全日本選手権を控えて、浅田真央選手は「調子はいいけどトリプルアクセルを跳ばない」とする趣旨のことをインタビューで何度か繰り返し語っている。しかし、こうした部分は、フジテレビではカットされているだろうと思っていたら、やはりカットされていた。フジとしてはトリプルアクセルを跳ぶかもしれないという印象を持たせておけば、視聴率をかせげるかもしれないと考えているわけで、カットは当然だろう。そういった風に見て楽しんでいる。
しかし、こうした報道におけるカットや編集による印象操作は、ある人々にとって大問題であるらしい。編集者が絶対に行ってならないことは編集である。伝えようとする対象が大きければ大きいほど、ある事実を集めれば悪となり、ある事実を集めれば善となるってしまう。すべて事実のみで構成され、ひとつとして虚偽などを含めなくても、編集次第でそうなるのである。こうしたことであるから、確かに報道における印象操作はけしからんとなって不思議ではない。だが、なぜ楽しんでしまうのか? それは以前とは情報収集力が違うからである。
今はインターネットなどで複数のメディアに楽にアクセスできる。浅田真央選手のインタビューの場合、そのノーカット版を配信しているサイトもあるので、その全容を知ることができる。だからフジテレビが、そうしたインタビューにカットなどの編集を加えても、そこがカットされていたという事実を知ったというだけで済んでしまうのである。また各局インタビューで、それに編集の有無をこちらが知らなくても、同種のインタビューは何度か行われていて、それに対する浅田選手の見方や考え方は知ることができるので、そこから推察して編集の有無を知ることも可能である。またそれにより各局がどのような印象を持たせようとしているかも知ることができる。
このように、カットなどの編集による印象操作に対して、それを大問題とする、楽しんでいしまうかは、受け手の情報収集力次第だと思っている。
沖縄県民としてお国自慢をするという性格ではない。また沖縄県を好きでも嫌いでもない。沖縄県生まれで、沖縄県に住んでいるというだけのことである。あるとき、沖縄を批判したことがある。すると「沖縄が嫌いなのですね」というコメントが寄せられた。何の意味だからすぐにはわからなかったが、批判=嫌いという感覚は日本では不思議なものではないだろう。
日本人は儒教思想における「子は父のために隠し、父は子のために隠す。直きことその中にあり」の影響を受けている国である。そのため人間関係を円滑にするためには父と子の関係に入ることを理想とする。父と子の関係は、相互に隠し合うわけだから、第三者(公共など)には平然と嘘をついていいことになり、また、相互に相手の悪口を言ってはいけないという関係でもある。外交においても「これから親交を結ぼうとする国の悪口を言うことは、相手との友好関係を望まないという意思表示でしかない」という趣旨のことが正論ととして通用してしまう国である。
だから、まず、このことが、「沖縄が嫌いなのですね」というコメントを寄せられたときに頭に浮かんだ。そして「伝統的日本人なんだな」と思い「こうした人のコメントには一切返答をしないことにしている」で終わった。
今でも沖縄を批判する機会は多い。たとえば、沖縄県民は全体主義的傾向が強いだとか、学力テストは日本一のワーストで、それは単にペーパーテストの結果であるのではなく、東京と比べて子は親の鏡として見ると、それは日常生活レベルで感じられるものだとかであるとか、沖縄の人は礼儀を知らず挨拶ひとつまともにできないという本土の人の指摘は正しいとか、何の根拠もなく行われているオスプレイ配備反対運動だとかである。ただ、それはあくまでたまたまそういうネタが舞い込んできたからであって、特別な感情はない。そして依然として「沖縄が嫌いなのですね」と見方はされているようであり、それを無視している。
聞く耳を持っていないのではない。聞く耳を持つということは検討することであり、受け入れることではありません。従って、検討した結果拒否する場合もある。「沖縄が嫌いなのですね」と言われれば、検討した結果「伝統的日本人なんだな」ということを瞬時に行っているわけであり、その結果拒否=無視しているのである。
人格は違うから見方が違う考え方が違うのは当たり前であって、問題は見方を変える考え方を変える準備があるかないかである。だが「沖縄が嫌いなのですね」は見方や考え方ではなく、先験的経験に基盤を置く意見でしかないので、何らかの見方や考え方を提示されたのではない。なのでこちらには何の準備も必要はないのである。
インターネットでは、浅田真央選手ファンとキム・ヨナ選手のファンの一部が、以前と変わらず、睨み合っている。両者、さまざまな見方や考え方を提供してくれる。それも、また、フィギュアシーズンの楽しみの一つになっている。
◇浅田真央が示した逆境力 腰痛にもポジティブ思考 野口美恵
日経新聞コラム 「フィギュアの世界」2012年12月14日
ロシアのソチで9日まで開かれたグランプリ(GP)ファイナルで、4年ぶりの優勝を飾った浅田真央。腰痛を感じながらも耐えていたことを、試合後に明らかにした。ケガの不安を抱えながらの戦いのなか、浅田が手にした逆境からの成功術とは――。
浅田にとって、GPファイナルの出場は2008年に金妍児の地元、韓国で開催された大会で優勝して以来。久々の舞台だったが、7日のショートプログラム(SP)は66.96点をマークして首位に立つ順調な滑り出しだった。
「3回転+2回転」などのジャンプを決めると、スピンとステップは最高の技術レベルの「4」を獲得。「アイ・ガット・リズム」のアップテンポな曲に合わせた軽やかなステップは、見ている側が楽しい気持ちになるような最高の演技だった。
「明日も、今日のようにしっかりエレメンツをやりたいです。スピードを最後まで落とさずに滑ることが目標です」。浅田はSPの後、満足そうに語っていた。
ところが翌日、フリースケーティング直前の6分間練習で、浅田はほとんどのジャンプが1回転や2回転になり、明らかに普通の状態ではなかった。その日の朝からNHK杯後に悪化した腰の痛みがひどくなっていたという。
6分間練習が終わると、佐藤信夫コーチと久美子コーチに打ち明けた。「腰が痛くて、全然力が入らないのでジャンプがコントロールできなくて、滑れない」
すると佐藤コーチは間髪入れず、こう言った。「中途半端は良くない。やめるならやめる、やるならやる。それしかない」
心配したり、なだめたり、甘やかしている場合ではない。浅田の出番はもう十数分後には迫っているのだ。そのキッパリとした佐藤コーチの一言で浅田は意を決した。「もう出るしかない。出るからには、もう痛みに怖がらずに思い切ってやるしかない。痛みを感じないようにしよう」。そう自分に言い聞かせて出番を待った。
前の滑走者だったアシュリー・ワグナー(米国)の演技が終わり、不安な心をまだ残した浅田が氷に降り立つ。すると佐藤コーチは、最後に送り出す瞬間にこう声をかけた。「こんな状態でも、どれだけ自分ができるか試してみなさい。『どんなもんだ』っていうのを見せてきなさい」
その言葉で浅田の弱気になっていた心は、一気に挑戦心へと変化した。「よし。じゃあ思い切って、どれだけできるか最後までやってみよう」 そう考えて、リンクの中央へと滑り出て行った。
結果は周知のとおり。回転不足など多少のミスはあったものの、腰痛を感じさせないつややかな演技とジャンプでフリーは129.84点。トータルは196.80点で2位のワグナーに14.87点差をつけて優勝を飾った。
浅田はもともと人一倍、負けず嫌いで、努力家で、困難が大きいほど頑張るタイプ。
それを見抜いていた佐藤コーチは不安に押しつぶされてしまいそうだった浅田の心を、「逆境に打ち勝つ」という舞台設定にすることで、前向きなものへと導いたのだ。
実は、浅田は08年3月の世界選手権(ヨーテボリ)で初の世界女王となったときも、三重苦に追い込まれていた。
2月にコーチだったラファエル・アルトゥニアン氏から師弟関係の解消を電話で告げられ、コーチ不在での練習。焦りの余り、根を詰めて練習したため、2月下旬に左足首をねんざしてしまった。
そしてフリー本番では、冒頭のトリプルアクセルを踏み切ろうとした瞬間にスッポ抜けて転倒し、壁に激突した。
もう優勝を諦めかねない状況――。そんな逆境のなか、浅田は転倒のあとはノーミスの演技で、鮮やかに初優勝を手にしたのである。
当時、浅田はこんな言葉を口にしていた。「『私は逆境の方が力を発揮できる』ってポジティブシンキングしたんです。追い込まれるのには慣れました」
それから4年半が過ぎた今回のGPファイナル。「痛み」を抱えての試合は久しぶりだった。浅田はいう。「最近は試合で痛みを抱えるというのは全然なかったので、ファイナルなのに痛くなっちゃって、6分間練習では不安になってしまいました」「でも、こうやって今日も信夫先生の一言で、気持ちが(前向きに)湧きました。サポートしてもらっていますね。こういう試合への持っていき方は、すごく勉強になりました」
しかし、佐藤コーチの指導は、ここからが“本番”だった。4年ぶりの祝杯の夜、早くも浅田に苦言を呈したのだ。「今回はとりあえず頑張ったけれど、先生がずっと言ってることを聞かずに練習をやりすぎると、こういうことになる。子供じゃないんだから、調整の仕方を自分で改めなさい」
実はNHK杯で優勝した後、佐藤コーチは浅田に、疲れを取るために練習量を減らすよう指示していた。
しかし浅田は、週1日の休みはとったものの、毎日4時間の氷上練習と陸上トレーニングを欠かさず、練習量を減らさなかったのである。結果として、疲労が蓄積して腰の痛みにつながった。「信夫先生に言われた量よりも練習しちゃっていました。22歳だけれど、子供のころに比べたら体の変化は、感じたくないけれど少しずつ感じている。疲労の限界があって、痛みに出てくるようになった。体がもう子供ではないんですね」
そう複雑な表情で語りながらも、一呼吸おくと、意を決したように宣言した。「でも、努力することは大事なので。無理はできないけれど、無理をしながらも(自分の体の)状況を自分で見極めるという感じ。痛みの出る練習を少し少なくするけれど、努力はしっかりとやりたい」
やはり浅田は努力の人だ。天真爛漫(らんまん)そうにみえる可憐(かれん)な笑顔のまま、口元をキュッと引き締めた。
スポーツ紙フィギュア担当記者
まだジャンプにミスが目立ちますが、表情も明るく、演技もノビノビとしていますから、完全復活まであと一歩というところ。14年のソチ五輪へ、視界は良好でしょう。
女子フィギュアスケートの浅田真央(22)が、ついに長いスランプから脱出したと話題になっている。
今季初戦のグランプリ(GP)シリーズ第3戦の中国杯で優勝を飾ると、GP最終第6戦のNHK杯を連勝。今季、GP2勝を挙げて、実に4年ぶりのGPファイナル進出となった。だが、それまでは茨の道を歩み続けていたのだ。
スポーツ紙フィギュア担当記者
10年のバンクーバー五輪で、トリプルアクセルを2度成功させたにもかかわらず、韓国のキム・ヨナに敗れて以来、あれほど得意だったジャンプの精度が狂ってしまいました。
ちょうど少女から大人の体へと成長を遂げる時期でもあり、またルール改正なども重なり、なかなか浮上できないなか、昨年12月には、実母の他界という不幸にも見舞われた。
スポーツ紙フィギュア担当記者
それからというもの、さらに滑りに精彩を欠くようになりました。
ところが今季の浅田は、何かが吹っ切れたように、スケートを楽しんでいるように見えるのだ。
専門誌記者
今年3月に行なわれた世界選手権で6位に終わったあと、浅田は、佐藤信夫コーチに"期限なしで、しばらく好きにしなさい"と休養を勧められたそうです。その後、約3カ月、スケートから離れたものの、7月には"やっぱりスケートしかない!"と自分からリンクに戻ってきて、以前よりも厳しい練習に打ち込んできました。
復活の背景には、それ以外にも、今季の新しいプログラムが彼女を強力に後押ししている、という見方もあるようだ。
女子フィギュア関係者
特にショートプログラムは、"真央スマイル"と親しまれた笑顔いっぱいの演技で会場は大盛り上がり。オレンジの衣装にポニーテールというのは、絶好調だったシニアデビュー当時の組み合わせで、いいイメージを持って滑れるようになったそうですね。
そんな浅田が見据える最終目標は、もちろん14年にロシアのソチで行なわれる冬季五輪だろう。
女子フィギュア関係者
宿命のライバル、キム・ヨナが、ソチ五輪を最後に現役を引退することを表明し、約1年8カ月ぶりに復帰しています。年齢的に、浅田にとってもソチが最後の五輪でしょうから、絶対にリベンジを果たしたいと思っているはず。
そのためには、あと1年2カ月の間に、さらなる上積みが必要になってくる。そんななか、打倒キム・ヨナに必要といわれている彼女の最重要課題がある。
女子フィギュア関係者
それは、ズバリ"色気"でしょう。
今季は、本来の"可愛い路線"を復活させ、好調をキープしているだけに、色気となると正反対になってしまうが……。
専門誌記者
気品漂う色気が演技をより輝かせる、あのキム・ヨナ相手には、可愛い路線ではやはり分が悪いんです。フィギュアは技の難易度も重要ですが、それと同様に"演技力"、つまりセクシーさが必要。浅田もそれを身につけるために、"恋をするべきだ"という声が内外問わず出ていました。
あの"可愛い真央ちゃん"もすでに22歳のお年頃。周囲が気にするのも無理はない。
専門誌記者
本人にソノ気がない。
そんななか、恋をせずに色気を漂わせる"浅田真央セクシー化計画"ともいえる作戦が進行しているという情報を本誌は入手した。
フィギュア協会関係者
あの安藤美姫(24)が、浅田を指導するという仰天プランがあるんです。
安藤は、昨季を丸々、休養に当ててリフレッシュ。今季の復帰が期待されていたが、今年3月に、コーチであり恋人であったニコライ・モロゾフ氏とのコンビが解消され、以降、現在まで指導者不在。調整不足もあり、今季も引き続き休養を余儀なくされている。
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キム・ヨナ相手には可愛い路線ではやはり分が悪いとか、演技力=セクシーさとか 浅田もそれを身につけるために恋をするべきだとかいう見方はおかしい。
カンヌ映画祭で、出展映画に出演する俳優のファッションや仕草を真似ているらしき観客を見て「あの人たは俳優を真似るのです。でも俳優は道行く一般の人を真似るのです」と言った俳優がいた。名言だと思う。確かに女優の醸し出すセクシーさは演技であって、誰かのセクシーさを真似たものだろう。だからこそ女優なのであって、自らがセクシーだったあった場合、それを見せる場所は舞台やスクリーンではなく、キャバレーなどの夜の世界に限定されると思う。
同じことはフィギュアスケーターにも言える。フィギュアにおける演技力とは、フィギュアスケートに内包するもの、バレエや演劇などでの俳優から学ぶものなど、外から取り入れたもので構成されるものである。もちろんその選手の本来持っている魅力も欠かせない。しかし、少なくとも恋をしなければそれは身につけられないものではないはずである。
第一、可愛い路線ではやはり分が悪く色気をとは、多分にオジサンが入った見方なのではないだろうか。また、韓国はアイドルもセクシー路線なのに対し、日本はカワイイ路線である。そうした国の違いの代表選手として、セクシー路線のキム、カワイイ路線の真央、として応援するのも一興だと思う。
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