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日本が軸となる対中国経済包囲網は可能かー経済圏の地図・地政学の地図

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 安倍晋三首相がロシア、モンゴルを訪問した。台湾とは漁業権を巡る協定を結び、ミャンマーから野党指導者のアウン・サン・スー・チー氏を呼び寄せた。中国から見れば日本が周辺国・地域との関係強化を急ぎ、対中国包囲網を築いているように映る。だが、経済の世界では日本、韓国、台湾、中国が一体となった緩やかな経済圏を構成している。グローバル経済の時代に、政治と経済を重ね合わせて考える地政学的な発想はどこまで有効なのだろうか。

 4月末の訪ロで安倍首相はプーチン大統領と北方領土の交渉再開で一致した。日本がロシアと関係改善に動いたのは、海洋進出に熱心な中国へのけん制を狙ったと国際的には受け止められている。4月の台湾との漁業協定締結は、尖閣諸島を巡り中台が連携する事態を防いだとされる。さらにミャンマーからスー・チー氏を呼ぶことで同国の民主化を印象づけ、中国に代わる新たな投資先として日本企業の進出を促した形だ。

 領土を巡り、中国はベトナム、フィリピン、インドとも対立する。すでに安倍首相は1月にベトナムをはじめ、タイ、インドネシアの東南アジア3カ国を訪問。韓国の中央日報は安倍首相の外交を評して「中国を取り囲む」ものだと指摘した。中国も、人民日報系のネットメディアの人民網がモンゴル訪問に際して「中国とモンゴルの間に戦略のくさびを打ち込んで、この地域におけるロシアと中国の安全保障協力・メカニズムをけん制することを企てている」と分析した。

 安倍首相がどこまで対中包囲網を意識しているのかわからないが、安倍外交に呼応するように経済でも過度の中国依存を脱却すべきだという声が日本国内で高まり出した。だが、地政学的な発想について「現実に合わない」という批判も経済界から時折、聞こえてくる。企業は市場を媒介に自社の事業に最適なアジア進出を試みており、政治の思惑に従って海外進出をするという発想は希薄だからだ。政治の地図と経済の地図は異なっている。




 日本の二大産業の自動車と家電・電機についてアジアとの関係を見てみる。自動車はタイにトヨタ自動車、日産自動車、ホンダなどが工場を構えており、日系の部品メーカーも近くに連なる。タイからインドネシアなど周辺の東南アジア諸国への自動車関連製品の輸出は盛んだ。タイを起点に最近はラオス、カンボジアにも日系自動車部品メーカーが進出し、東南アジアに広範な日系自動車経済圏を形成する。中国との経済関係が弱まっても、自動車産業は東南アジアに活路を見いだせる。

 家電はそうはいかない。基幹となる半導体生産を韓国のサムスン電子、台湾のTSMC(台湾積体電路製造)に握られてしまったからだ。韓国と台湾の半導体やパネルなどの基幹部品を使い、台湾の鴻海精密工業やサムスンが中国で電子製品を組み立てている。日本企業は韓国、台湾、中国に素材や部品、製造装置を輸出し、それをビジネスにしている。今すぐ東南アジアやインドに拠点をシフトしようとしても、韓国、台湾の企業も動かなければ経済圏は南下できない。

 電子産業が根を張る北東アジアで日中がぶつかれば自動車産業以上に電子産業が傷つくおそれが強い。電子産業の経済相互依存を考えれば、地政学的な封じ込めには日中双方とも動けないのが現実だ。では、地政学を前世紀の遺物と見過ごして良いものだろうか。

 やはりというか、経済と政治は絡み合いながら進む。中国は人件費が高騰し、サムスンはスマートフォンの生産拠点をベトナムに築いた。台湾の鴻海もベトナムに拠点を設けている。対中経済依存度が日本よりも高い韓国と台湾が中国依存の修正に動き出した。台湾の昨年の対中直接投資額は前年比2割減となったが、対東南アジアは8割も増えた。

 中国の経済成長は2ケタ台の高速成長から7%台に鈍化している。成長市場の魅力だけで周辺国・地域をつなぎ留めるのは難しくなる。もし、韓台の電子産業の投資先が中国から東南アジアに移ることになれば、中国抜きの電子経済圏も可能となる。中国が能力を隠して外国と争わない「韜光養晦(とうこうようかい)」と呼ぶ外交政策を修正すれば、その膨張志向が日本だけでなく、韓国や台湾、それこそインドまで敵に追いやってしまう。そうなれば地政学的な発想による経済の地図の組み替えが起こり得る。

 企業が自発的に結びついてできた経済圏の地図、政治がトップダウンで形づくる地政学の地図。2つの地図は相互に作用しながらそれぞれ変容していく。ビジネスマンや投資家も忘れてはならない視点だろう。

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 経済に国境はない。国境に気づくのは政治の作用が及んだときである。これは昔からのことで、ビジネスマンが改めて経済圏の地図・地政学の地図と騒ぐことでもないだろう。


























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