内閣府の有識者検討会は28日、駿河湾から九州沖の深さ約4千メートルの溝「南海トラフ」を震源域とする巨大地震への対策をまとめた。最悪の場合に死者32万人、経済被害220兆円と推計される被害をできるかぎり減らすため、官民が広域で対策をとるための法整備が必要だと指摘。国や自治体が役所や病院を計画的に高台に移したり、企業がサプライチェーン(供給網)を複数化したり、官民挙げた防災・減災への取り組みを求めた。
最終報告は、南海トラフ地震の予測可能性について「規模や発生時期の確度の高い予測は難しい」と指摘。予知を前提としない新たな防災体制の検討が必要だとした。
南海トラフ地震で震度7を含む強い揺れと30メートル超の巨大な津波が広範囲で発生した場合、国や自治体の支援が被災地域に行き届かなくなることを想定。国の防災基本計画では食料や飲料水などの家庭備蓄は3日間分を目安としているが、これを1週間分以上に拡大し、地域で自活する備えが必要とした。
発生1週間後に最大950万人の避難者が出るとみられることに対応し、避難所で高齢者、障害者ら災害弱者を優先して救援できるように受け入れの優先順位を検討しておくべきだとした。
津波対策では海岸堤防などハード対策はもとより、行政施設、学校、病院は計画的に高台に移転することを要請。避難施設をつくるのが難しい地域では、住民の同意をえたうえでの集団移転も有効な対策だとした。
ホテルやスーパーなど多くの人が集まる施設に耐震診断を義務付けたり、耐震改修する場合には容積率を緩和したりすることも提言。火災を防ぐため、地震を感知したら通電やガスを止めるブレーカーを普及させることなども求めた。
企業に対しては、生産・サービス活動の低下を最小限にするため、事業継続計画(BCP)を実践することを要請。社員が帰宅困難とならないよう滞在施設整備や食料備蓄なども求めた。
官民で総合的対策を取れば、想定した死者数を5分の1に減らし、経済被害額を半減することも可能だと改めて指摘した。最終報告を受け、政府は法整備を進めるほか、今年度内に「南海トラフ地震対策大綱」をつくる方針だ。