宇宙航空研究開発機構(JAXA)は21日、低コストの新型ロケット「イプシロン」を8月22日に打ち上げると発表した。IT(情報技術)を駆使して点検作業を自動化。打ち上げ費用を従来の半分の30億円に引き下げ、欧米に対抗できる競争力を実現する。新技術は2020年ごろに打ち上げられる次期主力ロケット「H3(仮称)」でも使われ、宇宙ビジネスの切り札となりそうだ。
イプシロンは小惑星探査機はやぶさなどを打ち上げたM―Vの後継機で、小型衛星打ち上げの主役と期待されている。205億円を投じ、JAXAがIHIエアロスペースと共同開発した。初号機は地球を周回しながら惑星を観測する宇宙望遠鏡を搭載し、内之浦宇宙空間観測所(鹿児島県肝付町)から打ち上げる。
特徴はコスト競争力の高さ。打ち上げ費用はM―Vが75億円だったのに対し、イプシロンは38億円。量産機では30億円以下と、欧州の「ベガ」など競合機に負けないという。森田泰弘イプシロンロケットプロジェクトマネージャは21日の記者会見で「世界水準からみても安い」と胸を張った。
大幅なコストダウンは、徹底した省力化と部品の共通化で実現した。ロケットの各部に人工知能を組み込み、人が担っていた点検作業を世界で初めて自動化した。ロケットを発射台に据え付けてから打ち上げるまでに約42日かかっていた作業が1週間で終わる。
打ち上げ直前の確認や指令などを2台のノートパソコンで管理する「モバイル管制」に切り替え、携わる人員を100人規模から数人に削減。1段目はH2Aの補助ロケットを転用、2、3段目はM―Vを改良したロケットを使い、開発費を抑えた。
・世界の主な小型ロケット
ロケット 国 打ち上げ回数 成功率(%) 能力(トン)
イプシロン 日本 ― ― 1.2
トーラスXL 米国 9 66 1.4
ベガ 欧州 1 100 2.3
ドニエプル ロシア 17 94 2.7
PSLV インド 22 91 1.6
(注)2013年3月末現在。JAXAの資料を基に作成
人工衛星の打ち上げなどロケットビジネスは欧米企業が独占する。開発費が安い小型衛星は新興国を中心に新たな需要が生まれつつあり、日本の参入余地が大きい。大型衛星を打ち上げるH2AやH2Bに加え、イプシロンの登場で、小さな科学衛星から大きな通信衛星まで様々な打ち上げ需要を取り込める。
JAXAはイプシロンに採用した新技術を今後の国産ロケットの開発に役立てる計画だ。人工知能を使った点検作業の自動化や、パソコンによる管制作業技術は、開発が決まった次期基幹ロケットH3でも採用される見通し。イプシロンの成否は、日本がロケットビジネスで成功するための試金石になりそうだ。