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私はわが道を行き、ふさわしいスタイルを貫く──チャールズ殿下 特別寄稿「私のファッション論」

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 2012年6月14日にブリティッシュ・ファッション・カウンシルによるメンズ・ロンドン・コレクションが開催され、チャールズ皇太子は最終日のレセプション・ホストを務めた。ここに紹介する原稿は、今年3月にUK 版『GQ』の「ベスト・ドレスト・メン」に選ばれたことを受けて、皇太子が英国ファッションへの思いを綴ったものである。皇太子は、自国のテーラリングに最高の保証を与えている。


『GQ』誌が選ぶベスト・ドレスト・メンのひとりに選ばれた(注:2012年3月)ことは、予想外の驚きでした。同誌からワースト・ドレストに選ばれていたのも、それほど遠い昔のことではありません。私の名前はこれまで何年も、ベスト部門においてもワースト部門においても挙がってきました。実際、1970年代初頭には、私の服装は極端から極端へと頻繁に変わっていました。

 71年に、ロンドンのグロヴナー・スクエアでマスターテイラーズ慈善協会の夕食会に出席した折のことを思い出します。その年、私はワースト・ドレストに選ばれていたのですが、可哀そうに、私のテイラーは、絶望的な顔をして報道陣の質問に答えていました。彼は苦し紛れにこう言いました。「しかし、みなさんは殿下のサイズをご存知ない!」(注:タマがでかすぎてバランスのいい服なんて作れるわけがない)。

 おそらくこの経験がきっかけになって、私は、自分なりの道を行き、似合うと感じるものだけを着ていこうと決めました。そのなかには、世間では古くさいとみなされているダブルブレストのスーツも含まれますので、私は、流行遅れの人間とみなされてもしかたがないと思っていました。ところが、先日、ある批評家が私のことを「流行を超越した人」と評しており、私はさらに混乱することになりました。あの女性批評家の言葉は讃辞だったのかどうか、今なおよくわかりません。

 ですから、『GQ』誌に認められたことは、控えめに言っても、励みになりました。私はこれを、永遠なる古典的英国スタイルに対する一票として受けとめています。私と交流のあるテイラー、シャツメイカー、靴職人の話が本当だとするならば、このスタイルは、まさに今、世界中の憧れの的です。海外顧客からの注文リストはかつてないほどぎっしり埋まっているとのことですが、当然のことだと思います。

 私はこれまでもずっと英国のテイラリングとその周辺を賛美してきました。シャツメイカーのターンブル&アッサーを例にとってみましょう。定評のあるグロスターシャーの工場では、数少ない熟練職人が、30ものパーツから成る生地を縫い合わせて一枚のシャツを縫い上げます。1インチあたり20針も縫われていると聞いています。

 また、貝ボタンが再生可能な資源を使って作られていることにも、安心しています。この業界では現在、大量生産の技術と合成繊維が大手をふってはおりますが、グローバル展開する一流のファッションブランドのなかには、このように細部まで行きとどいた英国の会社を頼りにするところもあるのです。その理由を、考えてみましょう。

 理由のひとつは、着心地がすばらしいということのほかに、男女の熟練職人が、高い耐久性をもつ服をつくることができる、ということです。おそろしいことに私は、一日の大部分をスーツで過ごしております。

 そのような生活だからこそ、スーツはふたつの基準を満たさなくてはならないと考えています。まず、一日の終わりに、スーツが、一日の始まりと同じように美しく見えること。そして次に、スーツが、外から激しい刺激を受けても丈夫であること。いきおい、テイラー、シャツメイカー、靴メイカーは大いなる挑戦を迫られます。

 服はスタイルがあり、なおかつ耐久性がなくてはならないということになるのですが、英国製品は、その課題以上の成果を見せてくれるのです。私のスタッフが発見して面白がるのですが、時に、私が着ている服は、彼らの年齢以上の時を経ていることがあるのです。

 もちろん、好ましいものではなくなってきた身体を古いスーツや軍服に合わせようとすると、いささか悪夢のようなことにはなります。とはいえ、スーツがそのような耐久性をもつようにつくられていたということ、このことが極めて重要なポイントになります。7月の後半に、ブリティッシュ・ファッション・カウンシルがロンドンコレクションと手を組んで行うメンズコレクションにあわせて、祝賀会を行いますが、その時にもこの点を、重要なこととして称えたいと思います。

 レセプションはセント・ジェームズ宮殿で催しますが、お迎えする予定のデザイナーや関係者にお会いできることを、とても楽しみにしております。ゲストには、例えば、サヴィル・ロウのテイラー、アンダーソン&シェパードの代表取締役社長、ジョン・ヒッチコックがいます。

 彼は、この業界における典型的なメンバーであります。16歳で学校を卒業したのちに店頭に立ち、経験を積んだ同僚たちから知識を学び、指導を受けてきました。その結果、彼はなぜ英国のテイラリングが比類ないのかという理由を、現場の経験から知っているのです。

 多くの国々では、テイラリングの技術は失われてしまっています。例えばヒッチコックは定期的にアメリカを訪れています。彼が会う人々のご先祖は、商売人ではなく専門職人をめざした、50年代の偉大で謙虚なニューヨークのテイラーたちでした。しかし、先祖の技術が、現代にまで伝えられてこなかったのですね。

 同じことが英国でも起こっていたおそれがあります。とりわけ、80年代には、テイラーになるということに興味を示す人間がいなくなり、ビスポーク・テイラリングそのものが廃れかけていました。幸いなことに、ヒッチコックの会社のような数社が、たいまつの火を絶やさず燃やし続けてくれたのです。

 彼らは自らの資本を投じて、極めて時代遅れな徒弟制度の枠組みをつくり上げました。今は、そのなかに加わる競争はとても厳しくなっています。アンダーソン&シェパードは、現在、19歳から28歳までの7人の従業員を雇用しています。彼らは、特別につくられた実習の場で6年間という長い年月をかけてテイラリングを学んでいます。これは贅沢な投資です。

 サヴィル・ロウ・ビスポーク協会もまた、ロンドンのニューナムカレッジと組んで、テイラリングのコースを設けてきました。これまでに200人以上の学生が卒業していますが、うれしいことに、現在のコースには、これまでで最多の学生が学んでいるのです。学生は卒業とともに第一級の資格証明書を得たら、協会のメンバーのもとで働く見習い実習生として志願することができるようになっています。そのメンバーの多くは、サヴィル・ロウで仕事に就いている人たちです。

 私にとって、この制度は、長年、人々に伝えようとしてきたことを証明するものでもあります。工芸技術の重要さです。現代のテクノロジーはすばらしいものではありますけれど、にもかかわらず、職人の熟練技術だけが生み出すことのできる品質証明つきの製品の需要が、海外、とりわけ東南アジアで、高まる一方なのです。

 こうした徒弟制度は、イギリスの職人の技能の最高水準が無事に保たれ、次世代へと確実に引き継がれていることを保証するものでもあります。これは世界のほかの国々では途絶えてしまったものゆえに、いっそう貴重なものであります。しかも、ほかの利点もあります。

 そのような伝統技術の獲得とともに、テイラリングの仕事が扱う自然素材に対する熱い関心が高まってくるのです。スーツに用いられる素材は主にウールなのですが、このウールという素材は、なにものにも代えがたい貴重な特徴をもつ奇跡的な素材です。合成繊維のほうが清潔で安価だという世間の誤解がありますけれど、私はこの誤解を正しながら、ウールのすばらしさを説いてまいりました。

 この間違った偏見のせいで、世界でも最もよく働く農民たちの経済状況が危うくなっています。ウールからの稼ぎよりも、羊の毛を刈ることにかかるコストのほうが、はるかに上回ってしまっているのです。ウールはこんなにもすばらしい素材なのに。

 ウールの生産のほうが、地球にやさしいのです。使う燃料ははるかに少なくて済みますし、化学繊維をつくるときに使われる有害な化学物質の類いも要りません。出るゴミも少ないのです。それなのに、羊の群れは少なくなっており、さらによろしくないことには、農家が牧羊そのものをやめ始めています。

 その結果、牧羊コミュニティに頼ってきた地域の経済が、壊滅的な影響を受けています。私が2010年に「キャンペーン・フォー・ウール」を開始したのは、ほかならぬその状況を憂慮してのことです。ウールがいかに驚異的な自然素材であるのか、そのすばらしさに脚光をあて、ウール推進のキャンペーンを始めることにしたのです。

 ウールは600℃まで耐えうる難燃性の素材です。だから、特殊な化学物質を加えなくとも、厳しい衣料安全基準を満たすことができます。また、ウールは、発汗を自然に吸収し、発散させることができます。羊の毛だったときと同様、衣服になったときにおいても、これは極めて機能的です。いずれの場合においても、ウールはべたつくことなく水分を吸収し、外界からの刺激を遮ってくれます。

 テイラーにとっては、スーツを作るのにすぐれた素材なのですが、それは、ウールがナチュラルなドレープを生むからです。ウールは、天然の伸縮性と弾力をもった、極めて細い繊維でできています。合成繊維でこれに匹敵するものをつくることは困難です。だから私はずっと、なぜ科学者たちが高いお金をかけて新しい人工素材を開発しようとするのか、さっぱりわからないでいます。天然素材としてはるかに効率よく手に入れられるのですから。しかも地球を痛めつけることもありません。

 私が始めた「キャンペーン・フォー・ウール」が、すぐにこの業界に関わるすべての方面、つまりウール生産者から、第一線で活躍するデザイナー、メーカーに至るまでですが、そんなあらゆる方面の方々から支持を得たことに、非常に勇気づけられました。世界の主要な商社も、メーカーに対してウールの可能性に再注目しようと呼びかけに賛同してくれました。

 さらに、ハイストリートで消費者に直接訴えかけ始めるキャンペーンが始まった時、私は深い満足を覚えました。記念すべき例をひとつ挙げると、2010年、サヴィルロウが青々しい牧場に様変わりし、牧羊と牧羊犬がディスプレイされたのです。

「キャンペーン・フォー・ウール」は、トップランクの英国テイラーだけを視野に入れているわけではありません。私自身、オーストラリアやニュージーランドを訪問したとき、メリノウールが、その独特の柔らかく繊細なドレープを上手に生かされている製品例を目にしてきました。ファッション衣料だけではなく、驚くほど弾力があって軽いアウトドア衣料やスポーツ用衣料においても使われているのです。そして、ここが大切なのですが、自然は、世界が必要としない有害物質は生み出したりはしないのです。

 先日、ブラッドフォードにあるウール工場を訪れたとき、洗浄工程に出る副産物がどのように生かされるのかを見せていただきました。洗浄工程では、ウールから獣脂を取り除きます。この獣脂には、多くの使い道があるのです。燃料、魚のえさ、そして天然肥料に至るまで、です。

 フランス人は靴について語るとき、印象的な言い回しを使うことがあります。”Ca fait un bon pied”、「それはよい足をつくる」というのです。結局、もしあなたが私に、よいシャツやよいスーツはいったい何をつくるのかと聞くならば、こう答えましょう。それは望みうる最高の美しい姿をつくるばかりではなく、あなたが「しっくりと感じる」助けをしてくれる、と。

 気持ちにフィットせず、それゆえ、一日中、なにかしっくりとこないと思わされるような新しいシャツやジャケットを、いったい私たちはどれだけ着てきたでしょうか。しかしながら、イギリスの職人技術がつくる高い水準の服は、多くの時間、時に極めて困難で苦しい状況においても、「しっくりと感じる」ことができるような手助けをしてくれるのです。

 だからこそ私は、来るべきブリティッシュ・ファッション・カウンシルのイベントが、英国製の服に携わるデザイナーやメーカーの自信をいっそう深める機会となることを願ってやみません。これまでずっと、彼らの熟練技能が、かくも長い間、私たちの自信を深めてくれました。今度は、私たちが支援するのです。





























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