オバマ米大統領は14日、コネティカット州ニュータウンの小学校で起きた銃乱射事件について、「憎むべき犯罪」と批判し、再発防止に向けて有効な対策を求めると明言した。
オバマ大統領は時折涙をぬぐいながら、「この数年間、あまりに多くのこうした悲劇が起きている」と述べた。
大統領は2011年にアリゾナ州ツーソンで起きた銃乱射事件の後にも銃による暴力への対策の必要性に言及していた。ツーソンの銃乱射事件では6人が犠牲になり、当時、下院議員だったガブリエル・ギフォーズ氏が重傷を負った。しかし、オバマ大統領は対策を提案するには至っておらず、この事件後に連邦レベルで新たな銃関連法は成立していない。
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今回の事件では27人が死亡しており、14日の段階では事件の詳細は明らかになっていない。同事件がきっかけとなり、銃関連法の厳格化に向けた動きが起きるかどうかは、事件の詳細に左右されることになるとみられる。
同事件の捜査に詳しい2人の連邦捜査当局者によると、現場で回収された銃器は犯人とみられる男の母親の名義で登録されており、合法的に所有されていた。当局はこの男の遺体の近くでグロック社製とシグザウエル社製の拳銃を回収した。当局者はこの男をアダム・ランザ(20)と特定した。
銃の所有者として登録されていた母親ナンシー・ランザさんも犠牲者となった。当局者によると、3つ目の銃が現場にあった車の後部座席で何かにくるまれた状態で発見された。この銃も、ナンシーさんの名義で登録されていた。
銃が登録されていたため、今回の事件で使用されたとみられる銃器の出所に関する疑問の1つには答えが出た。連邦法では、犯人の男は年齢制限のために、許可を受けた販売業者からの拳銃の購入は禁じられていたはずだ。しかし、贈り物として銃を受け取ったり、個人の販売業者から銃を購入したりするのであれば、18歳でも銃を手に入れることはできる。
全米最大の警察団体「警察友愛会」の事務局長で、元連邦捜査員のジム・パスコ氏は14日に発見された2丁の銃は警察当局で最も一般的に使用されている拳銃だと述べた。
グロックの米国本社に電話取材を試みたが、返答はなかった。シグザウエルは声明を発表し、「この悲劇による影響を受けた全ての方々に哀悼の意を表する。これ以上の声明を発表する前に、この恐ろしい犯罪で何が起きたのかを完全に理解する必要がある」と述べた。
銃規制推進団体「銃による暴力を阻止するためのブレイディ・キャンペーン」の広報担当者ブライアン・マルト氏によると、コネティカット州の銃所有規制は米国で最も厳しい水準にあるという。同州では、拳銃を購入・携帯したい住民は詳細な身元調査を受け、許可を得なければならない。攻撃用武器は同州では禁じられている。
銃所有の権利を擁護する支持者らは14日の銃乱射事件について、コネティカット州などで導入している抑制による銃規制体制に限界があることが明らかになったと指摘した。雑誌「TheGunMag.com」のデイブ・ワークマン編集長は「コネティカット州は規制が厳しい州で、事件は銃の所持が禁止されているスクールゾーンで起きたようだ」と指摘した。TheGunMag.comは銃擁護派のロビー団体「憲法修正第2条基金」の傘下にある。ワークマン編集長は「この規制によって、犯罪者が銃を持ち、他の人は防御の手段を持たないという状況が生まれている」と述べた。
憲法修正第2条基金(ワシントン州ベルビュー)の創設者、アラン・ゴットリブ氏は銃規制の議論の中で、銃規制のマイナス面が無視されることがあまりにも多いと述べた。ゴットリブ氏は「どのくらいの人が銃を使って自分や家族、財産を守ったことがあるかという話を聞くことはない。その視点は議論の中で全く理解されていない」と述べた。
それでも、法律や政策の専門家の中には、今回の銃乱射事件をきっかけに銃規制に関する連邦法が強化される可能性があると指摘する向きもある。カリフォルニア大学ロサンゼルス校の法律学の教授、アダム・ウィンクラー氏は「今回の銃撃事件が転換点になる可能性がある」と述べた。ウィンクラー氏はさらに「今回の事件は銃撃事件の頻発した恐ろしい一年を締めくくるものだ。政治家を動かす要因があるとすれば、それは子どもの犠牲者が多数出ていることだ」と指摘した。
ウィンクラー氏は2011年に著書「Gunfight(銃撃戦)」を出版、銃規制については中道派と見られている。同氏は昨年、ノルウェーのサマー・キャンプで起きた銃乱射事件に触れ、銃規制をいくら厳しくしても防げることには限界があるという見方に同意している。ノルウェーの事件では数十人が死亡した。ウィンクラー氏は「ノルウェーの銃規制法は世界で最も厳しい水準にある」と指摘した。
コネティカット州で事件が起きる前日の13日には、ミシガン州で、銃の所有者が訓練を受ければ、これまで銃の持ち込みが禁止されていた場所に銃が外から見えない状態で携帯することを認める法案が可決された。この法案によると、学校は希望すれば、法律の対象外になるという。同法案が成立するにはリック・スナイダー州知事の署名が必要だが、同州知事は報道官を通じて、同法案は「慎重に審査・分析することになっていた」と述べた。また、「事件は非常に悲劇的で、ためらいが生じて当然だが、また、慌てて結論を出すこともできない」とも話した。
オバマ政権で施行された最も有名な銃関連法は規制緩和だ。州法で認めれれば、銃の所有者は国立公園や野生生物の保護区に装填した銃を持ち込むことができる。
オバマ大統領は14日のコメントの中で、犠牲となった子どもたちに触れた。「今日、亡くなったうちの大部分が子どもたちだ。5歳から10歳までの素晴らしい子供たち。これから誕生日や卒業、結婚を迎えたり、自分の子どもを持ったりする将来があったはずだ」
ニューヨーク市の市長で銃規制推進団体「違法銃に反対する市長」の共同議長を務めるマイケル・ブルーバーグ氏は、オバマ大統領は哀悼の意を表する以上のことをする必要があると述べた。ブルームバーグ氏は声明の中で、「有効な対策を求めるだけでは十分ではない」、「今すぐ、行動することが必要だ。言葉はもう十分だ」と述べた。
野田佳彦首相は15日、米東部コネティカット州の小学校で26人が犠牲となった銃乱射事件を受け、オバマ米大統領に対し「ご遺族に対する哀悼の意を表明する。日本国民の心は米国民と共にある」とのメッセージを伝えた。玄葉光一郎外相もクリントン米国務長官に哀悼の意を伝達した。
「銃が野放しにされている状況では、今回のような事件は後を絶たないのでは」――。米北東部コネティカット州の小学校で起きた銃乱射事件について、20年前に米国で長男を射殺された服部政一さん(65)(名古屋市港区)は厳しい口調で語った。
服部さんの長男で、高校2年生だった剛丈よしひろさん(当時16歳)は1992年10月、留学中のルイジアナ州バトンルージュ市で射殺された。服部さんは銃規制を求める運動を続けており、今年10月には、事件から20年を機に同市で開催された、剛丈さんの追悼と米社会に銃規制を訴える記念行事に出席したばかり。
服部さんは「誰でも簡単に銃を手に入れられる米国の現行法は、やはりおかしい。銃を持つ権利を認めるならば、管理する義務を課すべきではないか」と指摘。その上で「所持できるようになる前に、銃の扱い方を学ばせ、適性を見極めた免許制を導入するなどし、同様の悲劇が二度と起こらないように努めるべきだ」と訴えた。
剛丈君(当時16)の母美恵子さん(64)は15日、「本当にひどい」と絶句。取材に対し「銃が簡単に手に入る社会を変えなければいけない。そのためには教育が何よりも大切だ」と訴えた。
「自身が殺害した母親に恨みがあったのだろうか。でも、なぜこんなことを。銃が近くにあるから、こういう事件を起こそうという発想が生まれる」。事件の概要を知った美恵子さんは落胆した様子で語った。
「米国を第二の故郷にしたい」と笑顔で出掛けた剛丈さん。ハロウィーンパーティーの会場と勘違いして入った民家の敷地で、住人の男性に射殺された。「その家に銃がなかったら、殺されることはなかった」。加害者への憎しみを乗り越え、米国の銃社会を変えようと、夫政一さん(65)と取り組みを始めた。
手応えを感じているのが、市民が銃を持たない日本を知ってもらうために米国から留学生を招く活動だ。服部さん夫妻は事件から20年を機に10月に現地を訪問し、かつて交流した留学生らと再会。会話の端々から、銃規制に向けた意識が芽生えているのを実感した。
美恵子さんは「若者は根幹のところから変わってくれるので、教育は何よりも大切だ。日本ではなく、米国が取り組んでほしい。オバマ大統領に期待したい」と話した。
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銃規制推進団体「銃による暴力を阻止するためのブレイディ・キャンペーン」の広報担当者ブライアン・マルト
コネティカット州の銃所有規制は米国で最も厳しい水準にあるという。同州では、拳銃を購入・携帯したい住民は詳細な身元調査を受け、許可を得なければならない。攻撃用武器は同州では禁じられている。
国内でもっとも銃規制の厳しい州で今回の事件が起こったことは、銃規制にはさほどの効果がないことを証明したのかも知れない。同事件がきっかけとなり、銃関連法の厳格化に向けた動きが起きるかどうかは、事件の詳細に左右されることになるとみられる。銃所有の権利を擁護する支持者らは、コネティカット州などで導入している抑制による銃規制体制に限界があることが明らかになったと指摘した。
雑誌「TheGunMag.com」のデイブ・ワークマン編集長
コネティカット州は規制が厳しい州で、事件は銃の所持が禁止されているスクールゾーンで起きたようだ。
TheGunMag.comは銃擁護派のロビー団体「憲法修正第2条基金」の傘下にある。
デイブ・ワークマン
この規制によって、犯罪者が銃を持ち、他の人は防御の手段を持たないという状況が生まれている。
憲法修正第2条基金(ワシントン州ベルビュー)の創設者アラン・ゴットリブ
銃規制の議論の中で、銃規制のマイナス面が無視されることがあまりにも多い。どのくらいの人が銃を使って自分や家族、財産を守ったことがあるかという話を聞くことはない。その視点は議論の中で全く理解されていない。
しかし、法律や政策の専門家の中には、今回の銃乱射事件をきっかけに銃規制に関する連邦法が強化される可能性があると指摘する向きもある。
カリフォルニア大学ロサンゼルス校の法律学教授アダム・ウィンクラー
今回の銃撃事件が転換点になる可能性がある。今回の事件は銃撃事件の頻発した恐ろしい一年を締めくくるものだ。政治家を動かす要因があるとすれば、それは子どもの犠牲者が多数出ていることだ。
ウィンクラー氏は2011年に著書「Gunfight(銃撃戦)」を出版、銃規制については中道派と見られている。同氏は昨年、ノルウェーのサマー・キャンプで起きた銃乱射事件に触れ、銃規制をいくら厳しくしても防げることには限界があるという見方に同意している。ノルウェーの事件では数十人が死亡した。
アダム・ウィンクラー
ノルウェーの銃規制法は世界で最も厳しい水準にある。
コネティカット州で事件が起きる前日の13日には、ミシガン州で、銃の所有者が訓練を受ければ、これまで銃の持ち込みが禁止されていた場所に銃が外から見えない状態で携帯することを認める法案が可決された。この法案によると、学校は希望すれば、法律の対象外になるという。同法案が成立するにはリック・スナイダー州知事の署名が必要だが、同州知事は報道官を通じて、同法案は「慎重に審査・分析することになっていた」と述べた。また、「事件は非常に悲劇的で、ためらいが生じて当然だが、また、慌てて結論を出すこともできない」とも話した。
この法案が成立し、学校側に銃の所持者がいれば、今回の事件はあり程度防げていたかも知れない。
オバマ政権で施行された最も有名な銃関連法は規制緩和である。州法で認めれれば、銃の所有者は国立公園や野生生物の保護区に装填した銃を持ち込むことができる。
ところで犯罪者被害者(異常体験者)やその関係者には偏見が生じる。その偏見は一般化・公式化できないものである。日本人でアメリカにおいて銃の犠牲者になった方もいるが、その犠牲者が子どもで、それは「政治家を動かす要因があるとすれば、それは子どもの犠牲者が多数出ていることだ(アダム・ウィンクラー)」であり、今回の事件を契機とした銃規制の議論には相応しくと思われるので、彼らの意見への指摘は避けておこう。アメリカは物理的統制の国であり、それを「服部さん夫妻は事件から20年を機に10月に現地を訪問し、かつて交流した留学生らと再会。会話の端々から、銃規制に向けた意識が芽生えているのを実感した」のであれば、それはそのアメリカ人がアメリカ人であることを止め、日本人の意識で生きることを自覚したということになり、そうしたアメリカ人を受け入れるアメリカ人はいないだろうということは言えるのではないだろうか。
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