アベノミクスで円安・株高が進行した中で、十分な運用成績を上げられなかった人がいる一方で、トレンドの変化を見極めて資産を殖やした人がいます。成功した個人投資家は何が違うのでしょうか。今回は「日経マネー」誌が実施した個人投資家1万人調査の結果を基に、「勝ち組」の特徴を浮き彫りにします。
世界各国の株式相場が2012年後半以降に息を吹き返したことで、個人投資家の大半が含み損を減らし、含み益を獲得できるようになった。特に2012年11月末以降のアベノミクス相場で、短期間に資産を殖やした人も多いようだ。
「プラス1〜10%未満」の回答者の比率が33.3%と最も高い(注:本記事中の調査結果の数値は、端数処理の関係で単純集計の回答結果でも合計が100%にならない場合があります。以下同様)
一方、「勝ち組」の中には長期的な運用で成功を収め、安定的に資産を殖やす人も見られる。短期型と長期型の勝ち組投資家は、それぞれどのような特徴があるのだろうか。「日経マネー」誌が個人投資家約1万人を対象に実施したアンケート調査[注1]の結果から、勝ち組投資家[注2]の特徴を分析してみた。
■短期勝ち組は個別銘柄分析
まず2012年11月末からのアベノミクス相場で平均以上の収益を上げた「短期勝ち組」(構成比は全体の20.8%、2090人)の特徴を見ていこう。平均年齢は46.4歳で、意外にも3年間平均以上の収益を上げた「長期勝ち組」(全体の5.7%、576人)を上回る。
短期勝ち組の半数近くが日本株に500万円以上の資金を投じており、3分の1は日本株に10年以上、投資し続けている──。短期勝ち組で浮かび上がってくるのは意外にも、長く日本株と付き合っている投資家の姿だ。
もちろん長く投資しているだけではない。短期勝ち組が最も重視している勉強は「個別銘柄の研究」だ。さらに損切りルールが明確なのも特徴。個別銘柄について熟知しようとしているため、損切りも冷静にしやすいのだろう。
■長期勝ち組は運用の幅が広い
一方、長期の勝ち組投資家はどうか。ここでは過去3年間で安定的に資産を増やした投資家の特徴を紹介しよう。まず、金融資産の金額の多さが目を引く。3000万円以上を持つ投資家は3割近い。その上で積極的に積み立てを実施しており、月収の10%以上を積み立てている投資家は37%を占めている。
さらに投資先の幅が広いのも特徴だ。日本株の個別銘柄だけでなく、不動産投資信託(REIT)や外貨投資、特に新興国株の運用比率が高めだった。多くの金融商品に積み立てでコツコツ投資し、高い目標リターンを上げようとする投資家の姿勢が読み取れる。
また長期勝ち組はなぜか賃貸マンション暮らしの比率が高く、戸建て住宅の比率は低かった。不動産より金融資産の価値を重視しているためだろうか。
次に、勝ち組の特徴を浮き彫りにするため、負け組との違いを比べてみよう。アベノミクスで追加金融緩和姿勢が明確になったため円安・ドル高が進行。物価上昇率2%目標も景気回復の期待感を誘った。日経平均株価は2012年11月末から今回の調査を実施した直前の時期である2013年1月末まででも18%上昇、円相場は1ドル=82円台から91円台まで円安・ドル高が進行した。こうした変化を生かして資産を殖やした勝ち組もいたが、いずれも急なペースで相場の波についていけなかった負け組個人投資家も少なくないだろう。勝ち組と負け組[注3]は何が違うのだろうか。
■勝ち組の46%、含み益に
まず勝ち組の46%は含み益が出ている。含み損が減った層も含めると実に9割強だ。相場の波に乗り、いち早く含み損状態を脱却したようだ。
勝ち組は「含み益が出た」と回答した比率が46%と高い。「含み損が減った」も合わせると90%を超え、平均(80%)を上回る
金融資産は多く、チェックも念入りだ。1000万円以上の金融資産がある人が全体の53%にのぼり、資産の変動を毎日チェックしている人は6割を上回る。明確なポートフォリオ(資産配分)を持っている人も全体の37%と、全体平均に比べ多い。明確な資産管理の方針の下、日々の資産額を細かくチェックしている様子が分かる。
勝ち組の金融資産は「1000万〜5000万円」の回答が43%で、平均(39%)より多い。資産が多いからこそ、運用の幅も広がる
毎日、資産をチェックする人は62%に達し、全体平均より高いのが特徴。「ほとんど見たことがない」はわずか1%未満だった
明確なポートフォリオを持っていると回答した勝ち組は37%。全体平均は32%にとどまった。勝ち組は資産構成へのこだわりも強い
[注3]ここでは、2012年11月末〜2013年1月末までの資産の増減を尋ねた設問の回答で、勝ち組と負け組を分類した。勝ち組は+20%以上の回答者で、前出の「短期勝ち組」と同じ。+5%未満の回答者は負け組とした。
投資先・目線はグローバルだ。外国株投資をしている比率は勝ち組が36%で全体平均を上回った。チェックする指標で多いのは米国株価の動き、米雇用統計など海外の経済指標。日本株市場で6割以上の売買主体が海外投資家であり、海外勢の投資目線は無視できない。アベノミクス相場で勝てた投資家はグローバルな視点で日々資産を管理しながら投資をしている様子が分かる。
資産の海外分散にも熱心。外国株投資は、「している」「今はしていないが検討している」を合わせると勝ち組で48%、全体平均は41%だった
勝ち組が常に見ている投資指標は米国株の動き、米雇用統計などで平均より高い水準。前日の米株市場が投資心理に影響を及ぼすことを知っている
一方、アベノミクスで勝てなかった人(負け組)はリスク資産に資金を出動させず、定期預金に資金を滞留させた人が多い。さらに原油価格や各国の長期利回り、海外投資家動向といったグローバル指標を見ていない。円急落のリスクにも十分備えていないのが実情だ。
負け組は定期預金に多くの資金を滞留させる傾向。仮に今後インフレとなれば、有利な運用先とは言いにくくなる
勝ち組に比べ少ないのは「米国株の動向」。負け組は海外指標に弱い?
円急落リスクに「備えている」負け組は22%で、勝ち組の半分近い
アベノミクス相場で勝てた投資家はグローバルな視点で日々資産を管理しながら投資をしている様子が分かる。次回は、実際に勝ち組投資家がどのように最近の短期上昇相場を迎え、乗り越えていったのかを解説する。