Quantcast
Channel: Boo-HeeのHoppingブログ
Viewing all articles
Browse latest Browse all 2229

年金のブラックホールを抱えた米国地方財政 デトロイト破綻で追随も 年金受給者とウォール街の対立も先鋭化

$
0
0

 ビッグスリーに代表される米国自動車産業の不振とともに数十年にわたって衰退し続けたデトロイト市が、とうとう破綻した。米国18番目の都市である同市の負債総額は180億ドル規模(約1兆8,000億円)といわれており、米国の地方自治体の破綻としては最大のものとなる。

 今後は市に残された資産をめぐって、市から年金を受給している、あるいは受給予定の多くの人々と市が発行する債券の債権者の間のバトルが先鋭化すると予想される。

 デトロイト市の人口は1950年代のピーク時の200万人から今日、70万人にまで減少しており、近年では市の日常業務の運営に必要なランニング・コストや年金・医療保険といった長期負債のファイナンスも借り入れに頼るようになっていた。

 20世紀はじめのデトロイト市はイノベーションに沸く今日のカリフォルニア州のシリコン・バレーのような場所だった。同地で組織された全米自動車労働組合は長年にわたり、他の産業の労働者の賃金や福利厚生に対するベンチマークを提供してきた。また、1960年代のデトロイトは多くのポップ音楽の発信地でもあった。

 ホワイトハウスの報道官は、「大統領と官邸チームはデトロイト市の状況を注意深く見守っていく」と述べた。


 米中西部にあるミシガン州デトロイト市の財政破綻を受け、地方自治体の財政への警戒が強まっている。格付け会社が警鐘を鳴らし、地方債の利回りに上昇圧力がかかっている。公務員年金の債務拡大に有効な対策がうてるかが焦点だ。

 デトロイト市の連邦破産裁判所は24日、同市が申請した連邦破産法第9条の適用を認めるかどうか審理を始めた。10月中旬にも最終判断を下す。裁判所の審理に先立ち、同市の年金基金は、財政破綻に伴う年金給付の削減はミシガン州法に違反すると主張し、同市を訴えた。24日の審理で破産裁判所は、同市への訴訟を停止するよう命じ、年金基金の訴えを退けた。


 デトロイト市の破産手続きの焦点は、公務員の年金給付に切り込めるかどうかだ。

 デトロイト市を拠点とするゼネラル・モーターズ(GM)の経営が金融危機後にV字回復したのは、米連邦破産法11条の適用で年金債務や医療費負担など「レガシーコスト」(負の遺産)を一掃できたことが大きい。

 これに対し、公務員は雇用契約どおりに年金や医療費を受給する権利が法律で手厚く保護されている。制度見直しには法改正が必要だが「法律面の不透明性が高い」(米連邦破産裁判所のクリストファー・クライン判事)うえに、利害関係者の合意も難しい。このため、地方自治体は財政が悪化しても年金給付の削減に踏み切れずにいた。

 教育や警察・消防などの公的サービスへの支出を削っても財政健全化には限界があった。

 格付け会社のムーディーズ・インベスターズ・サービスが最近、イリノイ州シカゴ市の格付けを一気に3段階引き下げたのも年金債務問題が理由だ。カリフォルニア州ロサンゼルス市の年金基金も「積み立て不足が300億ドルに上る」(米運用会社ニューオーク・キャピタル)。膨大な年金債務に苦しむ地方自治体はデトロイトやシカゴ以外にも多いというのが専門家の見立てだ。

 米コンサルティング大手のウィルシャー・アソシエーツによると、全米の州政府が公務員向けに運営する109の年金基金の積み立て不足額は2012年には8342億ドルに上った。11年比で2割強増えた。

 08年の金融危機後、年金資産総額は回復しつつあるが、それを上回るペースで将来の年金給付債務が膨らんでいる。このほかに、市などの地方自治体が運営する年金基金の年金債務も膨らんでいるようだ。

 著名アナリストのメレディス・ホイットニー氏は、デトロイト市破綻の裁判所審理が、反発の強い公務員の年金給付削減に切り込む最初の例になるとの見方を示した。デトロイト市の破産手続きが「ひな型」となり、年金債務に苦しむ地方自治体が続々と破産申請に動く可能性があるという。

 デトロイト市の破産管財人に任命された弁護士のケビン・オーア氏は14年秋までの早期解決を目指す。市場関係者の間では「破産の法的手続きの完了には数年かかる」(ムーディーズ)と長期化を予想する声も多いものの、デトロイト市の動きには単に同市の財政問題にとどまらない意味合いがありそうだ。

 デトロイトだけではない。米国の都市と州政府は約束する内容を減らさない限り、惨事に見舞われることになる。

 3年前にギリシャが財政難に陥った時、問題はすぐに広がっていった。多くの観測筋は当惑した。ギリシャのような小国が一体どうして大陸規模の危機を引き起こせたのか? 

 ギリシャは、長年にわたり借金で贅沢な暮らしをしてきた脱税者の国としてステレオタイプ化された。ポルトガル、イタリア、スペインは、自国の財政は根本的に健全だと主張していた。ドイツは、これらの国と自国にはいったい何の関係があるのかと首をかしげていた。しかし、その感染力は強く、欧州経済はいまだに回復していない。

 米国はデトロイト市の破産申請について、同じような現実否認に陥っているように見える。多くの人は、モータウン(自動車の街デトロイトの通称)はあまりに例外的なケースのため、他の地域への教訓はほとんどないと考えている。

 一時は全米第4位の人口を誇る都市だったデトロイトは概して、たった1つの産業のおかげで豊かになった。ゼネラル・モーターズ(GM)、フォード・モーター、クライスラーはかつて、米国で売られる自動車をほぼすべて生産していた。それが今では、労働組合がない州で生産される海外ブランド車との競争のせいで、3社のシェアは全体の半分以下になっている。

 1950年以降、デトロイト市の人口は6割減った。殺人事件の発生率は全米平均の11倍に上る。元市長は刑務所に入れられている。潅木や雑草、アライグマが人けのない地域を取り返した。デトロイトが小さく、貧しくなった今、市が大きく、裕福だった時代に積み上がった債務は返済不能だ。

 他の州や都市は注意を払うべきだ。といっても、こうした州などが来年デトロイト市のような末路を迎える恐れがあるからではなく、デトロイト市は米国財政というダッシュボードの上で点滅している警告ランプだからだ。

 デトロイトの問題のいくつかは同市特有のものだが、決定的に重要な問題はそうではない。

 全米各地の多くの州政府や市政府は、年金と医療保険に関して守れない約束をした。デトロイトは、自治体の首長が公的部門の改革をあまりに先送りし過ぎた時に何が起こり得るかを示している。

 デトロイトの債務の半分近くが、定年退職時に市職員に約束されている年金と医療保険によるものだ。全米の州や都市は一般的に、勤続年数と最終給与に基づく確定給付型年金を職員に与えている。こうした年金は、年金支払いの目的で確保されている基金によってカバーされることになっている。

 各州自身の試算では、州の年金基金は給付義務の73%しか積み立てられていない。これでも十分ひどいが、ほとんどの州は年金債務に楽観的な割引率を適用しており、債務が実際より小さく見えるようになっている。もっと慎重な割引率が適用された場合、実際の積み立て比率は48%という恐ろしい数字になる

 多くの州は、それよりはるかにひどい状況に陥っている。イリノイ州の年金基金の積み立て不足は、同州の年間税収の241%に相当し、コネティカット州ではその割合が190%、ケンタッキー州では141%、ニュージャージー州では137%となっている。

 最近のある調査によると、各州政府の年金積み立て不足の合計額は2.7兆ドルで、国内総生産(GDP)の17%に上る。この数字は、市政府の年金積み立て不足と退職した政府職員全員に約束された医療給付を除外しているため、問題を過小評価している。デトロイトの場合、医療給付の費用(57億ドル)の方が年金の積み立て不足(35億ドル)よりも大きかった。

 この問題の一部は、喜ばしい傾向の不幸な副作用だ。デトロイトでさえ米国人は長生きするようになっており、年金受給者に対する約束を守るために必要な費用が増えているからだ。だが、この問題には政治的な面もある。州知事や市長は長年、公務員に手厚い年金を与え、それにより現時点で彼らの票を買い、未来の納税者にそのツケを回しているのだ。

 首長らは驚くべき乱用も容認してきた。一部の官僚は退職直前に昇進したり、長時間の残業を許されたりして、生涯受け取る最終給与比例方式の年金額を引き上げている。また、公務員組合はインフレ率を大きく上回る年次生活費調整を勝ち取っている。ロードアイランド州の監視団体は、例えば退職した地元の消防署長が100歳まで長生きした場合、年間80万ドル受給することになると推計している。

 カリフォルニア州では、退職した公務員のうち2万人以上が10万ドル以上の年金を受給している。

 地方自治体や州政府の問題の後始末には時間がかかる。状況は場所によって大きく異なるが、会計操作をやめることが格好の出発点になるはずだ。この問題の大きさをはっきりさせて初めて、政治家は有権者に犠牲を払う必要性を納得させられる。

 公務員の退職年齢は引き上げるべきだ。また、州政府は、拠出金によって受給額が決まる確定拠出型年金制度への移行を急ぐ必要がある(民間部門では、確定拠出型年金が標準だ)。既に発生した年金給付は守られなければならないが、将来発生する年金給付は法的に可能な限り、減らすべきだ。

 問題に取り組むのが早ければ早いほど、解決は楽になる。1967年に新規採用者に対する最終給与比例方式の年金制度の適用を廃止したネブラスカ州は、財政が健全だ。

 しかし、遅かれ早かれ、こうした問題の一部は首都ワシントンに行き着くことになる。デトロイトでは先日、年金削減を認めない州法よりも連邦破産法を優先されるとする判決が下された。だが、この問題は再び持ち上がり、最高裁に持ち込まれるまで真の決着を見ないだろう

 デトロイトのような都市の多くが過去の約束の一部を破らねばならないのは確実であり、破って然るべきだ。また、多くの債務のブラックホールの大きさを考えれば、州政府か連邦政府が救いの手を差し伸べなければならないかもしれない。

 納税者は無責任な地方政府やリスクを知っているべきだった投資家を助けるべきではない。しかし、全く非がないのに支給を絶たれる年金生活者は助けるべきだ。州政府や自治体の職員の中には、連邦社会保障制度に加入する資格がない人もいて、こうした人は雇用主が約束した年金しか受け取れない。その約束が果たされない場合は、彼らが少なくとも基礎年金を受け取れるようにする安全装置がなければならない。

 道徳的に振る舞ってきた州や都市に住む米国人は、ドイツ人が南欧にユーロが向かうことに激怒しているように、自分たちが払った税金がデトロイトや他の困窮している地域に流れることに腹を立てるだろう。だが、米国の公的部門全体がまだ財政のおとぎの国にいるというのが実情だ。

 米国政府は財源を賄う確かな計画が存在しない様々な「給付金」を与えている。バラク・オバマ氏はこの問題に対して何も手を打たなかった大統領としてジョージ・ブッシュ前大統領の仲間入りを果たそうとしており、米議会の共和党員は増税せずに財政を均衡させられると思い込んでいる。米国政府は多くの先進国よりも医療費にカネを使っているのに、まだ皆保険を実現していない。

 米国のダイナミックな民間部門が、改革されていない巨大機構を背負っている。デトロイトはその兆候の1つに過ぎない。

















Viewing all articles
Browse latest Browse all 2229

Trending Articles