2010年初場所以来16場所ぶりに東西に横綱が並ぶ中、新横綱の日馬富士(28)=伊勢ケ浜=が西小結の豊真将(31)=錣山=を寄り切り、白星スタートを決めた。連勝も32に伸ばし、昭和以降で羽黒山、北の湖と並ぶ史上6位となった。4場所ぶりの優勝を目指す横綱・白鵬(27)=宮城野=も東小結・安美錦(34)=伊勢ケ浜=に完勝。東西両横綱がそろって白星は、10年初場所14日目の白鵬と朝青龍以来1023日ぶりとなった。
◆大相撲九州場所初日 ○白鵬(寄り切り)安美錦●(11日・福岡国際センター)
先輩横綱の白鵬は、尊敬する大横綱・双葉山の立ち合いを実践して快勝した。くせ者の安美錦の視界を遮るように左手を出してペースを握ると、最後は右ハズ、左上手を取って寄り切った。
立ち遅れたように見えて有利な体勢に持ち込む手法「後の先」。史上最多の69連勝を記録した双葉山が目指した形だ。白鵬は「初日から意識してやったのは初めて。後の先がうまくいったんじゃないでしょうか」と満足げな表情を浮かべた。
朝稽古後、親交のあるトヨタ自動車の豊田章男社長(56)がサプライズで部屋を訪問。「期待しています」との激励に応えた。目の前で新横綱が先に白星を挙げ「今までは1人でプレッシャーがあった。(今は)『もう1人が勝ってるし』と思った」と気楽に取れたという。一人横綱の重圧から解放され、4場所ぶりのVを必ずつかむ。
◆大相撲九州場所初日 ○日馬富士(寄り切り)豊真将●(11日・福岡国際センター)
勝利しか求められない「綱の責任」を果たした。日馬富士は豊真将を突き放すと、一瞬離れて間が空いた隙にすかさず左で張って右を差し、一方的に寄り切った。「自分の相撲に集中できた」。夏場所千秋楽からの連勝を32に伸ばし、北の湖、羽黒山に並ぶ昭和以降6位の記録に「光栄です」とうなずいた。
昇進伝達式の口上で「横綱を自覚して」という言葉を使った。その「自覚」は秋巡業中からあった。13日間の日程でほぼ毎日10番以上、幕内力士と申し合いを行い、稽古をつけた。熱心な姿勢に、同行した鏡山審判部長(元関脇・多賀竜)は「日馬富士は変わった」と目を丸くした。
信条の「速攻相撲」を変えるつもりはない。だが、調整には一段と気を使う。九州入り後はイベントなどで朝稽古ができない日も、夕方に四股を踏み、部屋近くのジムでトレーニングを行った。師匠の伊勢ケ浜親方(元横綱・旭富士)は「稽古はしているから大丈夫。あとは気合」と助言した。
日頃からの奉仕精神の規模も大きくなった。東京外大の岡田英弘名誉教授が01年に著した「モンゴル帝国の興亡」の翻訳を自ら監修。母国モンゴルで年内に刊行するが、これを自費で同国の小中高約800校全てへ無料配布することを決めた。「できることは何でもしたい」。横綱としての初のボランティアは国レベルのスケールだ。
新横綱場所の初日に満員御礼が出なかったのは、記録が残る85年以降では初めて。横綱土俵入りでは、途中で右手を一瞬膝から滑らせた。それでも所作は間違えず「心をこめてやりました」と納得の様子だった。95年初の貴乃花以来の新横綱Vを達成し、自ら場所を盛り上げる。