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錦織圭「もっと上を見ている」 積み重ねた自信とベスト8への可能性=全豪テニス

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 錦織圭(フリー)自身はもちろん、日本人男子選手としても初の四大大会シード選手として挑んだ2012年の全豪オープン。その大会で3つの白星を連ねて、まずはベスト16へと進出した。

 シード選手の特権として、今大会は初戦、そして2回戦も自分よりランク下位の選手と対戦した錦織。3回戦では第12シードのジル・シモン(フランス)との対決が予想されたが、そのシモンが2回戦で敗れたため、世界ランキング39位のジュリエン・ベネトウ(フランス)と当たる小さな幸運にも恵まれた。

 だがこのシモンの敗退は、例え錦織がシード選手といえども、3回戦まで勝ち進むのがいかに困難であるかを逆説的に示す証左である。現に今大会、シードを与えられた全32選手のうち、3回戦まで勝ち残ったのは20人。3人に一人は、ランク的には“格下”の選手に敗れたことになり、この事実は男子テニスの選手層の厚さを物語る。それを誰より良く知る錦織は、開幕前から「シードはそれほど自分に有利だとは思っていない。シード外にも強い選手はごろごろ居ますから」と、厳しい表情で口にしていた。


 果たして本人が覚悟していた通り、ベスト16に至る道は険しいものだった。初戦こそ106位のステファン・ロベール(フランス)にストレートで勝ったが、2回戦では地元オーストラリアのマシュー・エブデンに、2セットを奪われ剣が峰に追い詰められる。アウエーとなったアリーナの雰囲気も苦戦の一因であったが、オーストラリアテニス協会(以下TA)による徹底した“データテニス”も、錦織を追い詰めた要因だったろう。

 数年前から選手支援体制を強化したTAは、トップ100選手をあらゆる角度から徹底解析し、それら膨大なデータベースを自国の選手たちに与えているという。「最初は相手に攻められるし、自分から攻めてもカウンターを決められるなど、何をやってもうまくいかなかった」という錦織の試合後の所感も、“丸裸”にされたが故の苦戦を裏付けるものだ。

 だが、苦しみながらも長いラリーに持ち込むことで相手を分析し、錦織は徐々に攻略法を見いだしていく。なかでもサービスコースの読みは素晴らしく、リターンでウイナーを量産しはじめた。こうなると、地力の差がスコアに現れだす。
「ケイは追い詰められてからレベルを上げた。それはトップ選手なら誰もがやることで、自分も適応しようと努めたがダメだった」と、対戦相手が素直に認めるほどの、強者のテニスだった。

 3回戦のベネトウ戦も苦しい試合であり、だからこそ錦織の成長を顕著に浮き立たせる一戦でもあった。試合前から「相手はストロークがいい。我慢が求められる長いラリー戦になるだろう」と予想していた錦織は、自らの言葉を証明するかのように、長いストローク合戦にも気持ちを切らさず、追いつ追われつの展開のなかから、重要な局面でポイントを手中に収めている。

 この「つなぐ場面と攻める局面を見極める」こと、そして「自分はリスクを犯さず、相手に“負けさせる”」ことこそが、錦織が昨年一年間で、重点的に取り組んできた課題であった。そして今の錦織には、自身を世界の24位にまで押し上げた実績がある。第3セットで2−5と追い詰められ、「今日は負けるかな……という考えも何度か頭をよぎった」と言う窮地からの挽回を可能にした心の強さは、昨年終盤に世界ランキング1位のノバック・ジョコビッチ(セルビア)らを破ってきたという、実績に裏打ちされた自信だろう。 

 ベスト16――128人いた参戦選手も次々とふるいにかけられ、その数はわずか一握りに絞られた。錦織にとっては、08年の全米オープン以来2度目の到達点ではあるが、「あの時は夢みたいな気分だったが、今はもっと上を見ている」と、3年前との自身の違いを明言する。


 その見据える未知の領域の扉の前にドンと立ちはだかるのは、4年前の全豪オープン準優勝者のジョーフィルフリード・ツォンガ(フランス)。昨年10月の上海マスターズ、そして今大会の直前に行われたエキシビションマッチでは、錦織が勝利している相手である。

 だが、四大大会の4回戦となれば、それらの過去は大した意味を持たない。

 当然、ツォンガにも油断はない。「ニシコリはフォアもバックも強烈。とても危険な相手だ」とツォンガが言えば、同胞のベネトウは「ケイはバックハンドが強烈で、フットワークもいい。長いラリーになると、どんどん追い詰められてしまう」と敗因を振り返った上で、ツォンガに「フォアで積極的に攻め、ポイントを短く終えるようにするべき」とのアドバイスを送ったという。

 初戦と3回戦でフランス人を破った錦織に対し、国の威信をかけた包囲網が張られた感があるが、相手の出方は錦織にとっても想定内。

「今大会のツォンガの試合を見てきたが、調子がいいしサーブもドカンドカンと入っている。攻撃的にくるだろうから、コーチと相談して作戦を練りたい」と、頭はすでに次の試合へと切り替わっている様子だ。

 昨年末、錦織はトップ10の選手を次々と破りながらも、同時にロジャー・フェデラー(スイス)の早い攻撃の前に完敗を喫し、「もっと自分から攻める必要性も感じた」と口にしている。

 攻撃的に来るだろうツォンガに対し、従来のように多彩なショットと戦術の妙で応じるのか? それとも自らリスクを負い、機先を制しにかかるのか?

 未知の世界への扉を開く鍵は、テニスそのものを次の次元に上げるべく、一歩を踏み出す勇気かもしれない。

(2012年1月22日 スポーツナビ「錦織圭「もっと上を見ている」 積み重ねた自信とベスト8への可能性=全豪テニス」より)




























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