ボーイング787型機では、これまでにもバッテリーのトラブルが起きています。
アメリカ・ボストンの空港で日本航空の787型機のバッテリーから火が出ました。さらに、16日に緊急着陸した787型機も去年10月にエンジンをかけられないトラブルが起き、バッテリーを交換していました。その時、新たに取り付けたのが、今回、液体が漏れ出したバッテリーでした。
◆リチウムイオン電池は“初採用”
ボーイング787型機のリチウムイオン電池を製造している日本の電池メーカー、「GSユアサ」によりますと、リチウムイオン電池は、従来の電池と比較して、同じ重さでおよそ2倍の電気をためることができるため、ボーイング社の旅客機では、低燃費の実現を目指して開発された787型機で初めて採用されました。787型機のバッテリーは、みかん箱ほどの大きさで、この中に、「セル」と呼ばれる小型の電池が8つ収められています。セルの中には、シート状の、プラスとマイナスの電極が交互に重ねられ、シートとシートの間は電解液と呼ばれる液体で満たされています。GSユアサによりますと、電解液は可燃性の液体で、温度が上がれば発火することもあるということです。電池は、電気をためる「充電」と、ため込んだ電気を使う「放電」の際に温度が上昇します。787型機では、過剰に充電され、温度が過度に高まることを防ぐため、安全装置が備えられ、バッテリーの温度や電圧を常に監視し、異常をキャッチすると充電を自動的に止める仕組みになっているということです。今回、安全装置が作動したかどうか分からないということです。また、エンジンを起動するため、ためた電気を使いますが、この際、温度が上昇しないよう、セルの表面積を広くして、熱を逃がしやすい構造になっているということです。GSユアサは、「バッテリーの安全対策には万全を尽くしている。調査には全面的に協力したい」としています。
◆電池発火考えられる原因は
リチウムイオン電池の発火などの不具合には、どのような原因が考えられるのでしょうか。数年前に相次いだ携帯電話やパソコンの電池の発火事故などを分析した独立行政法人NITE=製品安全センターによりますと、主に2つの原因があげられるということです。
1つ目は、過剰な充電により、電池に詰められた電解液が高温になるケースです。電解液には通常、石油から精製される化学物質などが用いられていますが、温度が上がりすぎると気体の状態になるため、液体のときより、バッテリーが膨らみます。このまま放っておくと爆発の危険があるため、バッテリーは気体を逃す構造になっていますが、この際に発火したり、電解液が漏れ出したりすることがあるということです。
もう1つは、バッテリーを強くぶつけるなどして、プラスとマイナスの電極を隔てる絶縁シートに傷がつくケースです。この場合、バッテリーの中でプラスとマイナスの電極がくっついてしまい、一気に大量の電流が流れて温度が上がり、発火したり、破裂したりするということです。また、この現象は、バッテリーの中にごく小さい金属の粒子などが混入した場合にも起きるということです。
バッテリーの発火は、ほかの種類のものでも起きることがありますが、リチウムイオン電池は、蓄えられたエネルギーが大きいため、発火が激しくなる特徴があるということです。NITEでは、今回のボーイング787型機のトラブルが、同様の原因によるものであるかどうかは分からないとしています。
◆“過剰電流防止が働かなかったか”
17日の調査を終えて、国の運輸安全委員会の小杉英世事故調査官は、「バッテリーは、中のものが炭化し、液体が漏れ出すなどして、もともと28キロ余りあった重量が4.7キロ軽くなっていた。また、バッテリーに過剰な電気が流れるのを防ぐ仕組みが働かなかった可能性もある」と指摘しました。
運輸安全委員会は、18日は、アメリカのNTSB=国家運輸安全委員会や、FAA=連邦航空局の到着を待って、合同で調査を行うことにしています。
米ボーイングの最新鋭機787(ドリームライナー)の相次ぐトラブルを受け、各国の当局が運航停止を指示した。安全が確認されるまで、同機が空を飛ぶことはない。焦点となっているのは、発火や発煙の原因となった最先端のリチウムイオンバッテリーだ。
787はこれまでのボーイング機に比べて電力に依存する機能が多く、大量のバッテリーパワーを必要とする。従来のニッケルカドミウムバッテリーに代わって導入されたリチウムイオンバッテリーは、電力が長持ちして重量も軽いことから、燃費性能が高い。しかし今まで787のような規模で航空機に採用されたことはなく、利用を疑問視する声もある。
これまでに運航されている787型機は50機にすぎない。しかし同機を導入している航空会社では、運航停止の間、損失が出続ける。同機の運航がいつ再開できるのか、そして乗客の安全が保障されるのかどうかが注目される。
航空史の専門家で米ノースフロリダ大学のデービッド・コートライト教授は「大きな混乱が生じ、ボーイングは膨大なコストを負担することになる」と予想する。運航停止が長引くほど、ボーイングや、同機を発注している航空会社に対するプレッシャーは強まる。
米連邦航空局(FAA)は16日に、米国内で運航されている787型機全機の緊急点検を命じた。米航空会社で唯一同機を運航するユナイテッド航空は6機を保有する。耐空検査では、バッテリーからの出火の可能性を調査。もし機内で火災が発生すれば、大惨事につながりかねない。
FAAが特定の機体について、たとえ短期間であっても全機の運航停止を命じるのは極めて異例だ。業界関係者によると、過去には1979年に米国内でDC―10型機全機を37日間にわたって運航停止させたことがある。この措置は、米シカゴの空港で273人の犠牲者を出したアメリカン航空機の墜落事故を受けたものだった。DC―10型機は1970〜80年代にかけ、整備や設計上の問題を原因とする墜落事故が相次いだ。このため安全性に対する不安が高まった。
787の場合、運航開始からの15カ月間で墜落事故は起きていない。それでもトラブルの報告が相次いだことから、FAAも危険を冒すわけにはいかなかったと解説するのは、航空整備士の経験をもつ米国家運輸安全委員会(NTSB)元委員、ジョン・ゴグリア氏。「(FAAは)相当の慎重を期し、先を見越した対応に出ている。(DC―10のような)事態を繰り返すわけにはいかない」と話す。同氏によれば、運航再開は2週間、あるいは2カ月先になる可能性もある。解決のためには「どこに問題があるかを突き止め、修理方法を設計し、修理用の部品を製造する」必要があり、「簡単にはいかない」という。
米シアトルのボーイング本社で開発段階から787型機を見てきたデイトン大学のラウル・オルドネス教授は、「システムは非常に複雑だ。予想もしなかった問題があるかもしれない。同機の複雑さは商用航空機史上、最大級だ」と指摘する。
コートライト教授も、「単純な電気室の問題にとどまらない深刻な状況ではないかと危惧する」と話している。