尖閣諸島へは「日本の領土だから日本人が行っていいのは原則だ。他方、政府関係者以外には認めないという運用がある」(山口壮副外相)ということらしい。上陸を禁止しているのは「棚上げ論」によるものだともいう。尖閣諸島は架空の話しはともかく日中にとって何ら経済的利益のない場所である。だから棚上げするしかない場所に対して泥試合をする必要性はない。一方で、どうしても上陸したい人はいるのかも知れない。そうしたことは、そのつど、「自衛隊も含めて警察力のバリエーションを考えなければいけない」(長島昭久首相補佐官)で対応すればいいだけである。
日本側に主権があり、相手に非があるからといって、激昂することは絶対禁物である。これが日本人は苦手である。事件は事件として処理すればいいのだが、激昂した者はそうはいかない。彼らが必ず口にするのが「弱腰、へっぴり腰、舐められてたまるか」などの感情的対応であり、それは主権の侵害への対応としては、もっとも稚拙なやりかたである。
■尖閣国有化、7割超賛成=オスプレイ不支持58%―時事世論調査
尖閣諸島(沖縄県石垣市)の国有化を目指す野田政権の方針について、73.7%が賛成していることが時事通信の世論調査で分かった。反対は10.8%だった。尖閣をめぐり日中両国が対立する中、日本政府の方針に幅広い支持が集まっていることが裏付けられた。
調査は、中国領有権を主張する香港の活動家が尖閣諸島に上陸する前の9〜12日、全国の成人男女2000人を対象に個別面接方式で実施した。有効回収率は63.5%。
東京都の尖閣諸島購入計画を批判した丹羽宇一郎駐中国大使に関し、自民党などが求める更迭の是非を尋ねたところ、「更迭の必要はない」(39.8%)が、「更迭が望ましい」(34.7%)をやや上回った。
一方、米海兵隊の垂直離着陸輸送機MV22オスプレイの米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)への配備をめぐり、「安全性が確認できれば沖縄配備を認めるとする政府方針」について聞くと、「支持しない」が57.8%で、「支持する」は32.5%にとどまった。
■沖縄・尖閣諸島、日本人上陸 日中、過熱を懸念
尖閣諸島(沖縄県石垣市)を巡り日中両国で国内の動きが過熱している。香港の活動家らの上陸に対抗するかのように、19日には日本の地方議員らが上陸。中国ではデモが各地で拡大する。ただ両国政府は双方ともこれ以上のエスカレートは避けたい考え。日本政府は対応に苦慮しつつも沈静化に努める構えで、中国政府も注意深くデモのコントロールを図っている。
◇日本側ー主権か配慮か、板挟み
「日本の領土だから日本人が行っていいのは原則だ。他方、政府関係者以外には認めないという運用があり、昨日、(慰霊祭を行った議員連盟などに)上陸を見合わせてくれと伝えていた」。山口壮副外相は19日、東京都内で記者団にこう明かし、政府の悩ましい立場をにじませた。
今回の日本人上陸は政府にとっては想定外だった。議員連盟は太平洋戦争末期の遭難事件の慰霊祭を開くとして、事前に上陸許可を申請。現在尖閣諸島を借り上げている政府は、日中関係への影響を考慮して許可しなかった。だが直後に、香港の活動家ら14人が魚釣島に上陸して逮捕される事件が発生。今回の日本人上陸の背景には、強制送還された14人が中国内で「英雄視」されていることへの反発もあるとみられる。
中国側の上陸に「厳正に対処する」(野田佳彦首相)と強い姿勢をアピールしていた政府は、国内の強硬論にも一定程度配慮せざるを得ない。民主党の前原誠司政調会長も19日のテレビ朝日の番組で、日本人上陸について「気持ちは分からなくはない」と指摘した。
しかし、表立って容認すれば、日中関係をさらに悪化させる。また日本は尖閣諸島を実効支配しており「領土問題」として焦点化するのは得策ではない。
首相官邸には19日、桜井修一官房副長官補(安全保障・危機管理担当)が登庁するなどして情報収集にあたったが、抑制的な対応にとどめ、当面は海上保安庁などの調査を待つ構えだ。あくまで管理者(政府)の許可を取らずに上陸した国内問題として淡々と対応する。藤村修官房長官は香港の活動家らの上陸事件で海上保安庁が撮影したビデオについても「領海警備に支障が生じる」として公開に慎重だ。沈静化を図る立場で一貫している。
ただ、中国で尖閣問題への熱が高まったのは、7月に日本政府の国有化方針が表面化したのが発端だった。今回の問題を受け「中国はまた何か(対抗措置を)せざるを得なくなる」(政府関係者)と懸念も出ている。
実際、強制送還された香港の活動家らは10月に再上陸を計画しており、政府は再発防止策の検討を急いでいる。山口氏は同日のNHK番組などで「断固として防ぐ。次に起きることが同じだと思ってもらいたくない」と述べ、罰則強化などを示唆して中国をけん制。自民党の高村正彦元外相も、同番組で「全面的に応援する」と同調した。
政府・民主党は、海保の体制強化などの検討を進める方針だ。前原氏は「海保は一生懸命がんばっており、士気も高い。どういう形でバックアップするかが大事だ」と指摘した。一方、首相が7月の国会答弁で自衛隊出動の可能性に言及したこともあり、政府内では「(中国の船が増えてきた場合)自衛隊も含めて警察力のバリエーションを考えなければいけない」(長島昭久首相補佐官)との声も出ている。
◇中国側ーデモ、統制しつつ容認 不満吸収に苦慮
尖閣諸島に上陸した香港の活動家らが強制送還されたものの、中国国内には日本への不満は根強く、当局は反日デモを事実上容認した。このためデモの動きは急激に広がり、20都市以上に及んだ。ただ、政府は不満の矛先が自らに向かう事態は避けたく、日本側の出方を探りながら、不満をどう吸収するか苦慮している。
国営新華社は17日、強制送還を「中日関係の悪化を回避する賢明な対応」と評価する論評を配信。一方、東京都の石原慎太郎知事による尖閣諸島の購入表明などを念頭に「釣魚島の問題で極右勢力の声を容認し続けるなら日本は誤った危険な道を歩むことになる」と警告していた。
背景には、指導部の世代交代が進む秋の共産党大会を前に社会の不安定化要因を取り除きたいという思惑がある。強制送還を受けて当局は事態の沈静化を図る方針だったとみられ、ネット上のデモの呼びかけは強制送還後、次々と削除された。
ただ活動家らが強制送還されても国内では「尖閣諸島が日本の実効支配下にある事実は何も変わっていない」と、不満がむしろ拡大したといえる。18日には陝西省西安で数百人規模の反日デモが発生、19日には日本人の尖閣諸島上陸が広く伝えられたため、当局も一定の範囲内でデモを容認する姿勢に転じざるを得なかったようだ。
当局は事態収拾を図っているが、ほころびも出始めている。四川省成都では、10年の反日デモで襲撃されたイトーヨーカ堂の周囲を武装警察が囲み、デモ隊の襲撃を防いだ。だが広東省深センではデモは暴徒化して無秩序状態となったため、武装警察が出動して沈静化させる事態になった。
一連の中国政府の対応に国内で「弱腰だ」との批判が高まっている。上海の日本総領事館前で抗議活動をした湖南省の男性(24)は「香港の活動家が果敢に上陸したのに、中央政府はコメントを発表しただけ」と訴える。だが、北京の日本大使館前では抗議グループが「釣魚島に治安部隊を派遣するよう政府に要求する」と要求を掲げたとたん、公安当局者が追い払った。
■「県外移設」が招いた民主空白 「どこまで沖縄県民をばかにしているのか(衆議院議員・瑞慶覧長敏)」
8月13日朝、那覇市の南東に隣接し、沖縄県で唯一海に面していない南風原(はえばる)町で、白のランニングシャツ姿で街頭演説をする国会議員がいた。民主に離党届を提出し除籍された衆院沖縄4区選出の瑞慶覧長敏(ずけらんちょうびん)だ。
ランニング姿は6月から始めた。有権者の反応は必ずしも芳しくはないが、13日からはランニングシャツを新調し、胸に「闘う」と印字した。
離党を決めた理由は、野田政権がマニフェスト(政権公約)にない消費税増税法を通したことだけではない。米軍普天間飛行場(宜野湾市)の県外移転断念と垂直離着陸輸送機MV22オスプレイの沖縄配備への抗議の意志を示すためだ。
瑞慶覧は街頭で「民主はどこまで沖縄県民をばかにしているのか」と訴えた。
民主を見捨てた政治家がもう一人いる。沖縄3区選出の玉城デニーだ。民主は7月9日、社会保障・税一体改革関連法の衆院採決に反対し離党届を出した37人を除籍処分にし、この中に瑞慶覧や玉城も含まれる。この結果、沖縄の民主国会議員はゼロになった。
瑞慶覧と玉城は平成21年の衆院選で初当選した。2人とも当時の民主代表、小沢一郎の後押しを受けた。しかし玉城が除籍後、小沢が結成した「国民の生活が第一」に入ったのに対し、瑞慶覧は無所属でいる。
「自衛隊による沖縄防衛は必要だ」とする玉城と、反自衛隊を掲げる地域政党「沖縄社会大衆党」(社大党)の委員長を務めた父、長方(ちょうほう)の影響を受ける瑞慶覧との違いとされる。
その2人がそろって打ち出しているのは「米軍基地県外移設」と「既成政党打破」だ。
「小沢先生から『1日50回の辻立ちをしろ』と言われているんです」
玉城は、小沢が「日常活動」と称する地元活動を忠実に守ろうとしている。9月下旬には小沢を地元に招く。民主でも自民でもない「第三極」の候補者として認めてもらう“戦い”は続いている。
果たして民主は次期衆院選に候補者を擁立することができるのか。6月に行われた沖縄県議選(定数48)。民主から当選したのは県連代表、新垣安弘だけだった。新垣は「党本部が普天間の県外移設を主張する人物を公認するだろうか」と悲壮感を漂わせる。
民主の最大支持団体である連合沖縄も「瑞慶覧、玉城の民主離党は心情的に理解できる。衆院選で民主が候補を立てるのは困る」(幹部)と語る。そこには沖縄ならではの複雑な事情が暗い影を落とす。
もっとも自民党も厳しいことに変わりはない。
平成22年の参院選で、自民公認の島尻安伊子は普天間の「県外移設」を訴え当選した。県政与党として県知事、仲井真弘多に歩調を合わせるためだったが、党本部は名護市辺野古への移設を推進。ダブルスタンダードという指摘は免れない。県議選で自民は改選前の14議席から1減らした。
その県議選で1議席ながらも増やしたのは社民党と社大、国民新だった。連合沖縄の最大勢力の自治労が社民支援に回ったとされる。社民は勢いに乗って、次期衆院選で3区に候補者擁立の検討を始めた。共産も前回は見送った4区に候補者を立てる方針だ。そうなると、瑞慶覧と玉城がいう普天間の県外移設の主張はかすむ。
新垣は沖縄の今後について「民主に代わって伸びるのは自民でなく左派勢力だ」とみる。「県外移設」を公約にし、政権にいながらも実現できなかったツケが重くのしかかる。