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少女ホラー漫画家が明かす生活保護より悲惨な日常ーあなたの仕事はシュリンク(委縮)していないか

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――『怪奇カエル姫』著者・神田森莉さんのケース

◆「働いてもちっとも楽にならない」あなたの仕事はシュリンクしていないか

「働いても働いても、生活が楽にならない」

 それは気のせいではない。日本の多くの業界は今、先が見えない「構造不況」の暗闇の中にいる。

「失われた20年」と呼ばれる景気停滞が続き、ここ数年はリーマンショック後の消費低迷、欧州危機に端を発する深刻な円高などにより、多くの企業は業績不振に陥っている。苦境に輪をかけるのが、グローバル化や規制緩和による競争の激化だ。

 市場が早いスピードでシュリンク(萎縮)する一方、生き残り競争は熾烈になっていく。将来的には、少子化や人口減少により、この傾向はさらに強まるだろう。もはや、景気循環だけによる苦境ではない。構造的な「負のループ」が始まっているなか、事業モデルの転換が求められている。

 シュリンクする業界で働く人々にとって、業績アップ、収入増、労働環境の改善などを目指すことは難しい。このまま構造不況が続けば、会社員ならリストラ、個人事業主なら廃業の憂き目に遭いかねない。

 そんななかでも、他人と違うアイディアを考案したり、誰も気づいていないビジネスを見出すことで、必死に生き延びようとする人はいる。「経済環境が悪いから、どうにもならない」「会社が悪い、上司がダメだ」と身の不遇を嘆くだけでは、沈んでいく一方だ。

 この連載では、シュリンク業界で絶望し、起死回生を図るビジネスマンや個人事業主の生の姿を描くことを通じて、私たちがビジネスで心得るべきヒントや教訓を考えていく。

 あなたは、生き残ることができるか。

◆今回のシュリンク業界――漫画

 出版業界の市場規模は約1兆8000億円(出版科学研究所調べ)。インターネットの普及、紙媒体離れなどにより、市場は縮小傾向にある。社員数が数十人の小規模・零細企業が多いのが特徴。『出版年鑑2010』(出版ニュース社)によると、全国に約3900社ある出版社の中で、従業員数が10人以下の会社は全体の半数を超える。

 漫画ビジネスは、落ち込みが激しいジャンルの1つ。全国出版協会の調査によると、コミック誌の推定販売額(取次ルート)は13年連続のマイナスとなっている。読者の志向の多様化、購入の不定期化により、「売れ線」が見極めづらくなったため、競争が激化している。

 漫画家、デザイナー、カメラマンなどの個人事業主(フリーランス)が多数ひしめいているのも、このビジネスの特徴。その多くは収入が減少しており、40歳になる前に廃業する者も多い。

◆「不整脈が出るほど忙しかった」少女ホラー漫画の人気作家は今――。

「ここ数年は、作家としては死にかけ。瀕死の重傷。嫁が稼いでいなかったら、生きていけない。もう、ヤバイ状態よ……」

 カルト系ホラー漫画の描き手として、マニアの間で根強い人気の神田森莉(かんだ・もり)さん(48歳)が、静かな口調で語る。

 1989年、25歳を過ぎた頃、『ラヴィアン』(笠倉出版)で漫画家としてデビューした。翌年から売れ始め、2〜3作目で雑誌の巻頭や表紙を描く。

 1990年代には、少女ホラー漫画のブームに乗り、ブレイクするかに思われた。この時期には、単行本として『怪奇カエル姫』『37564(みなごろし)学園』『少女同盟』(共にぶんか社)などを矢継ぎ早に発表した。

 神田さんが見せてくれたのは、手垢のついたノート数冊。90年代当時の月毎の売上や経費が書かれてあった。売上は多い月で七十数万円、少ないときは二十数万円。年収は、毎年500万〜700万円を推移していた。

 アシスタントは多いときに5人で、時給制だった。時給1000円で、月の半分くらい仕事を依頼していた。神田さんの月の売上の半分ほどは、アシスタントに支払う経費に充てられた。

「忙しかった。疲れて、不整脈が出るほどだった」

 神田さんは、こう当時を振り返る。

◆500〜700万円の年収が100万円台に 場合によっては生活保護を下回る?

 それから十数年が経った。今、月の平均収入は手取りで10万円ほど。雑誌の連載と自身が運営する電子出版社「ハムスター商事」発行の電子出版物などの販売によるものだ。

 連載は、中小出版社が発行する中高年向けの官能雑誌(月刊誌)で1本のみ。1ページの値段は1万5000円で、5ページを担当。計7万5000円だが、源泉徴収をされると手取りは6万円ほどになる。

「ハムスター商事」では、過去の作品を月に数本のペースでホームページにアップロードし、ブログ、フェイスブック、ツィッターや、さらにGoogle+などで案内し、販売する。売上は月平均で4万円。内訳は電子書籍が2万円ほどで、アフィリエイトが約2万円だ。これらを合わせて、月10万円の定期収入となる。

 さらに不定期だが、風俗情報のサイトを運営する会社から依頼を受ける。インターネットということもあり、原稿料は雑誌に比べると安い。1ページ4000円で8ページを描く。売上は3万2000円。年に4回くらい描くので、計13万円ほどだ。

 こうして稼いだ年収は、120万円から150万円を推移している。同世代の一般的なサラリーマンの年収よりかなり低い。また、東京都区部に単身で住む30代の生活保護受給者を考えると、彼らの年間受給額は最大で150万〜160万円ほど。神田さんの年収は、場合によってはそれさえ下回ることもある。

◆崖っぷちなの……。ここでなんとか、踏ん張りたい

 私は他人事ではない気がしつつも、疑問を投げかけた。

「漫画家にしろ、ライターにしろ、雑誌での連載は会社員で言えば、毎月の給与の基本給に当たる。これが6万円では、生活できないのではないか」

 神田さんは、独り言のように答える。

「だから、崖っぷちなの……。なんとか、踏ん張りたいんだけど……」

 40歳が見えてきた10年ほど前から、仕事が減ってきた。5年ほど前に月の売上が20〜30万円になり、ここ数年で10万円に落ち込んだ。

 なぜ、売上がシュリンクするのか――。聞きにくいことだが、尋ねてみた。神田さんは数秒考え込んだ後、答えた。

「同期(89年デビュー)の人は、この業界で見なくなった。40歳を過ぎると、仕事がガタガタと減っていく。大手出版社の有名雑誌で活躍するメジャーな人は別だけど……」

 私は、溜め息が出た。厳しい競争社会においては、ブレイクすべきときにしないと後々苦しむことになるという現実が、ひしひしと伝わってくる。だが、大多数の人はそもそもブレイクすらできない。

 今度は、「編集者は40代以上の漫画家を使うことを敬遠するのか」と聞いてみると、こう答えた。

◆やはり、伸びしろがある人を起用するものでしょう……。

「やはり、伸びしろがある人を起用するものでしょう……。ベテランは、原稿料が高い。それに、作品をたくさん描いてきて、新鮮味がない。双方のレベルが同じような場合、編集者は若い人を選ぶ可能性が高い。逆に言えば、出版社は今の時代も、人を育てようとはしているんだろうね」

 私は疑問に思った。漫画を発行する出版社はそこまで明確な考えを持って、外部のスタッフを育成しようとしているのだろうか。神田さんは答えた。

「漫画家を育てようとする発想は、出版社(漫画を主力商品としている会社)にはまだある、と俺は思うけど……。90年代に自分も育てられたから……」

 私には、腑に落ちないものがあった。「出版社性善説」に聞こえるのだ。そこでさらに尋ねてみた。そもそも漫画雑誌の編集者は、漫画家の力量を見抜くことができるのか、と。

 神田さんは苦笑いをする。そして「(答えるのが)難しいところだね……。カルトの雑誌で長い経験のある編集者ならば、ある程度、わかると思う」と話した。

「編集者から、『雑誌に俺の作品を載せると販売力が弱くなる』と言われたことがある……。この人はわかっているな、と思った(苦笑)」

 今度は“主戦場”であるコミック誌について聞いた。

 冒頭で述べたように、漫画ビジネスにおいてはコミック誌の落ち込みが激しい。2008年秋に起きたリーマンショック以降、その傾向は一段と顕著だ。

 神田さんは、「それでも漫画雑誌に描かないと、他に収入がない」と言う。ここが、ブレイクできていない漫画家やライターにとって苦しいところなのだ。

 ある程度ブレイクしていないと、出版社から「作品をまとめて1冊の本にしませんか」という依頼はまず来ない。そこで、とりあえずは雑誌に描くことで「いつか、この作品が本になれば……」と期待する。

 しかし、知名度の低い雑誌で描いたとしても、単行本にはなかなかならない。それでもわずかな収入を得るために、その雑誌で描く。「このままでは破綻する」とわかっていながらも、前進せざるを得ない。

◆俺は、メジャーのレベルに達することはできない

 また疑問が湧いてきた。ホラーの雑誌だけではなく、他のジャンルを扱う雑誌で描くことはできないのだろうか。神田さんは「考えたこともあるけど、俺の路線では移りにくい」と言う。「もともと、多くの漫画家があまり描かないようなところで、少しひねくれた内容の作品を描いてきたから……」

 ここにも、シュリンクする一因がある。確かに、神田さんはカルトのジャンルで一定の活躍をした。ブレイクしていれば、そこで多少の資金と時間が手に入る。それらを基に、一段と大きなステージで活躍する体制をつくるべきだったのだろう。つまり、生き残りのための「貯金」である。神田さんは、ブレイク寸前まで行った90年代中頃が、「貯金」をするチャンスだったように思う。だが、仕事が多く、忙しさのあまり、生き残り策を考える余裕はなかったのではないだろうか。

 本人は言わないが、作品の量産体制をつくろうとした形跡はある。アシスタントを5人抱え、フル稼働で作品を描き続けた時期がある。

 実は、多くの個人事業主や小さな会社の経営者は、この構造の中で喘いでいる。環境の変化を感じ取っても、小資本であるがゆえに日々の仕事に追われ、新たな方向に舵を切ることができないのだ。

 神田さんによると、主要な漫画雑誌で連載を描くことができるのは、上昇傾向にある若手か、メジャーな人なのだという。これは私の考えであるが、大半の雑誌では連載の枠(ページ数)や執筆者のレベル(ブランドや実績など)は、予め決まっている。その枠をめぐり、ライターや漫画家などの間で争奪戦が繰り広げられる。その競争は雑誌の数が減っているだけに、一段と激化している。さらに、首尾よく連載を掴んだとしても、そこから単行本になるとは限らない。たとえ本になっても、原稿料や印税は10年ほど前に比べると、さほど変わらない。

「メジャーとはどのような漫画家をイメージしているか」と聞くと、神田さんは「たとえば『バガボンド』(井上雄彦)かな……。うまいよね。画力だけではなく、総合力が高い」と答えた。

◆大きな舞台に登る漫画家は肯定的 自分が描く場を強引につくっていく

 私は尋ねた。神田さんも一時期、メジャー雑誌に登場した。なぜ、その勢いが失速したのか――。「力がなかったんでしょうね。そこで長く活躍する人は力もあるし、物事を肯定的に捉える傾向があるように思う」と神田さんは答える。「メジャーな雑誌で描く場を強引と思えるほどにつくり、活躍していく。そのうちの何人かは、さらに大きな舞台に上がっていく。彼らを見ていると、強気に考え、自分を成長させていくことは大切なのだなと思う。自分には、それがない」

 また、「押しが強いだけではない」とも分析する。活躍を続ける人は、少なくとも2つの点で他の漫画家を圧倒しているようだ。その1つが画力である。「彼らが描く絵は素晴らしい。普通の力量のレベルでは、なかなか描けない。俺は、あのレベルに達することはできない」

 もう1つは、自分が描きたいものを持っていて、それが実際に売れるテーマであること。多くの漫画家は「これを描きたい」といった思いはある。だが、売れないのだという。

◆長く続けられることも力量の1つ 漫画の世界で生き残れるのか?

 私は、疑問に感じた。優秀であれば、競争社会で生き残れるのだろうか――。これは大学受験などの発想であり、ビジネスの現場では幻想だと思う。ビジネスは常に相対評価である。会社員でも個人事業主でも、力量、実績、伸びしろ、年齢、性別、他のライバルとのバランス、上司や担当者との相性などが総合的に判断され、その人の評価や扱いが決められていく。この考えをぶつけると、神田さんは答えた。

「画力が俺よりもはるかに優れていても、プロになれないアシスタントはたくさんいた。運もあるよね。プロになった後、出版社とトラブルになり、消えた人も数え切れない。ある先生(巨匠の漫画家)いわく『文句ばかり言っている奴は消えていく』。活躍する漫画家は、メジャーな雑誌で何年にも及ぶ連載を描いている。トラブルなく、連載を長く続けることも力量の1つなのだろうね」

 聞きにくいが、尋ねた。「月収10万円、年収100万円台で生きていくことができるのか」と。シュリンクのスパイラルにいったんハマると、小資本の個人事業主が抜け出すことは容易ではない。「そのことへの危機意識が乏しいのではないか」とも投げかけた。

 神田さんが黙る。いや、この人は口惜しい思いもしているのだろう。そんな目をしていた。そこで、奥さんのことを聞くと、こう説明した。

「嫁が、古本屋を5年前に下北沢(世田谷区)で始めた。店長というか、創業経営者なの……」

 今は従業員が2人いる。創業経営者によく見られるとおり、厳しいよ。仕事への姿勢も従業員への教育も……(苦笑)。俺も時折、従業員として働くけど、怒られてばかり……(苦笑)。古本の仕事は奥が深い。わからないことが多い」

 私は、こんな言葉を投げた。月収10万円の夫を支える妻は、世の中に少ない。三行半を突き付けられても仕方がないのではないかと。

 神田さんがまた黙った。「夫である自分は何をしているのか」という自責の念なのだろうか。沈黙が続く。

◆古本屋を経営する妻は何倍も稼ぐ このまま終わりたくはない――。

 夕食は、神田さんがつくることが多い。「不味そうなごはん」として、ブログなどで画像を交え、紹介している。お勧めは、「ワイルドなピーマンご飯」とのこと。
 私は話をそらそうと思い、尋ねた。「奥さんの収入はいくらなのか」。従業員が2人いて、下北沢で店を構えるレベルならば、奥さんの収入と神田さんのそれとは大きな開きがあるのではないかと思った。神田さんは、「確かに、俺の何倍も稼ぐよね……」とやや小さな声で話す。「あの店で働くのは、肩身が狭い……(苦笑)」

 2時間に及んだ取材の中で唯一、無表情になった瞬間だった。私が「それにしても、いい奥さん!」と繰り返すと、「うん……」と言ったままだった。漫画家としての起死回生策を聞くと、ぽつりと答えた。「今は、古本屋の従業員になっていく流れにある。現実的に……物理的に……。ここでなんとか、留まりたいとは思っているんだけどね」

 古本屋での奥さんと神田さんや、他の従業員らとの物語を漫画にしたらどうかと提案すると、神田さんは「嫁からも、そのように言われる」と答えた。「物語ではなく、死闘になる気がするけれど……(苦笑)」

 私は、ここに漫画家・神田森莉の復活があると思った。この人が描く、古本屋の夫婦物語を読みたくなった。人間関係が激しくきしむ時代に2人で支え合い、それぞれの夢を追う物語である。そこに、何かが見えてくるように思える。

◆「シュリンク脱出」をアナライズする

 神田さんのシュリンクは避けられない。漫画雑誌の部数下落、自身の年齢といった分厚く高い構造不況の壁がいくつもあり、乗り越えることは難しい。自称「シュリンク・アナリスト」の筆者が、リベンジ策を考えてみた。

1.古本屋の従業員として“シュリンク”している自分を売り込め

 今の神田さんにとって、奥さんの存在は命綱である。神田さんとしては様々な思いがあるのかもしれないが、当分は奥さんの経営を支えることが大切ではないか。古本屋の経営が行き詰まると、神田さんの収入で一家を養うことはできないだろう。神田さんが働くと、漫画を描く時間が少なくなる。その意味では、一段と収入が減るかもしれない。だが古本屋で働けば、一家としては利益が増える。その重みを踏まえたい。

 そして、店で「漫画教室」を開き、漫画家志望や漫画が好きな人を集めたい。その場で自身の作品をさりげなく、売り込もう。古本屋には、奥さんのアイディアで神田さんの作品が置いてある。これを神田さん自身がなりふり構わず売り込むのである。夫婦のいじらしい姿が、いずれ下北沢の名物となり、『下北沢・古本屋夫婦物語』として話題を呼ぶ。そんな将来を信じ、前進すべきである。大切なのは、シュリンクする生活や人生そのものを隠さず、それをウリにすること。

 シュリンクの構造から抜け出すことに、見栄やプライドは要らない。

2.電子出版をやる前に考えるべきことがある!

 神田さんは、インターネットで電子出版を行なっている。販売するのは、これまでに描いてきた作品。この試みは、ライター、作家、評論家などが有料メールマガジンで自らの記事や作品を発表し、それで収入を得る構造と似ている。そのような作家、評論家などは、一定のブランドがあるがゆえに、この戦略が通用する。しかし、神田さんにそのブランドはない。それでは、悪循環に陥ってしまう。たとえば、月に数本の作品をアップロードする際、1作品につき2日間の作業を強いられるという。月平均で4本の作品をアップするとなれば、この作業だけで8日が消えていく。それに対して、電子出版の収入は月に2万円前後。アシスタントを雇う余裕はない。さらに雑誌の唯一の連載を描くのに1週間ほどが費やされる。古本屋で働いたり、フルタイムで働く奥さんに夕食をつくったりもする。これではあまりにも効率が悪く、本来最も重視すべき新しい作品を書き下ろす時間がとれなくなってしまう。結局、過去のヒットしていない作品を電子出版化せざるを得ない。それでは、売上は増えない。皮肉だが、「シュリンクを加速させるサイクル」になりかねない。

 今の路線を継承した上での電子出版ならば、起死回生は難しい。そこで私は、これまでの作品のスタイルを大胆に変えることを提言したい。『下北沢・古本屋夫婦物語』を、小説にして書けないものか。神田さんは、過去に小説を書いている。本人いわく「漫画よりも売れた」とのこと。市場が神田さんに求めるものは、実は「漫画ではなく小説」なのかもしれない。試してみる価値はありそうだ。

 シュリンク構造を抜け出す1つの策は、市場や読者の声に謙虚に、素直に耳を傾けることなのだと思う。




















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