米大統領選挙はオバマ大統領が共和党のロムニー候補を制した。以下は今回の大統領・議会選を受けたポイント分析。
◎ワシントンでの勢力分布
政治的に変化はない見通し。下院は引き続き共和党が制する一方、上院は現状どおりオバマ大統領の民主党が多数派となる。ただ上下両院の議会選の結果、両党の穏健派は減少する見込み。両院のねじれが続くため、税制や歳出をはじめ多くの面で議会審議が暗礁に乗り上げると予想され、所定の法案可決も困難になる可能性がある。プリンストン大学のジュリアン・ゼルツァー教授(歴史)は「党派性が一段と強まる」と予想している。
◎米国経済
国内経済は引き続き回復期にある。過去の例からみて、選挙の年に経済が緩やかながらも拡大している場合、大統領は再選されており、今回も踏襲した。オバマ大統領は、景気後退の要因はブッシュ前大統領にあるとの有権者の判断にも支えられた。
◎オハイオ州はオバマ大統領制する
激戦州となったオハイオ州はオバマ大統領が制した。自動車が主要産業である同州で、オバマ大統領による2009年のゼネラル・モーターズ(GM)やクライスラー救済が影響したとみられ、白人男性からも一定の支持を得た。ロイター/イプソスの出口調査によると、白人男性の得票でオバマ大統領は全国平均では20%ポイントの差で敗れているが、オハイオ州ではその差は13%ポイントだった。
共和党のロムニー候補は7日午前1時前、ボストン市内の陣営本拠地に集まった支持者の前に姿を現し、「オバマ大統領の勝利を祝福したい」と話し、敗北を認めた。ロムニー氏はダークスーツに身を包み、笑顔で登場。「今は国にとって重要なとき。政治的に対立していてはいけない」と話した。オバマ大統領の当確をメディアが伝えた直後は、戸惑ったような顔をしていた支持者たち。ロムニー氏がスローガンの「米国と米国民を信じている」と言うと、初めて大歓声をあげた。キャンペーンの協力者たちに感謝の気持ちを伝えた後、「国をリードしたいと思ったけれど、国は違うリーダーを選んだ」と話して締めくくったロムニー氏。アン夫人、5人の息子たちに、副大統領候補のポール・ライアン氏一家と共に、支持者に挨拶し、会場を後にした。
落胆の空気に包まれた会場内に対し、会場外ではオバマ大統領の再選を祝う人でにぎわった。ロムニー氏の本拠地があるマサチューセッツ州だが、制したのはオバマ大統領。シカゴの支持者が喜ぶ姿が大画面に映ると、「ここは民主党の州」と、一緒に歓声を上げる一幕もあった。
■米大統領選挙を巡る2つの誤解=村上尚己
(執筆者:村上尚己 マネックス証券チーフ・エコノミスト 編集担当:サーチナ・メディア事業部)
米大統領選挙の投票が本日(11月6日)行われるが、これを巡る様々な見方が報道されている。まず、先週末からメディアで目立つのは、両候補の支持率がほぼ同じなため、「接戦が続いている」という報道である。ただ、報道で伝えられるほど、「接戦」とはもはや言えない可能性がある。これが1つ目の誤解である。
アイオワ大学が運営している電子先物市場では、大統領選挙の結果について市場取引が行われているが、同市場では直近のオバマ勝利の可能性が約75%まで上昇している。10月の候補者討論会の後に、ロムニー候補が巻き返した。しかし、足元ではそれ以前の「オバマ勝利」のムードが高まっていた状況に戻りつつある、と「大統領選挙にベットしている」人たちは認識しているということである。
もう1つの誤解が、為替市場で良く耳にする、「ロムニー勝利でドル高が起きる」との見方である。(1)現在の超低金利政策に批判的な共和党政権で金利が上昇する、(2)ビジネスフレンドリーな共和党政権で米国株高をもたらす、などが「ロムニー誕生=ドル高」の根拠となっている。
ただ言うまでもないが、ロムニー大統領誕生で、このストーリーが実現するかどうかは、足元で回復の兆候が増えている米経済の復調が続き、それがドル高・金利上昇をもたらすか次第である。足元で再び始まりつつある経済復調を後押しする「現実的な経済運営」が実現しなければ、ドル高や株高は続かない。
ポイントは、いわゆる「財政の崖」への対処を次期大統領がどのように対処するかだが、両候補ともに、「財政の崖」という目先の問題に対して、どう対処するか不透明な部分が大きい。
ロムニー候補は富裕層への減税延長を言明しており、共和党政権の場合、「財政の崖」に伴う増税幅が小さくなるが、それはGDP対比で0.3〜0.5%に相当する。ただ、ロムニー氏や副大統領候補のライアン氏は、「財政健全化」を金科玉条のように唱えている。こうした硬直的な政策運営の場合、「財政の崖」の片方である歳出削減幅が行き過ぎて、富裕層減税延長を上回り、南欧諸国が苦しんだ「緊縮財政」による景気縮小圧力が大きくなる可能性がある。「財政の崖」には至らなくても、緊縮財政で成長率が減速すれば、共和党政権であってもドル高は起きない。
もちろん、オバマ続投の場合は、少なくともこれまでの富裕層への減税政策がなくなる分、経済成長には下押し圧力がかかる。また、キャピタルゲイン増税が、株式市場の需給に影響をもたらす可能性もあるだろう。これらが行き過ぎれば、経済成長を阻害する。
つまり、どちらが勝利するかよりも、今後訪れるリスクがある「財政の崖」に対して、景気回復を阻害しない「現実的な対処」ができるかどうかである。要するには、どちらが勝利しても相応のリスクがある、ということである。
また、可能性は高くないとしても、仮に共和党政権が誕生して、本当に現在のFRBの金融緩和策が批判される状況になり、将来、「緊縮財政+金融引締め」が同時に採用されれば、米経済失速の現実味はより高まる。つまり、オバマ政権では想定できなかったリスクシナリオが、「ロムニー誕生」ではじめて想起されるシナリオがありえるということである。
政治の問題が、経済動向に大きく影響することは、過去2,3年の欧州債務問題を巡る混乱が示すとおりである。この意味で、米大統領選挙は大きなイベントだが、共和党・民主党どちらの勝利が望ましいかは、今後の議会との折衝を含めた政治情勢次第である。「2つの誤解」を前提に、大統領選挙後のシナリオに予断を持つリスクは大きいのではないか。