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悪意ある相続人から親の財産を守る

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■司法書士が見た 相続トラブル百科 「悪意ある相続人」から親の財産を守る

川原田慶太(かわらだ・けいた)
 1976年大阪生まれ。司法書士・宅地建物取引主任者。2001年3月、京都大学法学部卒。在学中に司法書士試験合格。02年10月、かわらだ司法書士事務所開設。05年5月、司法書士法人おおさか法務事務所代表社員就任。資産運用や資産相続などのセミナー講師を多数歴任。


 親がまだ存命中にもかかわらず、将来相続する権利を持った子どもたちがすでに対立を激化させている場合があります。「あのな、お前は親父の金を使って家や車を買い、孫の留学費用まで面倒をみさせてるんだから、遺産の分け前なんてこれ以上1円もないと思えよ!」だとか、「おい、おふくろの預金通帳の数が足りてないだろう、どこへ隠した!」などと、親の財産をめぐる人間関係に早くもトラブルが生じており、生前の時点ですらもはや着地点を探すことが困難だというケースがあるのです。

 たとえ行き違いがあったとしても、あくまで兄弟げんかのレベルにとどまる程度のものであれば、お互いに相手のことを良くは思わないものの、生前にそこまでエスカレートすることはないかもしれません。本格的な争いが起きるとしても、それは実際に相続が発生してから、ということになるでしょう。

 しかし、お互いへの疑心暗鬼があまりに強くなり過ぎて、相続まで悠長に待てたものではない、といった状態となるケースも出てきます。存命中の親を相手方と同居させないように、親の身柄を拘束し合ったり奪い合ったりするような、下手をすれば親の人権が侵害されかねないほどの争いにまで発展するケースも起きてしまうのです。

 そしてこのような場合、親の判断能力が少し低下していて、気弱になっていたりするということが少なくありません。認知症の診断が下りるほどではないものの、ただでさえ気力が弱まってきているのに、追い打ちをかけるかのように子供たちが感情をむき出しにして争っている場面に巻き込まれてしまう。そのような状況下にある親の気持ちを考えると、本当にいたたまれなくなってしまうこともしばしばです。

 長男「なんでお母ちゃんを、こんな遠い施設に勝手に移したりするんや! 慣れ親しんだ地元の老人ホームで今まで通り暮らしてれば何の問題もあれへん。そやのに、いまさらわざわざこんな知らん土地までお母ちゃんの身柄を移す必要なんてあるわけないやろ!」
 長女「そらあんた、あんたの近くにお母ちゃんが住み続けてたら、お母ちゃん、スッカラカンになってしまうからやないの。あんたは、長男で後継ぎやいうしょうもない理由だけで、昔からさんざんお金の支援を受けてきた。親に建ててもろうた大きな家でボーッとしながら暮らしてるのも、全部そういうことやないの。これ以上親のスネかじって、お母ちゃんをあんたとこの財布代わりにされたら困るんよ」
 長男「なんや、結局はお母ちゃんのためやのうて、自分の金の心配か。お母ちゃんにしこたま金をためさせといて、死んだあとの財産目当てやっちゅうのが丸わかりやな。ほんまにやらしい奴や」
 長女「あんたのしょうもない物差しで勝手に決めつけんとき! 財産目当てはあんたの方やないの。だいたい、ものには限度ってもんがあんねん。あんたとこの嫁は、いつ見ても派手な格好してるし、家のこともほったらかしてよぉ出かけてるみたいやない。旦那にロクな稼ぎもあれへんのに、そないなぜいたくに回せる金はどっから出とんねん?」
 長男「そんなもん、お母ちゃんの金をどう使うかは、お母ちゃんの気持ちが一番大事やろ。昔からお母ちゃんが末っ子の俺をかわいがってくれてたん、姉貴も知ってるやないか。そこにケチつけられて、年取ってから姉弟同士の醜い争いなんかみせられたら、お母ちゃん悲しがるで」
 長女「何を開き直ってんねん。末っ子やから甘えるっちゅうのと、お母ちゃんの通帳から毎月好きなだけ引き出して使いこむっちゅうのは、まったく別の話や。ええ年こいて、いつまで親心につけこんどんねん、ほんまに情けない根性なしが。どんだけお母ちゃんを悲しませたら気が済むんや、あんたは」
 長男「……姉貴とは話にならんわ。とにかくこんな知らん土地の施設は即解約や。このまま元のホームに連れて帰るからな」
 長女「ちょっと待ちッ!」

 当事者である子どもたちだけだと、お互いにヒートアップしてしまって、話し合いの収拾がつかなくなってしまうというケースは珍しくないでしょう。ただ、子供のうちの特定の誰かが親と同居、もしくは親の近所に住んで、親の通帳や実印・銀行印などの印鑑を預かって実質的な財産管理をしているといったケースは、現実的には広く行われていることだと思います。これが親の死後も他の兄弟姉妹にきちんと説明できるように、きちんと領収書を残したり、こまめに記帳された預金通帳の余白に事細かく出金の用途を記載していたりするような人ばかりなら、問題が起こる確率はきっと低くなるはずです。

 しかし実際にはその正反対で、親の近くにいるのをよいことに、親の財産をまるで自分のものかのように使いこんでいるケースも存在します。遠方に住む兄弟姉妹からすると、同居している子どもが親のお金を引き出して自分の生活費などのために使っていることは明らかに分かっていることなのかもしれません。

 にもかかわらず、のちに争いに至った場合には、引き出された預金を誰がどのように使ったかの目ぼしい記録や証拠がないということも少なくありません。こうなると相手を責める材料に欠き、他の兄弟姉妹が泣きを見るということもありえるでしょう。

 このような場合、もしも親の判断能力の低下が医学的にも明らかであれば、他の兄弟姉妹たちにも手の打ちようが残っています。判断能力が弱まった立場の人の権利を守るためにある「成年後見制度」を利用して、裁判所の監督下で財産管理の権限を親から後見人へと移管してしまうのです。

 この際、子供たちのうちの誰かが後見人になることもできますが、あえて司法書士や弁護士などの第三者の後見人を立てることもひとつの選択肢です。こうすれば子供たちと親の財産の間に第三者によるくさびを打ちこむことになり、お金に執着のある特定の子供からより客観的に親の財産を守ることができるようになるでしょう。

 しかし、それはあくまで親の状態が医学的に診断できるほどに衰えていた場合の話です。現実的なケースとしては、判断能力の低下というよりは、単に加齢によって弱気になっているだけだとか、性格の中の優柔不断な部分が年齢を重ねて目立つようになっただけであるような場合が少なくありません。このようなケースでは、先ほどの成年後見制度は利用できないということも多く出てくるでしょう。

 そうした際に、親の財産を悪意ある兄弟姉妹から守るためには、特効薬となる法律や制度が存在するわけではないように思います。むしろ物理的な方法で隔離する、つまり目の届く範囲に呼び寄せて住んでもらうとか、そういった面でのセキュリティの堅い施設に移ってもらってアクセスを取りづらくするとかいったように、特定の子供の「魔の手」から親を引き離すことが、親の財産を守るための方策となるという場合も出てくるのではないでしょうか。

 また、この「物理的に引き離す」という方策は、財産の管理についてだけでなく、親の本意に基づかない「変な」遺言書の作成から親を守るという意味でも重要となるかもしれません。遺産に対して執着のある子どもが、親の弱気につけこんでとっぴな行動に出ることも決して珍しくはないケースといえるからです。

 例えば、他の子どもたちの誹謗(ひぼう)中傷を親に吹き込み続け、親に対してときに優しくするかと思えば激しく罵倒するなどを交互に繰り返し、親を「マインドコントロール」状態にした上で遺言を書かせるなど、あの手この手で遺言を作成させようとしている場合もあるかもしれません。しかし、後日にこうした遺言が出てきた場合でも、もはやそうした一連の強迫の事実について何の証拠も残っていなければ、残された他の兄弟姉妹には手の打ちようがないということにもなりかねません。こうしたケースについては、数字上の統計はもちろんありませんが、少なからず存在しているのではないかと考えられます。

 このように、相続争いの原因は、必ずしも当事者の「全員」が財産に執着しているから起こるというわけではありません。場合によっては、特定の相続人だけがネックとなって公平な相続が阻害され、トラブルが発生してくることも少なくないでしょう。こうした性質を持つような相続人が存在している場合は、親や他の子どもたちもある程度意識的に対応をしていく必要があるといえるでしょう。

 親の立場からは、判断力が明瞭なうちに適切なバランスが取れた遺言や贈与を用いて、遺産分けのレールをきちんと敷いておくことが肝心だといえます。また、他の子供の立場としては、たとえ法律上の効果的な対策は打てなかったとしても、物理的な意味でのトラブル回避手段も検討しながら、最後の最後で相続が起こったタイミングに全員で公平な話し合いを行うまで、他の子供の悪意から親の財産を守る、ということになってくるのではないでしょうか。






















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