麻薬に似た幻覚や興奮作用を引き起こす「脱法ハーブ」など、これまで法律で規制できなかったドラッグを取り締まる法整備が動き出した。
自民、公明、民主3党が議員立法による薬事法などの改正案を大筋まとめたもので、早ければ今国会中に法案を提出する。社会問題化している違法ぎりぎりのドラッグに対する法規制の第一歩となる。
改正案がまとまったのは、麻薬及び向精神薬取締法と薬事法の2法。厚生労働省が「麻薬など毒性の強い薬物に準じる薬物」をリストアップした「指定薬物」の範囲を来月中にも大幅に拡大し、多くの「脱法ハーブ」が違法となるのに伴い、輸入、製造、販売をめぐる取り締まり体制を強化する。
3日明らかになった法案要綱によると、法改正は、〈1〉麻薬取締官に、麻薬や覚醒剤などに加え、「指定薬物」も捜査対象とする権限を与える〈2〉店にある「指定薬物」の疑いがある商品を迅速に検査・分析できるよう、行政官が強制収用する権限を与える――ことが柱。業者などが提出を拒んだ場合、50万円以下の罰金を科する規定も設ける。
米国では、気分を高ぶらせたり、幻覚症状を引き起こしたりする合成薬物が「バスソルト(Bath Salts)」の名称で出回り、やはり問題になっている。表向きは吸引用でないと断って販売、違法薬物の成分構造を変化させて取り締まりを逃れる手口など、日本の「脱法ハーブ」と状況はそっくりだ。
2012年米メディアで、バスソルトの記事をしばしば目にするようになった。「バスソルト」はそのままなら「浴用塩」。だが、おフロとは関係なく、作った人と使う人がそれと分かる符帳のようなものであるらしい。ネット通販のほか、ガソリンスタンドやコンビニなどで入手できる。“商品名”は「アイボリーウエーブ」や「バニラスカイ」「ブリス」などさまざまだ。小売りの店員が中身が何であるかを知っているとはかぎらない。
脱法ハーブのように、葉っぱに吹き付けて仕上げたりはしない。瓶詰の粉末。ラベルには「口に入れてはいけません」との注意書き。バスソルトでなく、香や肥料として販売されることもある。実態は「吸引してハイになるための薬物」でしかないのだが、表面上は入浴剤であったり、肥料であったりし、事故が起きた場合は、注意書きを無視して吸引した消費者の責任ということになるわけだ。実際、バスソルトを吸引して意識障害に陥り、病院に搬送される人が急増しているという。
synthetic stimulant(合成興奮剤)として知られている脱法ドラッグの「バスソルト」。合成カチノン系とも呼ばれるこれらの合成薬物は、麻薬のカチノンと共通する基本骨格がある。市場ではバスソルトのように入浴剤として販売されたり、ハーブ、お香として合成マリファナが販売されている。
アメリカでも日本同様、2010年から2011年にかけて大量に出回ったこれらの合成覚醒剤を取り締まる動きが加速。2011年2月に、ノースカロライナ州議会は、合成物の所持、販売、配布を禁止する法案を可決し、ケンタッキー州やルイジアナ州も同様の動きを見せた。
事件としては、自殺などの他、2011年1月22日に、一人の男がナイフで自分の胃や顔を何度も刺すという事件が起こっている。バスソルトのアメリカでのピークは6月で、それ以後は法案などの影響で減っていたという。
しかし、5月26日にフロリダ・ゾンビ事件が発生。奇妙なことに、21日にフロリダのパームビーチで倉庫が爆発するという事件があり、そこには脱法ハーブ用のパッケージなどが散乱していて、密造拠点だったことが判明した。映画的には、「その倉庫に出入りしていた男がゾンビ化」となる。
バスソルト系事件は今もアメリカで発生していて、同じ週にニューヨークで17歳の少年がバスソルトなど脱法ドラッグの所持と不法輸送で起訴。使用していた3人が病院に運ばれた。少年らは薬物を乱用していたと見られている。
バスソルトは、日本では平成21年10月21日に指定薬物に指定されたが、実際はヨーロッパやアメリカで「脱法」は繰り返され、指定されたころには次の製品が用意されているという。日本でも同様に「脱法」ノウハウがあり、市場には出回っている。