景気の長期低迷が続くなか、「働く意欲」を失った人が世界全体で約2700万人にのぼっている。国際労働機関(ILO)が3日発表した2013年版の世界労働報告で試算を示した。企業業績はリーマン・ショック前の水準に戻っているが、新規採用はさほど増えておらず、失業が長期に及んだ結果、就労をあきらめる人が増えているためとみられる。
世界労働報告によると、世界全体の失業率は07年の5.4%から12年に5.9%に悪化した。15年までの2年間で世界の失業者は630万人増えると推計され、失業率は6.0%で高止まりする見込みだ。欧州を中心とする先進国、東南アジアや中南米で失業の増加が予想されており、失業率が改善するのは東欧やアフリカのサブサハラ(サハラ砂漠以南)などに限られる。
政策対応が取られない場合、世界の失業者は14年に約2億500万人、15年には約2億780万人に膨らむと予測。とりわけアジア地域で失業者が増えるとした。
ILOは失業期間が長引き、就労を断念する人が増加していることにも注目している。就職活動はやめたが、就労を望んでいる人を勘案すれば失業率はさらに高くなると考えられるからだ。
世界労働報告によると、就労者に、働く意欲のある人を加えた「労働力率」は12年時点で60.0%。リーマン・ショック直後の09年から0.5ポイント低下した。労働力が維持された場合に比べて、約2700万人が働く意欲を失った計算となる。
労働力率は17年にかけて59.7%となり、さらに低下する見通しだ。
ILO国際労働問題研究所のトレス所長は3日に記者会見し、「長引く景気低迷が(労働力率低下の)最大の要因だ」と表明した。さらに「景気回復の兆しが見えても金融危機(の記憶)が負の遺産として残り、企業が新規採用に動かない」と指摘。企業の採用抑制が長期の失業を通じて就労意欲を衰えさせていると分析している。
ILOは、経営陣と労働者の間での所得格差も問題視。例として、07年から11年の間にドイツでは労働者の平均収入と経営者の収入の差が155倍から190倍に広がったことを挙げた。米国は大きく変動していないが、すでに収入格差の倍率は508倍に達する。ストックオプションなどの報酬体系の導入で企業が短期の収益確保に走り、新規採用などの人的な投資を怠った影響がうかがえるという。
雇用の悪化は、若者らによる抗議デモを通じて政情不安につながる懸念がある。ILOによると、失業率が大幅に上昇する欧州連合(EU)では社会不安指数がリーマン・ショック以前から12ポイント悪化した。その他の先進国や中東でも社会不安が高まっているという。