日本産科婦人科学会(小西郁生理事長)は15日、妊婦の採血検査による新しい出生前診断の指針案を発表した。倫理的な課題があるとして「十分な遺伝カウンセリングが可能な施設で限定的に行われるべきだ」と指摘。対象を35歳以上などの妊婦に限定した上で、同学会や関連団体などでつくる第三者組織が実施施設を審査、認定する。
一般からの意見公募を経て来年3月にも正式決定し制度を始める。新出生前診断は妊婦の血液検査でダウン症などの胎児の染色体異常を調べる。複数の医療機関が臨床研究を検討している。
指針案によると、新しい出生前診断は遺伝学の専門知識を備えた医師らが今後増えて体制が整うまで「一般臨床ではなく臨床研究として慎重に開始されるべきだ」と指摘。実施施設には診療経験豊富な産婦人科医と小児科医が在籍し、どちらかが遺伝に関する専門資格を持っていることを条件とした。施設には遺伝カウンセラーらがいることが望ましいとした。
対象者は35歳以上や、超音波検査で胎児の染色体異常の可能性が示唆された妊婦など。検査に対する認識不足や誤解が生じる恐れがあるとして、妊婦や配偶者に説明して理解を得ることも挙げている。
実施施設の申請を受け、第三者組織がこれらの条件を満たしているか審査し認定する。認定施設は出生前診断を受けた妊婦の経過について第三者組織に報告する。組織には日本ダウン症協会に加わってもらうことも検討する。
妊婦の血液から高精度で胎児の染色体異常が分かる新型出生前診断について、日本産科婦人科学会(日産婦)は15日、実施指針の最終案を公表した。実施する施設には、産婦人科か小児科の遺伝専門医の常勤や遺伝専門外来の設置を義務づけ、施設の登録認定制度を設ける。一般から意見を募り、来年3月に指針を確定する。日産婦の小西郁生理事長は各施設に指針確定まで検査を行わないように求め、年内が予定されていた開始はずれ込む見通しとなった。
最終案は新型出生前診断の問題点を「極めて簡便に実施可能で、妊婦が検査結果の解釈について十分な認識を持たずに検査が行われる可能性がある」と指摘。「遺伝カウンセリングを適切に行う体制が整うまでは国内で広く一般産婦人科に導入すべきではない」とした。
実施施設については、
▽産婦人科と小児科の医師が常勤
▽どちらかは遺伝専門医の資格がある
▽専門外来の設置
などと限定。一般の産科や不妊治療クリニックでは難しい条件となった。
平原史樹出生前診断ワーキンググループ委員会委員長によると、多くの大学病院が条件を満たしており、「全国どこでもアクセスする道が断たれないよう配慮した」と話した。最終案は学会のホームページ(http://www.jsog.or.jp)で1カ月間公表して意見を募る。また、小児科学会やダウン症協会なども交えた審査組織を来月にも設置し、最終案確定後に実施施設の認定を行う。また、検査対象を35歳以上や染色体異常の胎児を妊娠したことがある妊婦などに限定した。
新型出生前診断については、大学病院や公立病院が共同で臨床研究の枠組みを作り、年内にも開始する準備を進めていた。関係者は、指針確定前の実施見合わせを了承する意向を示しており、検査の開始は来年3月以降にずれ込む見通し。
斎藤有紀子・北里大准教授(生命倫理学)は、学会が意見を募り議論していく姿勢を評価。その一方、検査対象を限定したことは「障害のある子どもを妊娠する可能性がある女性をリスト化し、命の選別をしてもいいと差別していることになる」と懸念を示した。
※遺伝カウンセリング
出生前診断などの遺伝学的検査の前後に、検査で分かることや結果の理解の仕方など情報を提供し、妊婦や患者が自らの判断に基づいた選択ができるようサポートすること。主な担い手は、臨床遺伝専門医や専門学会の試験を経た認定遺伝カウンセラー。