何人かに勧められて、“ユーチューブ”を初めて見た。
2009年の総選挙における野田佳彦現首相の街頭演説の動画だ。
これはテレビのニュースで紹介されたこともあって、このところアクセスする人の数が急増しているらしい。
街角に立った野田氏は、今年の党大会での演説などよりもっと気合を入れて叫んでいる。
演説の内容は、消費税増税問題である。
私はこの演説の内容を聞いて耳を疑った。今の野田首相と正反対と言ってもよい主張をしている。
まず、民主党のマニフェストについて、その最重要部分を「1丁目1番地」と言い、こう演説しているのだ。
「その1丁目1番地は、税金の無駄遣いは許さないということです。天下りは許さない、渡りは許さない、それを徹底していきたいと思います」
続けて彼は、「消費税5%分の皆さんの税金に、天下り法人がぶら下がっている。シロアリがたかっているのです」と叫んだ。
「それなのに、シロアリを退治しないで、今度は消費税を引き上げるんですか」
「シロアリを退治して、天下り法人をなくして、天下りをなくす、そこから始めなければ、消費税を引き上げる話はおかしいんです。徹底して無駄遣いをなくしていく、それが民主党の考え方です」
思わず拍手を送りたくなるような正論だ。
おまけに、マニフェストのルールについても「書いてあることを命がけで実行する。書いていないことはやらない」と明確に規定した。
この発言は野田首相にとってはもちろん、民主党にとっても致命傷になる。それどころか、これほど政治に強い不信感を生む変節もないだろう。
もしも、当時は未熟であったからその後勉強して方針転換したと言うなら、この十数年間の政治生活で税金を受け取って何をしていたのか。「税金を返せ」と言われかねない。
また、街頭演説が選挙の方便としての発言ならば、投票した人から「票を返せ」と言われても仕方がない。
この一件は、どんなに弁明しようとしても弁明できないもの。弁明すればするほど信頼が地に墜ちるだろう。
野田首相にはこれに処する2つの道がある。
その1つは、政治不信の増幅に歯止めをかけるため退陣すること。行政改革を小手先で済ませて消費税増税に走るのは止むを得ないと本当に考えているのなら、そもそも首相になるべきではなかった。
もう1つは、本欄で指摘してきた正道に思い切って転換すること。すなわち、ユーチューブでの約束通りに進むことだ。
野田首相は、“素志貫徹”を座右の銘にしているらしい。
“素志”とは、人生の原体験に育まれ、変えようとしても変えることのできないほど強固な志のことだろう。首相が本気でこの言葉を大切にしているなら、こんなことには決してならないはずだ。
“素志”という言葉が泣いているではないか。
(2012年1月27日 ダイヤモンドオンライン 2012年1月26日「耳を疑う消費税増税をめぐる自己矛盾 野田首相の信頼感はユーチューブで地に堕ちた|田中秀征 政権ウォッチ」より)
その内容はともかく、選挙における野田佳彦現首相の街頭演説は素晴らしい。何が素晴らしいかといえば、街宣車ではなく街頭における演説だということだ。これが法律によってあるポイントだけだと決めてあれば立派だと思う。現時点ではすばらしいだけに止まる。
それで、その内容だけど、今と比べて「あきれる」の一言だけである。それでも社会保障に飢えている老人などは、彼を支持するだろう。日本で正誤当否が為されたことがあttだろうか。それが現実だ。