白いご飯におかずときたら、味噌汁も欲しくなる。塩分の過剰摂取による高血圧症や心臓病につながるとして敬遠する向きもあるが、最近の研究によると、あまり心配しすぎる必要はなさそうだ。他の方法で食塩をとるよりもむしろ高血圧症などのリスクは低いという。食欲増進効果などの利点もあり、夏バテ対策になるかもしれない。
塩分を取りすぎないようにと、味噌汁を残したり具だけを食べたりする人も多いのではないだろうか。一般的な味噌汁の濃度は約0.5%。約200ミリリットルのおわん1杯あたりの食塩摂取量は約1グラムとなる。
厚生労働省の食塩の摂取量基準は健康な男性が1日9グラム未満、女性が7.5グラム未満。味噌汁1杯で基準の1割を超える。しかし大豆の発酵食品である味噌は様々な成分を含んでおり、塩分とあいまって体内でどのような作用をするか詳しく分かっていなかった。
共立女子大学家政学部の上原誉志夫教授はラットに味噌汁を飲ませ、同じ濃度の食塩水を与えた場合と血圧や腎臓、心臓の状態を比べた。食塩を与えると血圧が上がる性質を持つラットを使った。
味噌汁を約2カ月間飲ませたラットと、1.3%の食塩水を与えたラットを比べた。味噌汁の食塩濃度も1.3%に合わせた。実験終了までの食塩摂取量の合計は味噌汁を飲んだラットが約48グラム。食塩水の方は約40グラムだった。
血圧はともに徐々に上がったが、味噌汁を飲んだラットの血圧は食塩水のラットを常に下回った。味噌汁のラットの最終的な血圧は、食塩水のラットが計32グラムの食塩を摂取した時の血圧にほぼ相当していた。上原教授は「30%の食塩をカットした効果がある」と分析する。
味噌汁は同じ濃度の食塩水より、尿がよく出るようにする利尿作用が強いことも判明。水分と塩分の両方が体外に排出され、血圧が上昇しにくくなったとみている。加えて、味噌汁の成分が血管を広げる作用を持つ可能性もあるという。心臓の筋肉細胞が硬くなってしまう「線維化」という現象も、食塩水を摂取する場合より進行が遅かった。
味噌汁には、高血圧の人が食塩を摂取した時に起きやすい心不全の予防効果も期待できるのだろうか。九州大学医学研究院の伊藤浩司特任講師は高血圧にしたマウスに味噌汁を飲ませて実験した。
心不全の引き金をひく交感神経の活性化は、食塩水の場合に比べ起きにくいことが分かった。交感神経の活性化に関連した脳の視床下部の働きは、味噌汁のマウスの方が小さかった。また、味噌汁を飲んだマウスの心臓のポンプ機能は食塩水のマウスに比べ良好だったという。
ラットやマウスは体重が小さく、実験の結果がそのまますべて人間に当てはまるとは限らない。国立循環器病研究センターの小久保喜弘・予防健診部医長は、大阪府吹田市の約2200人を対象に食事調査を実施。味噌汁を飲む頻度と高血圧症の発症リスクとの関係を調べている。こうしたデータがそろえば、味噌汁と健康とのかかわりがより正確に分かると期待している。
小久保医長は「高齢者や高血圧と診断された人は小食でたんぱく質が不足しがち。大豆のたんぱく質を含む味噌汁をうまく取り入れれば不足分を補える」との見方を示す。女子栄養大学の五明紀春副学長は「ご飯とおかずに液体料理である味噌汁が加わることで、食べ物を食べやすくなり食が進む」と指摘する。
では、味噌汁の適量とはどのくらいなのだろうか。共立女子大の上原教授は「1日1杯くらいがちょうどよい」とみる。濃い味が好きなら、味噌を大量に入れるのではなく「だしをうまくとれば塩分が強いように感じられる」と管理栄養士の古川知子・女子栄養大講師は勧める。かつお節を味噌こしに押し込み、沸騰直前に1分ほど湯に浸して引き上げるだけでも味わいが豊かになるという。
また、なすや大根、じゃがいもなど季節の野菜を切って入れればうまみが加わるだけでなく、不足しがちな野菜を多くとれる。
味噌汁以外にも、上手に味噌をとる方法はある。古川講師はヨーグルトに味噌を溶いたドレッシング、温めた豆乳に味噌を入れたスープ、ホワイトソースと味噌を合わせたグラタンなどを挙げる。塩の代わりに味噌を使ってしょっぱさを出す工夫で、料理の世界も広がりそうだ。
《本》
◆季節の味噌汁やその作り方を紹介
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《インターネット》
◆味噌と健康とのかかわり、料理のレシピなどを知るには
全国味噌工業協同組合連合会「みそ健康づくり委員会」のホームページ(http://www.miso.or.jp/)