■不人気マンションがない理由 「即日完売」のカラクリ
連載:本当は教えたくないマンション業界の秘密 榊淳司
榊淳司(さかき・あつし) 住宅ジャーナリスト。1962年、京都府出身。同志社大法学部および慶応大文学部卒。不動産の広告・販売戦略立案の現場に20年以上携わる。不動産会社の注意情報や物件の価格評価の分析に定評がある(www.sakakiatsushi.com)。著書に「年収200万円からのマイホーム戦略」(WAVE出版)など。
新築マンションのモデルルームに行ってみて、自分の他に多くの客が来ていると、あなたはどう感じるだろう。多くの人は「ああ、このマンションは人気があるのだ」と思い、安心するとともに少し焦るかもしれない。「これだけたくさん人が来ていて、自分は買えるのだろうか」
逆に、モデルルームがガラガラだと「この物件、大丈夫かな」と不安になる人が多い。
実は、販売サイドもそのことが良く分かっていて十分に利用している。
例えば、「この住戸は他に検討している方がたくさんいらっしゃいますので、早く決めていただかないと買えなくなりますよ」というのは、営業担当者の常套句。本当のこともたまにあるが、十中八九はフェイクだ。
日本人は「他の人がどうしているのか」ということを異常に気にする。「他の人が買っているから安心」と考える人が多い。逆に「他の人が買っていない」マンションだと怖がって買わない。だから、販売サイドは自分たちが売っているマンションが「売れていない」あるいは「人気がない」とは、まず言わない。何が何でも「人気がある」フリをして、「売れている」と言い切る。
最近、マンションの広告に使われ出した表現に「登録申込即日完売」というのがある。「第1期300戸登録申込即日完売」なんて、広告でうたわれていると、いかにも「売れています」というイメージが伝わってくる。しかし、本当にそうなのか。
実は「登録申込」というのは、誰かが購入申込書を提出したに過ぎず、正式に売買契約を交わしたわけではない。したがって、申し込み者は後でも自由に取りやめることができる。「即日完売」というのは、登録(申し込み)受付を始めたすべての住戸に申し込みが入ったということ。
裏側の事情を明かしてしまえば、申し込みが入りそうな住戸のみを売り出して、あらかじめ約束してあった客にそれをしてもらえばよいだけ。その客が申し込んだ後でキャンセルしても「登録申込即日完売」には違いがない。販売サイドは、何としてでも「人気物件」であることを装うために、こういう姑息な手段を用いる。また、そういうカラクリにうすうす気づきながらも、申し込む人は「このマンションは人気があるのだ」と思いたいから、疑惑はスルーして信じようとする。日本人のお人よしの部分がこういうところにも如実に出ている。
新築マンションは、売り出し時に人気があったからといって、資産価値が優れているとはかぎらない。販売開始時には何倍もの抽選になったのに、そのあと勢いが続かずに竣工後何年も売れ残っている物件も多い。
多くの人は、マンションという大きな買い物をするときに、心が舞い上がってしまう。そういう時こそ、冷静になるべきだ。広告の表現や営業担当者の軽いトークに惑わされると大きく後悔することになる。