米国が米中央情報局(CIA)を通してシリアの反体制派への武器の提供を計画していることが、2人の米当局者の話から明らかになった。米国が提供を予定しているのは小型武器と弾薬で、さらに対戦車兵器を提供する可能性もあるという。
オバマ政権は13日、シリアのアサド政権が反体制派に対して化学兵器を使用し、越えてはならない一線を越えたと断定し、シリア政府軍との戦闘で劣勢にある反体制派への軍事支援の強化を表明したが、支援の具体的な内容は明らかにしていない。
2人の当局者は、現在、小型武器と弾薬に加えて対戦車兵器の提供も検討されているが、対空砲火の提供は見送られる公算が高いとしている。
ローズ米大統領副補佐官(国家安全保障問題担当)は記者会見で「米政府は(反体制派への)支援の規模と範囲を拡大する」と述べたが、支援を行う時期や支援内容については言及を避けた。また、オバマ大統領がシリアへの米軍派遣の可能性を否定したことも明らかにした。
またシリア政府軍が化学兵器を使用し、少なくとも100人以上が死亡したとする米国の主張にロシアが疑問を抱いていることについて、ローズ氏は、使用されたと見られる神経ガスのサリンのサンプルなど「説得力のある」証拠をロシア政府に提供したと述べた。
さらにローズ氏は、オバマ、プーチン両大統領は17日、主要8カ国(G8)首脳会議出席のために訪れる北アイルランドで首脳会談を行い、その中でシリア問題についても議論する見通しであることを明らかにした。
■アルカイダが入手画策 化学兵器問題で英首相
英国のキャメロン首相は14日、ロンドンで記者会見し、シリア内戦での化学兵器使用問題について「われわれが得ている情報によれば、国際テロ組織アルカーイダ系のグループが、シリアで使用するため化学兵器の入手を試みたことが分かっている」と、この問題に対する緊急な取り組みの必要性を訴えた。
シリア反体制派への武器供与についてキャメロン氏は、まだ具体的には実施時期などを決めていないことをあらためて強調。反体制派の訓練などを継続しアサド政権への圧力を強めていく方針を示した。
一方でキャメロン氏は、オバマ米政権がアサド政権による化学兵器使用を確認したことを歓迎した。
■ロシア 米の軍事支援に反対表明
アメリカ政府がシリアでアサド政権が化学兵器を使用したと結論づけ、反政府勢力に対して直接的な軍事支援を行う方針を明らかにしたことについて、ロシアのラブロフ外相は、アメリカのケリー国務長官に対して、戦闘の拡大を招くとして反対する考えを伝えました。
ロシア外務省の発表によりますと、ロシアのラブロフ外相は、14日、アメリカのケリー国務長官との間で電話会談を行い、この中でアメリカ政府がシリアのアサド政権がサリンなどの化学兵器を反政府勢力に対して使用したと結論づけたことについて、「信用に足る事実に裏打ちされていない」と指摘しました。
そのうえで、アメリカ政府がシリアの反政府勢力に対し、直接的な軍事支援を行う方針を示したことについて、「この地域で戦闘を拡大することにつながる」と述べて、反対する考えを伝えたということです。
こうしたなか、ロシア大統領府は、14日、来週の17日にイギリスで開かれるG8サミット=主要国首脳会議に合わせて、プーチン大統領とオバマ大統領が首脳会談を行い、この中でシリア情勢を中心に協議する見通しを示しました。
アメリカとロシアは、アサド政権と反政府勢力の双方の代表が出席する国際会議の開催を計画していますが、ここに来てアメリカと、アサド政権に対して武器輸出を進めてきたロシアの立場の違いが、より顕著になっていて、今後、両国が足並みをそろえていくことができるのかが焦点となっています。
アメリカ政府が、シリアでアサド政権が化学兵器を使用したと結論づけたことについて、EU=ヨーロッパ連合は声明を発表し、重大な懸念を表明したうえで、「国連がシリアに派遣を決めた調査団が調べることの重要性を示している」として、アサド政権に対して調査団を受け入れるよう改めて求めました。
そのうえで、「政治的な解決に向けた国際社会の取り組みを加速する必要がある」として、アメリカとロシアが主導して調整を進めているアサド政権と反政府勢力の双方が出席する国際会議を早急に開く必要性を強調しました。
■国連事務総長と露、米のシリア反体制派支援に反対
シリアで続く内戦で政権側が化学兵器を使用したとして、反体制派への軍事支援の強化を米政府が誓約したことについて、シリアの同盟国ロシアと国連(UN)の潘基文(パン・キムン、Ban Ki-moon)事務総長は14日、軍事支援は内戦終結にはつながらないと批判した。
またシリア政府当局者は、バッシャール・アサド(Bashar al-Assad)政権が化学兵器を使用したとする米国の発表について、「うそだらけの声明」だと反論している。
潘事務総長は、27か月にわたり内戦を続ける政権側と反体制派側のいずれに対する武器供与も「助けにはならない」と述べた。「どちらの側に対する武器供与も、現在の状況への対処にならないとの考えを、常に明確にしてきた。そのような軍事的解決はない」
シリアに関する和平会議の開催に向け米国と協力してきたロシア政府もまた、米国の姿勢硬化に失望感を示した。露政府は、米国の化学兵器に関するデータは「説得力がない」と述べ、米国が故サダム・フセイン(Saddam Hussein)大統領の大量破壊兵器保持という偽りの告発でイラクに進攻した過ちを繰り返さないよう、警告した。
ウラジーミル・プーチン(Vladimir Putin)露大統領とバラク・オバマ(Barack Obama)米大統領は、北アイルランド(Northern Ireland)で17日に開かれる主要8か国(G8)首脳会議に臨む予定。
米政府は13日、情報機関からの報告を基に、アサド政権がサリンなどの化学兵器を使い最大150人の反体制派戦闘員を殺害したとの結論に達したと表明。米当局者らは、反体制派への武器供与やシリア上空での飛行禁止空域の設定の可能性を除外することを拒否したが、米政府が反体制派の組織「最高軍事評議会(Supreme Military Council)」に対する支援を決定したと述べている。
■「北朝鮮、シリアに化学兵器の製造技術を移転」外交消息筋が語る
北朝鮮は、シリア政府が化学兵器を開発する上で決定的な役割を果たしたといわれている。事情に詳しい外交消息筋は14日「北朝鮮は1990年代半ばからシリアに化学兵器関連の技術者を派遣し、薬剤の合成方法や化学兵器散布用の弾頭製造技術を移転した」と語った。
この消息筋は「北朝鮮は最近も、化学兵器の生産に欠かせない真空乾燥炉をシリアに輸出したことが分かった。北朝鮮がシリアの化学兵器生産施設に対するアフターサービスを提供し続けていることを示す状況証拠は多い」と語った。真空乾燥炉とは、液状の化学物質を粉末にするため使用する装置で、化学兵器の生産には欠かせない。同じく北朝鮮は2009年11月、核・生物・化学(NBC)防護服約2万着など化学兵器関連物資を貨物船に積んでシリアに送ろうと試みたが、ギリシャのピレウス港で摘発され出港が差し止められた、と日本メディアが報じている。一方、米国ホワイトハウスのベン・ローズ国家安全保障会議(NSC)副補佐官は13日、電話でのブリーフィングで「米国の政府機関は、シリア政府軍が昨年、反政府勢力に対し数回にわたってサリンガスを使用し、少なくとも100−150人が死亡したと判断している」と語った。外交消息筋は「政府軍が使用した化学兵器は北朝鮮の技術支援で生産された可能性が極めて高い」と語った。