17日間の熱戦の末、ロンドン五輪で、史上最多38個のメダルを勝ち取った日本選手団が20日、東京・銀座で凱旋パレード。
「なでしこー!」「キタジマー!」。赤いブレザーに白いズボンの正装姿の選手らが乗った赤い2階建てバスが姿を見せると、50万人の観客から「ウオー」「キャー」と、オリンピックの試合当日さながらの大歓声が大通りに響き渡った。
「コースケー! コースケー!」
休暇を取ってパレードの始まる3時間前の午前8時からゴール付近の最前列近くに陣取った新宿区の会社員、畑山佑(ゆう)さん(31)はバスが通りかかるや、大声で北島康介選手の名前を連呼しアピール。呼び声に気づいた北島選手は、ガッツポーズをするように手を大きく手を振り上げて応えていた。「こっちに気づいてくれて目があった。テレビで見ても、間近に見てもやっぱり格好良すぎる」
一方、内村航平選手は金メダルを取ったときと同じように、口の右端を少し上げた得意な様子の“ドヤ顔”で手を振っていた。畑山さんは「ロンドンと同じ。パレードでも内村選手らしさが出ていた」と興奮気味に話した。
千葉県浦安市から訪れた会社員、早川琴美さん(30)は女子サッカーの青い日本代表のユニホームに着替え、「なでしこー」と声援を送った。手に日本の旗を持ち、バスの上に並んで手を振るなでしこジャパンのメンバーに「おめでとー」と声をからした。「ほんの一瞬しか見ることができなかったけれど、ずっと応援してきたから今日も来てよかった。沢(穂希)選手はバスの逆側にいてみえなかったけど、川澄(奈穂美)選手を間近で見られて満足です。テレビで見るよりも断然かわいかった」と黄色い声をあげつつも、「これから出社しなきゃいけない」と大急ぎで帰路についていた。
人波にもまれる中、母親に連れられ、一生懸命に背伸びして手を振った埼玉県川口市の市立小6年、佐藤息吹(いぶき)君(12)は、夜なべしてテレビ中継で応援し続けたお目当ての入江陵介選手を間近で見て大興奮。入江選手はさわやかな笑顔で手を振る姿に、「背があんなに大きいなんて、パレードを間近に見ないと分からなかった」と一層憧れを募らせた様子だった。佐藤君は入江選手に影響を受けて、夏休みにプールへ通い、50メートルだった自己記録を伸ばして100メートルを泳げるようになったという。
レスリングで3度目の金メダルに輝いた伊調馨選手は少し照れた笑顔で、控えめを手を振っていた。休暇を取って訪れた千葉市の会社員、福田夕希さん(28)は「戦ったら無敵の伊調選手がすごく女の子らしくてすてきだった。笑顔もメダルもまぶしいくらい」と満面の笑顔を浮かべていた。
顔全体に日の丸をペイントした都内の男子大学生3人組は、始発電車で銀座に駆けつけ最前列に。「(競泳の)寺川(綾)選手や(卓球の)カッスー(石川佳純選手)がこっちを見て笑ってくれた」と満足げだった。
日本選手団旗手を務め、前人未到の五輪3連覇を果たしたレスリングの吉田沙保里選手は先頭付近を走るオープンカーから手を振った。豊島区の千葉高夫さん(52)は「テレビで見るより小柄。あんな小さな体でよく頑張ってくれた」と目を細めた。
雑誌でモデルを務めるなど“イケメン”として名高い競泳の入江選手。練馬区の中山サエコさん(38)は「テレビではきれいな男の子というイメージだったけど、日の光の下では精悍(せいかん)だった」と新たな魅力に酔いしれていた。
銀座の中央通りは約50万人の観衆で、足の踏み場もないほど。箱根駅伝やプロ野球の巨人軍の優勝パレードなどにも利用されるが、CDショップの店員は「私が知っているなかでは最大の人出」と話す。
あんパンで有名なパン店「銀座木村屋」は76人のメダリストにちなんで、あんパンと菓子パンの詰め合わせを限定76セット用意し、リーズナブルな価格で提供したところ、わずか30分で完売。「パレード効果はありがたい」とうれしい悲鳴。
冷たいアサヒビールが飲める期間限定ビアホール「エクストラコールドバー」にはパレード後、炎天下から避けようとする観客らが長い列。「夕方オープンを午前10時に前倒しして、良かった」と喜んだ。
一方、1869年創業の老舗衣料品店は観衆の多さから、パレードが通過するまで一時閉店を余儀なくされた。従業員の大古場(おおこば)千春さん(33)は「これほど人が集まったので仕方がない」と、店から脚立を持ち出して自分もパレードを見物した。
沿道にあふれかえった人で「店のドアを開けることができなかった」というワインショップの店員は「(パレードは)ありがたいのと…、迷惑の半々です」と肩すかしをくった様子だった。