順調な滑り出しを見せた稀勢の里だったが、ここに来て歯車が狂っている。前日に続く黒星。引き揚げてきた支度部屋では悔しさをあらわにするでもなく、力ない表情で目をしばたたかせるばかり。北の湖理事長(元横綱)と師匠の鳴戸親方(元幕内隆の鶴)の評は全く同じ言葉だった。「考え過ぎている」
組み止めに行った4日目の栃煌山戦はもろ差しを許し、5日目の松鳳山戦は捕まえきれず土俵下まで派手に飛び出した。そして迎えた好調の豪栄道戦。一転して得意の左おっつけで押して出た。
立ってすぐ相手を横向きにさせるまでは狙い通り。しかし、回り込む相手を追いかけるうち左を深く差され、右腰に食いつかれる。あとは何もできずに寄り倒された。「豪栄道の差し身の良さというより、稀勢の里が(相手の)肩の高さで取っている。空回りしている」と北の湖理事長。本来の相撲を取り戻す契機にしたかったが、逆に腰の高さ、脇の甘さといった悪癖ばかりが強調される結果となってしまった。
「うーん、まあね…」と言ったきり口をつぐんだ稀勢の里。最後はうつむき、大きなため息を吐き出した。優勝争いを考えれば、前半戦での連敗は痛恨だ。流れを取り戻すために、鳴戸親方は「自信を持っていってほしい」と背中を押す。場所は、まだ9日間も残っている。