原発事故で広がった放射性物質を取り除く「除染作業」について、環境省は、これまでの調査で不適切なケースが5件確認されたことを明らかにし、現場の監視員を4倍に増やすことなどを盛り込んだ再発防止策をまとめました。
除染作業を巡っては、国が直轄で行っている福島県の地域で一部の業者が不適切な方法で除染をしていたとして、環境省は作業を請け負う業者などから聞き取り調査を進めていました。その結果、これまでに田村市と楢葉町、それに飯舘村で、▽除染に使った水を回収せず側溝に流したり、▽除染で取り除いたとみられる木が川べりに放置されるなど、不適切な作業が5件確認されたということです。
環境省には、このほかにも不適切な作業の疑いがあるとして14件の情報が寄せられ、これまでの調査では、2件は適切に行われていた可能性が高いとしていますが、12件については、現場や作業員が特定できなかったり、関係者の証言が食い違ったりして、不適切なケースとは断定できなかったということです。
こうした事態を踏まえて、環境省は、▽現場の監視員を今の4倍にあたる200人規模に増やすとともに、▽悪質な除染作業について情報を寄せてもらう専用ダイヤルを設置し、▽業者が悪質な不正を行った場合、政府全体で指名停止の処分にすることなどを盛り込んだ再発防止策をまとめました。
環境省は引き続き調査を続け、実態の解明を進めたいとしています。これについて石原環境大臣は「除染はしっかりやらなければならない。過去の除染については今後も調査と検証が必要で、問題があればその都度、改善していきたい」と話しています。
■14件解明できず 「限界」と環境省 福島民報
県内で進められている国直轄の除染で不適切な管理が指摘された情報19件のうち、14件の事実関係は闇の中−。18日、調査結果を発表した環境省は、証拠不足や主張の食い違いなどを理由に「調査の限界」を認めた。「共同企業体(JV)寄りの甘い調査結果だ」。避難者や首長からは批判や不信の声が相次いだ。「手抜きは氷山の一角」とみる除染作業員も。同省は監視体制の強化などの再発防止策を示したが、いかに実効性を高められるかが課題だ。
事実関係が解明されなかった14件の調査結果のほとんどで、環境省は「指摘された行為があったと断定するには至らなかった」との見解を示した。県庁で記者会見した環境省福島環境再生事務所の大村卓所長は「調査機関ではないので事実解明に限界がある」と釈明した。
未解明の14件のうち、田村市で作業員が川の縁に積もった枯れ葉を足で川に流した−との指摘については、受注した鹿島JV側が「絶対に故意ではない。熊手が川に落ち、回収したときに撮られた写真」と反論。環境省は「主張に隔たりがあり、断定するには至らなかった」と“嫌疑不十分”とした。
「明るみになったのはごく一部ではないか」。田村市都路町の会社員坪井秀幸さん(35)は環境省の調査結果に疑いの目を向ける。「単に監視担当者を増やすだけで解決するとは思えない。工期や廃棄物の保管場所なども検証すべき」と指摘した。
環境省が不備を認定した5件のうち、楢葉町(前田JV)の住宅ベランダと飯舘村(大成JV)の郵便局敷地内での高圧除染による汚染水の処理をめぐる2件で両JVは事実関係を認めたため、同省が文書で改善を指示した。田村市(鹿島JV)の川岸に草木などが放置されていた件は再発防止策の報告を求めた。田村市で作業員が長靴や用具に付いた泥を川で洗い流していた2件は「住民の誤解を招く恐れがある」として指導した。
◆問われる実効性
避難先で古里の除染を待つ住民からは不適切な除染の再発防止を求める声が上がった。飯舘村から福島市松川町に避難する佐藤明康さん(71)は「不適正な除染をした場合、程度の差にかかわらず作業から排除すべき」と訴えた。
だが、南相馬市内の現場で除染作業に携わる関東地方の五十代男性は「作業員はみんな一生懸命やっているが、流れる汚染水を完全に回収するのは難しい。口で言うのは簡単だが、やりようがない」と苦しい胸の内を明かした。
環境省は「除染適正化プログラム」で監督職員の増員や「不適正除染110番(仮称)」の開設など監視体制の強化を打ち出した。しかし、今後、5市町で本格除染が始まる。作業員の数は増える一方だ。田村市都路町の避難指示解除準備区域で除染に従事している男性は「いくら増やしても全員の動きを把握するのは物理的に限界がある」と指摘した。
◆失った信頼
旧警戒区域と旧計画的避難区域の国直轄除染の進捗(しんちょく)は復興に直結する。手抜き除染が行われた楢葉町の松本幸英町長は「除染が住民の帰還や環境回復を実現させるためには欠かせない作業であることをもう一度、再認識してほしい。再発防止策の効果を検証する必要がある」と注文を付けた。
環境省福島環境再生事務所の大村所長は「緊張感と倫理観を保って除染を推進することで地元の信頼を回復する」と強調した。
だが、一度、失った信頼を取り戻すのは容易ではない。いわき市の仮設住宅に暮らす楢葉町の無職矢内スイさん(68)は「時間の経過とともに、また手抜き除染が横行しないか」と心配した。
新たに不適切な除染が判明した田村市の冨塚宥暻市長は「除染が本当に適切に行われているのかという疑念を住民に抱かせる事態だ。不信感の払拭(ふっしょく)には相当の時間を要するが、国には住民の立場に立った再発防止策を求める」と語気を強めた。
除染適正化推進本部長の井上信治副大臣は「これで十分とは思っていない。常に改善に取り組む」と語った。