山梨県大月市と甲州市にまたがる中央自動車道の笹子トンネル崩落事故で、県警は3日、巻き込まれた3台のうちレンタカーのワゴン車から新たに5人の遺体、別の乗用車内に3人の遺体を確認した。冷凍冷蔵トラック内で1人が死亡しており、死者は9人となった。
県警によると、ワゴン車の5遺体は、自力で脱出した神奈川県三浦市の女性銀行員(28)の同行者で、東京都内のいずれも20代の男性3人、女性2人とみて確認を進める。乗用車には山梨県在住の70代男女、60代女性の計3人が乗っていたとみられる。
県警はトンネルの老朽化への有効な対策を講じていなかった可能性もあるとして、業務上過失致死傷容疑で捜査する。
事故を受け、羽田雄一郎国土交通相は3日午前、現場を視察。中日本高速道路の金子剛一社長も現場に向かった。
県警と東山梨消防本部によると、ワゴン車は3列シートで燃えており、遺体は運転席と助手席でそれぞれ1人、2列目の座席で2人、3列目の座席で1人を確認した。乗用車内では運転席、助手席、後部座席で1人ずつ確認。いずれも性別は不明という。
事故は2日午前8時ごろに発生。現場は東京側出口から約1.7キロ付近で、コンクリート製の天井板が110メートル以上にわたり崩落し、少なくとも車3台が下敷きになるなどして巻き込まれ、車両火災も起きた。
※事故が起きた笹子トンネルの構造
山梨県の中央道「笹子トンネル」で2日に起きた天井板の崩落事故は、老朽化が原因である可能性を、中央道を管理する中日本高速道路が認めた。高度成長期に広がった全国の高速道路は急速に「高齢化」している。更新の費用確保と安全対策が課題だ。
つっかえ棒を外されたようにV字形に崩れた天井板がトンネルの奥まで続いている――。トンネルの監視モニターが崩落現場を映し出した。
落下した天井板は路面から高さ4.7メートルにあり、トンネル上部の空間を左右に仕切り、外部の空気を入れ、トンネル内の排ガスを外部に送り出すためにある。この形式は換気量が多いのが特徴で、笹子トンネルが開通した1977年ごろには一般的だった。一方、最近の主流は天井部に大きなファンをつけ、トンネルを煙突に見立てて内部の空気を排出する方式だ。これだと圧迫感がなく、コストも抑えられる。
「経年劣化についても原因としては考えている」。事故後に記者会見した中日本高速の吉川良一・代表取締役専務執行役員は、落下原因の一つにこの排気構造があると述べた。この形式は、同じ中央道で長野県と岐阜県の県境を通る「恵那山トンネル」など全国にある。国土交通省は、全国の高速道路会社6社と直轄国道を管轄する各地方整備局に緊急点検を指示する方針だ。
天井板はつり金具と両壁の受け台に支えられており、今回は中央からV字形に落下した。
谷本親伯(ちかおさ)・大阪大学名誉教授(トンネル工学)
つり具と天井板をつないで固定しているネジが、振動などで少しずつゆるんだか、腐食するなどしたのでは。トンネル中央部は排ガスがたまりやすく、腐食が進んだ可能性がある。
周辺の地質が影響した可能性を指摘する声もある。
石原研而(けんじ)・中央大研究開発機構教授(地盤工学)
トンネルの外側から内側に向かって力が加わる。トンネル周辺の岩盤が変形しやすい性質なら、トンネル全体が変形して天井板を支えていたバランスが崩れたという可能性も考えられる。
国交省は、トンネル完成時の検査で幅や高さ、環境アセスメントを満たしているかを確認するにとどまり、強度の確認は「建設業者からの引き渡し時に発注者の責任でやるもの」として各高速道路会社に任せている。
日本道路協会の指針は、重要性の高い道路トンネルでは年に1回、一般のトンネルでも5年に1回程度は点検が必要と定めている。中日本高速によると、詳細点検は5年から10年に1回で、今年の9〜10月にグループ会社が実施。目視や音で確認したが「異常はなかった」という。
トンネルはもともと点検に決め手がないとも言われている。
木村定雄・金沢工業大学教授(トンネル工学)
天井板そのものが落下するという事故は今までに聞いたことがない。新たなリスクとして、点検のあり方を見直していく必要もある。
〈笹子トンネル〉
山梨県甲州市と大月市にまたがり、1977年に開通した。片方向2車線で、上下線で分かれ、全長は上りが4784メートル、下りが4717メートル。1日あたりの平均の交通量は上下合わせて約4万6千台。休日は長い渋滞が起きることがある。高低差は約50メートルで、直線部分が多い。トンネル内の制限速度は70キロ。