税の話は難しい、と敬遠することなかれ。詳しく知ると、思わぬ節税の裏ワザが見えてくる。『なぜ犬神家の相続税は2割増しなのか』(東洋経済新報社)の著者で、公認会計士・税理士の小澤善哉氏と、元国税調査官で節税に関する著書も多い大村大次郎氏に、目から鱗の節税テクを聞いた。意外な裏ワザがたくさんあるのが医療費控除だ。
1年間で家族合わせて10万円以上の医療費がかかった場合、それを超える金額が所得から控除されるのがこの制度だ。「病院代に10万円払っていないので、知ってはいるが使ったことがない」という人も多いだろう。
だが、小澤氏によると、10万円は「意外と簡単に達する」金額なのだという。それは、医療費として認められる範囲が広いからだ。
まず、医療費控除は保険が利かない自費診療の治療でも対象になる。歯のインプラント手術や、レーシック手術などを受けた人は、治療費が通常10万円を超えるので、ほぼ確実に控除が受けられる。
ただし医療費控除の対象は「治療目的」であることが条件だ。たとえば歯科矯正は、かみ合わせ治療ならOKだが、美容目的はNGだ。保険適用になる治療では、CMなどで話題の禁煙治療も立派な「治療」なので、対象になるそうだ。
また病院に通うための電車代やバス代も、医療費と同じく、控除の対象になる。ガソリン代や駐車場代は認められないが、緊急時のタクシー代などは認められる。ほかには風邪薬、目薬、湿布などの市販薬もOKなので、こまめに領収書をためておこう。
さらに高血圧、リウマチ、糖尿病などの患者で、医師の処方に基づく治療として温泉やスポーツジムを利用した場合、国が指定した一部の施設なら、これも利用料や交通費が控除の対象となる(施設の詳細は厚労省のホームページ参照)。
医療費控除では、誰の所得から控除するかも重要だ。たとえば共働きの夫婦の場合、医療費が10万円を切っていても、所得の少ないほうが医療費を支払ったことにすれば、控除が受けられる可能性がある。
通常、控除額は医療費マイナス10万円で計算される。だが所得が200万円(年収310万円)未満の場合は、医療費マイナス所得の5%となり、10万円を下回る。たとえば夫の所得が400万円、妻の所得が150万円なら、「妻が支払った」と申告すれば、妻の所得の5%である7万5千円以上で控除が受けられるのだ。
逆に10万円を超える場合は、所得の高いほうが申告するとよい。医療費控除によって実際に還付される額は、控除額に、所得税・住民税の合計税率を掛けたもの。合計税率が高い、つまり所得の高い人のほうが、戻ってくる金額は大きい。
「夫婦共働きの場合、どちらの財布から医療費を払ったかは税務署にはわかりません。生計が一緒の家族であれば、節税額が大きくなる人から控除するのがよいでしょう」(小澤氏)
次に家族の税金をみてみよう。扶養親族が1人増えると所得から38万円が控除される扶養控除は、節税の醍醐味ともいえる。「実は税務署員にはこの制度をうまく活用している人が多い」と、大村氏は言う。
「税務署員は普通のサラリーマンより扶養家族が多いという話があります」(大村)
家族を増やすカラクリはこうだ。まず、扶養親族の範囲に注目したい。扶養親族とは「6親等以内の血族及び3親等以内の姻族」と定められており、祖父母やおじ、おば、いとこのほか、かなり遠い親戚も含まれる。しかも、扶養控除は別居している親族にも使えるのだ。たとえば、リタイアして収入がない老親に金銭的な援助をすれば、別居でも扶養に入れられる。
「一般の扶養控除は、同居か別居かにかかわらず『生計を一にしている』ことが適用の条件です。たとえば毎月いくら仕送りをしていればよい、などの基準もありません」(同)