兵庫県尼崎市の民家で3人の遺体が見つかり、多数の行方不明者が出ている事件。ドラム缶詰め遺体事件で傷害致死罪などで起訴され、離散に追い込まれた複数の家族とつながりがあったとされる角田美代子被告(64)について、周囲は、近寄りがたい雰囲気を漂わせる一方、家族には愛情を注いでいたと話す。
◇生い立ち
角田被告は尼崎市内で生まれた。市内の祖母宅の近くに住んでいた男性は、遊びに来ていた小学校入学前の角田被告の姿を覚えている。「近所を走り回って活発だった」。中学時代の同級生は「男子数人と固まって行動し、近寄りがたい雰囲気があった」と振り返った。その後、尼崎市や横浜市のスナックなどで働き、タクシー運転手をしていた夫と結婚。81年に尼崎市内の新築賃貸マンションに夫と、戸籍上の妹の三枝子被告(59)と入居した。
◇家族との生活
同居者や家族は次第に増えた。近所のたこ焼き店の経営者によると、最近は7人ほどで店を訪れていた。誰も角田被告の前を歩くことはなく、2人の男がボディーガードのように寄り添った。角田被告が口を開くまで、誰も話し始めないほど統率されていたという。別の飲食店主によると、化粧っ気はなく、アクセサリーも付けていなかった。「いつもしかめっ面で笑わなかった」というが、子どもや孫には笑顔を見せ、かわいがっていた。息子が小さいころは学校にはほとんど通わせず、代わりにモデル養成学校や英会話学校に通わせたとされる。年に数回だけ学校に行かせる時に角田被告が付き添うこともあり、教師に「学校なんか行く必要ないんや」と話したという。
◇トラブル
尼崎市内のファミリーレストランでは店側ともめることが多かった。元店員は「『料理が遅い』『接客態度が悪い』と言っては夜中の2時でも店長を呼びつけた」と話した。角田被告がその後移り住んだマンションでは約10年前、角田被告宅を住人がのぞいたなど繰り返しトラブルになり、警察が度々来る騒ぎになったという。住民らは角田被告と顔を合わさないために、角田被告宅の階から降りてきたエレベーターには乗らないようにするなど接触を避けていたという。
19日に遺体の身元が確認された安藤みつゑさん(71)の弟(64)ら親族が読売新聞の取材に応じた。
安藤さんは40年以上前、ドラム缶遺体事件の主犯格とされる角田すみだ美代子被告(64)(傷害致死罪などで起訴)らと出会ってから家族と絶縁状態になり、突然、金の無心に現れた。「角田被告との出会いが姉の人生を狂わせた。姿を見せた時に強く引き留めていたら」。弟は悔しさに声を震わせた。
安藤さんは同市出身で、5人兄弟の3番目の次女。中学卒業後、大阪市内の機械製作会社に勤めたが、入社10年後、いきなり会社を辞め、その頃から友人などとして「角田」の名前を出しており、角田被告やその兄らと付き合うようになったとみられる。
その後、尼崎市内の不動産会社に転職。200万円の手形の裏書を誰かに頼まれて借金を背負ったといい、家に帰ってこない日が増えた。家族は「『角田』の家に行っているのだろう」と思っていたが、時折戻って来ては、疲れ切った表情で両親に金を無心。30歳頃から消息が不明になった。
約10年後。同県宝塚市で三女が経営する美容院に現れ、切羽詰まった様子で「金を貸して」とせがんだ。「何があったんや。借金ならみんなで返したる。絶対戻ったらあかん」。家族全員で引き留めたが、おびえた表情で飛び出していった。
ドラム缶にコンクリート詰めにされ岡山の海に遺棄されたとの証言のある男性(54)が昨夏まで、別の事件で起訴された角田美代子被告(64)のマンションで、被告らと同居していた可能性が高いことが20日、捜査関係者への取材で分かった。
美代子被告の周辺では男女8人が行方不明になったり死亡したりしており、これまでに生存が確認された人の中では最も直近の生存情報で、捜査関係者によると、殺害も同時期の昨年夏ごろとみられる。
尼崎市の住宅で見つかった3遺体は、死体遺棄罪の公訴時効が成立している可能性が高く、県警尼崎東署捜査本部は男性が遺棄された場所を特定し、捜索を急ぐ。
捜査関係者によると、男性は美代子被告の義妹角田三枝子被告(59)=窃盗罪で起訴=の夫の弟。美代子被告にごく近い関係者は「兵庫に近い岡山東部の瀬戸内海にドラム缶にコンクリート詰めにして捨てた」と遺棄された場所を詳しく証言していることも判明。これまでは「コンクリ詰めにし、岡山の海に捨てた」との証言を得ていることが分かっていた。
捜査関係者によると、男性の母親も行方不明で、男性の兄で三枝子被告の夫は2005年7月、沖縄県の観光地「万座毛」で転落死し、三枝子被告は約1千万円の保険金を受け取っていた。
これまでに不明や死亡が明らかになった8人はいずれも美代子被告とは親族だったり、一時同居したりするなどの関係があった。6人が殺害され、尼崎市の住宅で遺体で見つかった3人のほか、男性を含む3人が岡山の海や高松市などで捨てられたとの証言がある。