パソコン(PC)の遠隔操作などで犯罪予告が書き込まれた事件で4人が誤認逮捕された問題で、警視庁、大阪府警、神奈川・三重の両県警は14日、検証結果を公表した。神奈川県警は「無実の少年をことさらに困惑させた可能性がある」と不適切な取り調べを認めた。警察庁は一連の誤認逮捕に共通の要因として、遠隔操作の可能性についての認識不足があったと指摘。捜査員の知識の底上げなどを全国の警察本部に指示した。
神奈川県警は検証結果で、誤認逮捕された男性(19)が再聴取に対し、「否認をしたら検察官送致されて、『院(少年院)』に入ることになる」などと取り調べで言われたと話したことを明らかにした。そのうえで、「取調官の言動は、不安を助長させ、自供を強いられているように受け止められた可能性がある」と問題点を認めた。
警視庁は、男性(28)の供述に「秘密の暴露」に当たる自白がなかったことや、供述内容の変遷があったことに言及。「自白の真偽を慎重に検討すべきだった」とした。大阪府警は「男性(43)の供述に対する掘り下げが十分とは言えなかった」とし、三重県警も「男性(28)を犯人でないとする方向性の検討を十分に行わなかった」と認めた。
また4都府県警はいずれも、遠隔操作による犯罪予告事件の前例が国内でなかったことから、その手口を想定せず、第三者の犯行であることを見破れなかったことを認めた。
検証結果を受け、警察庁は
(1)IPアドレス(ネット上の住所)を過大に評価し、他の証拠による裏付け捜査が徹底されなかった
(2)捜査部門と情報通信部門の連携が不足していた
(3)不自然な供述の信用性に十分な検討がなかった
などの反省点を指摘。
捜査員のサイバー犯罪に関する知識の向上や、部門間の情報交換、犯行の可能性を吟味する捜査などを指示した。また神奈川県警に誤認逮捕された男性が少年であることを踏まえ、「容疑者が少年の場合、精神的に未熟であるため、不安や困惑に陥りやすいことにも注意する」とした。
「IPアドレス(ネット上の識別番号)を過大に評価し、裏付け捜査が徹底されず、供述の吟味も不足した」とする一方で、「自白の誘導や強要はなかった」と結論づけた。しかし神奈川県警は、自白の強要があったとする少年=誤認逮捕時(19)=の言い分と食い違ったまま、検証を打ち切っていたことが判明し、疑問が解けないままの結論となった。
神奈川県警の検証では、少年は誤認逮捕発覚後の再聴取に「否認したら『院』(少年院)に入ることになるぞ」「無罪を証明してみろ」などと取調官に自白を迫られたと証言した。
しかし、県警が取調官に確認したところ、自白の強要を否定したため、強要や誘導はなかったと判断した。無実の証明を求めた言動のみを「不適正な取り調べにつながるおそれがある」として取調官を規律違反で厳重注意するとともに「少年の特性の『迎合』の可能性を十分に検討したとは言えない」と指摘した。
また少年は、横浜地検の検事からも「否認すると(勾留が)長くなる」と言われたと証言していたが、地検は「配慮が欠けた面もあったが、不適正な行為はなかった」とした。
また、東京都内の幼稚園や子役タレントに脅迫メールを送ったとして福岡市の男性(28)を誤認逮捕した警視庁も、自白の強要や誘導はなく、供述の吟味不足などがミスにつながったと総括した。
検証結果を受け、警察庁は全国の警察に、サイバー犯罪に対する捜査員の知識向上や虚偽自白の可能性への留意など再発防止策の徹底を通達。最高検も同日付で、サイバー犯罪に特化した部署を東京、大阪両地検刑事部に新設した。
◇遠隔操作事件 インターネット上に殺人や爆破予告を書き込んだなどとして、福岡県の男性ら4人が警視庁や大阪府警などに威力業務妨害容疑で逮捕された。しかし、それぞれのパソコンがウイルス感染などで何者かに遠隔操作されていたことが判明、いずれも無実だったことが明らかになった。4都府県警は相次いで誤認逮捕を認めて謝罪、起訴や保護観察処分が取り消される事態に発展した。
◇パソコンの遠隔操作による誤認逮捕の経緯
インターネットの掲示板に殺害予告を書き込んだなどとして、警視庁など4都府県警が7〜9月に男性4人を逮捕。しかし10月に「真犯人」を名乗る人物から「警察・検察をはめてやりたかった」とする犯行声明メールが都内の弁護士らに届き、4人がウイルスにより、遠隔操作されるなどしたことが発覚。警察は誤認逮捕を認め、謝罪した。神奈川県警に逮捕された少年は保護観察処分取り消し、ほかの3人も不起訴や起訴取り消しとなった。警察庁は今月12日、遠隔操作事件を公的懸賞金の対象に指定、真犯人特定につながる情報提供者に最大300万円を贈る。
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今回も警視庁、大阪府警、神奈川・三重の両県警は、自白の強要・誘導・詐術はなかったということを、取調官への確認によって示した。これでは、信じるか信じないかという信仰の問題になってしまう。事実の検証を行うには全面可視化と弁護士の立ち会いを前提にするしかないだろう。
確認を検証としているのだから、警察側は、そのふたつの言葉の区別すらつかないようだ。