拘置所で被告に接見した際、被告の写真撮影が認められなかったのは弁護士業務の妨害にあたるとして、東京の弁護士が国に対し、およそ1000万円の損害賠償を求める訴えを東京地裁に起こしました。
訴えによりますと東京弁護士会所属の竹内明美弁護士(37)は、今年3月、国選弁護人として海賊事件を担当した際、東京拘置所で自称・ソマリア人の男の被告に
接見しました。その際、男が体調不良を訴え、男の写真を撮影したところ、職員に制止され(職員が写真の消去を求めた)、竹内弁護士が応じず、接見も中止させられたということです。
弁護団によりますと、警察署内では、弁護士が接見中の被疑者を撮影して写真が裁判で証拠として採用された例もあるということです。このため、弁護団では東京拘置所に抗議しましたが、逆に、弁護士会へ懲戒を請求されたということです。
竹内弁護士は「被告人の利益にとって重要な証拠を保全する行為は、弁護士の当然の活動だ。接見中の被告への写真撮影を禁止する法的根拠はない。拘置所には考えを改めてほしい」として、国を相手取り、およそ1000万円の損害賠償を求める訴えを
東京地裁に起こしました。
法務省は「訴状が届いていないので内容を承知していないが、適切に対処したい」とコメントしています。
刑事弁護を担当する弁護士が拘置所で被告と接見(面会)する際、写真やビデオを撮ることは許されるのか。「弁護活動に欠かせない」と訴える弁護士と、「誰であっても撮影は禁止」という拘置所の間でトラブルになるケースが増えている。言い分は平行線のままで、訴訟になる例が出てきた。
「証拠があれば、残そうとするのが当然。撮影を禁止される根拠はない」
東京拘置所(東京都葛飾区)で接見中の撮影を止められた東京弁護士会の竹内明美弁護士は12日、「接見交通権を侵害された」として国に慰謝料1千万円を求める訴訟を東京地裁に起こした。同様の訴訟は今年6月にも福岡地裁小倉支部で起こされている。
竹内弁護士は今年3月、体調が悪く車いす姿の外国人の被告と接見した際、勾留の中止を求める可能性があると考え、デジタルカメラで撮影した。小窓からのぞいて気付いた拘置所職員から消去を求められたが、拒否したところ、接見を中止されたという。
接見交通権は、弁護士が職員の立ち会いなしで容疑者や被告と面会し、書類や物を受け渡しできる権利で、刑事訴訟法に規定されている。日本弁護士連合会は「撮影も接見交通権の範囲内。メモや絵より正確で、弁護活動に必要不可欠だ」との見解だ。裁判員裁判で、接見時の様子の録画をもとに医師が診断書を作成し、被告に責任能力がないと認められた例もある。
だが、法務省は「刑事訴訟法には、撮影してよいとは書かれていない」と反論。共犯者との口裏合わせに使われる恐れがあるなどとして、各拘置所は面会室への撮影機器の持ち込みを禁じている。
日弁連や法務省の統計はないが、接見時の撮影をめぐるトラブルは近年、各地で増加。カメラが小型化し、持ち込みが簡単になったことも影響しているようだ。拘置所側はこうした状況に歯止めをかけようと、撮影した弁護士には懲戒を請求する姿勢も見せており、弁護士側は「弁護活動の萎縮を狙ったものだ」との批判を強めている。
■接見中の撮影をめぐる最近の主なトラブル
・2010年2月 弁護士が被告を撮影したとして、京都拘置所が京都弁護士会に撮影禁止の申入書を送付
・12年2月 福岡拘置所小倉拘置支所で「職員から暴行を受けた」と主張する被告の傷を弁護士が写真撮影し、職員が消去を要請。弁護士が6月に提訴
・同年4月 被告の病状を撮影し、法廷で写真を示したとして、東京拘置所が弁護士2人を懲戒請求
・同年5月 皮膚疾患がある被告の写真を撮影し、治療を求めた弁護士に対し、大阪拘置所が写真の消去を要請
(日本弁護士連合会調べ)