されることになる。有権者の方がネットで発言するようになるからだ。ある政策について別の日にこう言って、今日は違うこと言った、なんていうのはすぐにバレちゃう。過去の発言と整合性がないことは、すぐに分かってしまう。
平将明衆議院議員
本音が見えやすくなったり、過去との整合性を有権者が容易に判断できるようになったりすれば、“ダメな候補者がちゃんと落ちる”っていう選挙になる。
有権者は候補者たちの言動を継続的に追っていくことによって、一貫性があるかどうか、主張にブレがないかどうかなど、ウォッチしやすい状況になる。反対に、候補者たちにとっては、それこそ一挙手一投足、あらゆる発言が有権者によってエビデンス(証拠)としてネット空間に残ることになる。
◆有権者は法令遵守を 民事トラブル増加も?
一方で、有権者は選挙運動に参加しやすくなるが、同時にルールを守らなくてはいけないという責任と、それに反した場合には処罰される可能性が出てくるということだ。
今回、違反した場合の罰金もきちんと定められている。例えば、政党と候補者以外はメールでの選挙運動が禁じられていることを知らず、有権者が電子メールで選挙運動をしてしまった場合、2年以下の禁固または50万円以下の罰金と定められている。
しかし、「可罰的違法性(処罰に値するほどの違法性)があるかで判断されるため、一度違反して即、禁固や罰金ということは考えにくい。悪質な場合、各県警が設置する選挙取締対策本部から警告がなされるでしょう」と弁護士法人オーセンスの池田康太郎弁護士は解説する。
即、禁固もしくは罰金にならないからといって、法律に反することには変わりない。メールでの選挙運動は禁止されていることは頭に入れておかなくてはならない。
「今回の選挙で禁固の例はよほどのことがない限りないと思いますが、悪意のない違反に対して警告は相当数発せられる可能性はあるのでは思います。それよりも、ネットでの選挙活動が解禁されたことにより、誹謗中傷を原因とする民事間のトラブルが増える可能性があります」と前述の池田弁護士は話す。
ツイッターやフェイスブックなどのSNSで有権者が選挙運動と落選運動をするなかで、候補者の社会的な評価を下げるような発言があった場合には、名誉毀損で訴えられる可能性があるということだ。場合によっては侮辱罪が適用される可能性もある。
ネット選挙の解禁によって、有権者にとって政治や選挙運動がより近い存在になることは間違いなさそうだ。ただ、違反とは知らずに、悪意がない法律違反を犯してしまうリスクも、同時に身近なものとなることは心得ておきたい。