古い耐震基準で建てられた建物の耐震化が進まないため、国は、地震で倒壊すると特に影響が大きい病院や学校などの大規模な建物を対象に、大きな揺れに耐えられるか調べる「耐震診断」を初めて義務づける方針を固めました。
義務化に合わせ、耐震診断や耐震改修への国の補助率も引き上げることにしており、耐震化を進める切り札にしたい考えです。
まもなく発生から18年となる平成7年の阪神・淡路大震災では、昭和56年以前の古い耐震基準で建てられた建物の倒壊が相次ぎ、国が耐震化を進めていますが、今も大地震の際に危険な建物が多く残されています。
このため国土交通省は、古い耐震基準で建てられた建物のうち、地震で倒壊すると特に影響が大きい病院や学校などを対象に、大きな揺れに耐えられるか調べる耐震診断を初めて義務づける方針を固めました。
対象は、お年寄りや子どもが利用したり、不特定多数の人が出入りしたりする病院や、デパートなどの大型商業施設、小中学校などの大規模な建物で、全国でおよそ5000棟に上るとみられています。
また、義務化に合わせ、耐震診断と耐震改修への国の補助率を引き上げ、最大で、耐震診断では3分の1から2分の1に、耐震改修では3分の1から5分の2にすることで、耐震化を進める切り札にしたい考えです。
こうした建物で耐震診断や必要な耐震改修を行わなかった場合、国が指示や命令を出し、従わない場合、建物の名前を公表したり、罰金を科したりする方針です。
国土交通省は、今月下旬にも召集される通常国会に法律の改正案を提出する方針で、3年後の平成27年度末までに、対象となる建物の耐震診断をすべて終えたいとしています。
阪神・淡路大震災では、古い建物が数多く倒壊し、6434人の犠牲者のうち4800人以上が、建物の倒壊や倒れてきた家具で亡くなったとみられています。
しかし、耐震診断や耐震改修が済んでいない古い建物が今も残されています。
国は阪神・淡路大震災を教訓に、昭和56年以前の古い耐震基準で建てられた建物の耐震化を進めていて、このうち地震で倒壊すると特に影響が大きい病院や学校などの建物については、平成15年の時点でおよそ9万棟に上るとみられていた改修が済んでいない古い建物を、平成27年までにおよそ4万棟に減らすという目標を立てました。
しかし、平成20年の時点でも、こうした古い建物はおよそ8万棟に上るとみられ、これを半減しなければ目標が達成できない状況です。
このため国土交通省は、耐震診断の義務化と、耐震診断や耐震改修への国の補助率の引き上げで耐震化を進めたい考えです。
特に今回、対象となった病院や大型商業施設、それに小中学校などの大規模な建物は、東日本大震災で、避難所や首都圏の帰宅困難者が一時的に過ごす施設になりました。
また、阪神・淡路大震災では、倒壊した建物が道路を塞ぎ、救助活動に深刻な影響が出るなどしたため、各自治体が指定する防災の拠点となる庁舎や避難所などの建物、それに、災害時に重要度の高い幹線道路や避難のための道路に面した建物も義務化の対象になります。
建物の耐震化の問題に詳しい東京大学大学院の塩原等教授は、「阪神・淡路大震災のときは、耐震改修の重要性が広まっておらず、大きな被害が出た。一方で、東日本大震災では、仙台市の学校のほとんどが耐震改修されていたため被害が抑えられ、避難場所として有効に活用できた。こうした建物は、大きな被害が出ると影響が非常に大きく、耐震改修を進めていくことが重要だ」と話しています。
耐震診断の義務化や、耐震改修への補助の拡充で、耐震化が大きく進んだケースがあります。
東京都は去年4月、全国に先駆けて、災害時に重要度の高い幹線道路沿いにある古い耐震基準で建てられたビルを対象に、耐震診断を義務づけました。
こうした幹線道路沿いにある、昭和56年以前の古い耐震基準で建てられたビルはおよそ5000棟で、義務づける前、耐震診断が行われたのは1000棟余りにとどまっていました。ところが、義務化に合わせて耐震診断への助成を拡充し、多くの市区町村で、無料で受けられるようにしたところ、先月末までの9か月間に、およそ1600棟で新たに耐震診断が行われたということです。また、耐震改修についても、最大でおよそ8割を助成するようにしたところ、新たに100棟余りが耐震改修を始めました。このうち、東京・中央区の10階建てのビルは、おととしの耐震診断の結果、1階から6階の一部で今の耐震基準を満たさず、震度6強の揺れで倒壊するおそれがあるという結果が出ました。
耐震改修には数億円かかるため、社内で検討していましたが、東京都からおよそ4分の1の助成が出ることになり、去年から建物の柱やはりを鉄骨で補強する耐震改修を行っています。ビルを所有する会社の担当者は、「今の景気の状況で耐震改修を行うのは難しかったが、東京都の助成に後押しされて、耐震改修を決めた」と話しています。