飲料業界大手のキリンビバレッジが2年連続でシェアを落としている。
2011年の販売シェアは10%弱でアサヒ飲料に抜かれ、5位に転落した。かつて首位コカ・コーラ、2位サントリーとともに3強の地位にあったが、10年に伊藤園に3位の座を譲り、さらに後退を余儀なくされた。「売れ筋のお茶や水が弱いアサヒにまで抜かれるとは」。業界関係者からは、驚きの声が聞こえる。
背景にあるのは、前田仁社長が進める収益重視の戦略だ。シェアを取りに行く他社と異なり、キリンは不採算の販売先を絞り、利益を優先している。だが、その営業利益も、「11年度は販促費を削った効果が出る程度で、大幅増益は期待できない」(アナリスト)とみられる。
前田社長は、キリンビール時代に次々とヒット商品を生み出してきた実力者だ。主力銘柄の「一番搾り」をはじめ、発泡酒「淡麗」、缶チューハイ「氷結」など、数々の看板商品を開発し、「キリンの宝」とまで言われている。
その前田氏がキリンビバレッジに送り込まれたのは09年のこと。他社との価格競争に押され、利益を急速に落としつつある中で、再建を託されての登板だった。
就任直後、「あの前田さんが社長をやるのは脅威」(大手飲料メーカー幹部)と、競合他社も警戒を強めていた。だが、10年度の営業利益は84億円と低迷前の07年度の約半分。かつての水準まで回復させる道筋はついていない。
前田社長が再建に手こずる一因とみられるのが、成功してきたビール業界と、飲料業界との競争環境の違いだ。
4社寡占のビール業界では近年、各社は安売りを回避する方針で一致している。
一方、飲料業界は100以上のメーカーがひしめく。「とにかく量が重要な世界。量が出なければ、棚を維持できなくなる」(前出の飲料メーカー幹部)。従来との戦い方の違いに、前田社長が戸惑っている可能性はある。
そんな中、1月の事業戦略説明会では、拡大戦略への転換を発表した。12年の目標販売量は前年比9%増と、4位アサヒの4%増より強気の数値。低迷する「生茶」をリニューアルし、牽引役に据える。前田社長は「利益管理できる体制が整ったため、増収による増益を目指す」と、次の段階への移行を強調した。
だが、他社の見方は「数量を求めれば、価格競争は必至。『シェアも利益も』とうまくはいかない」と冷ややかだ。
キリンホールディングス次期社長の最右翼と目されてきた前田氏。ここに来て、正念場を迎えている。
(12/02/09 東洋経済オンライン「キリンビバレッジが飲料業界5位に転落、カリスマ社長に重圧」より)