東日本大震災の津波で漁船を流された東北の漁師らを助けようと、和歌山市の漁師らがボランティアグループを結成し、被災地に船を届ける活動を続けている。釣り具店主や釣り好きの会社員らに支援の輪が広がり、これまでに、中古船8隻を送った。メンバーは「船は漁師の宝。海を愛する仲間として放っておけない」と話し、今後も活動を続けていく。
代々続く漁師の家に生まれ、しらす漁などを行っている和歌山市湊の花本正明さん(53)は、津波被害を伝えるニュースに「漁師が船を奪われるつらさは、どれほどのものか」と心を痛め、処分せずにおいてあった2隻の古い船を送ろうと決めた。話を聞いた渡船業を営む友人の橋本保さん(53)も、1隻を提供すると申し出てくれた。
知人の紹介で宮城県石巻市のボランティアに連絡をとって手はずを整えた。11月初旬、花本さんは4トントラックに全長約5メートルの船3隻を積み、1人で運転して同県気仙沼市の漁協へ届けた。道すがら、海辺に建物が何も残っていない光景や、船がまったく泊まっていない漁港を目にした。想像以上の被害の大きさに、「1度船を送るだけじゃいけない。これからも続けていかなければ」と決心した。
和歌山に戻り、漁師仲間や釣り友だちらに協力を呼びかけたところ、橋本さんら8人が賛同し、ボランティアグループ「海心 シーハート」を結成。「沿岸復興」を合言葉に、それぞれの仕事の傍ら、船の提供を呼びかけたり、寄付を募ったりし、11月半ばにも、同県女川町に5隻の船とミカンを届けた。
現地で多くの漁師たちから苦境を聞いた花本さんは、「船はまだまだ足りていない」と話し、行きつけの居酒屋に募金箱を置いてもらうなど、地道な活動を続ける。
「被災状況を目の当たりにして、災害への備えの大切さを痛感した」と話す花本さんは今、近い将来、県内も東南海・南海地震に襲われる可能性が高いとされていることを危惧する。「船の提供や資金援助といった支援活動を通じて、被災地の現状を知り、災害への危機感を高めてほしい」と話し、活動への参加を呼びかけている。問い合わせは花本さん(090・1156・0919)。
(2012年1月16日 読売新聞「漁船 被災地へ提供 続ける」より)