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瀧本美織×鈴木敏夫、『風立ちぬ』と「宮崎駿(監督)」のいい話


 7月20日、宮崎駿氏が5年ぶりに監督を務めた新作『風立ちぬ』が公開された。主人公・堀越二郎と恋に落ちるヒロイン・里見菜穂子役の声優を務めた女優の瀧本美織(21)と、スタジオジブリの鈴木敏夫プロデューサーが制作秘話、見どころを語った。対談はスタジオジブリで行われた。現在は今秋公開予定の高畑勲監督『かぐや姫の物語』制作の真っ最中だ。

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―今作は二郎と菜穂子の恋愛を描き、?大人のジブリ?とも評されています。

鈴木 やっぱり、そういうイメージを持たれますよね。普通、人を好きになると、相手は自分をどう思ってるんだろうって気を揉んで、駆け引きや打算が生まれてくる。それが大人の恋愛。美織ちゃんは誰かを好きになったら、その相手も自分のことを好きだって100%信じられる?

瀧本 うーん、わからないですね。100%は難しいかも……。

鈴木 そうだよね。でも、宮崎駿作品は違うんです。主人公とヒロインは、会った瞬間に100%、相手のことが好き。一点の曇りもなく。二郎と菜穂子も、出会いのシーンからそうだった。確かに二人は大人の年齢で、キスシーンと初夜のシーンがある。でも、それらを除くと、これまでの作品と変わらない。大人というよりむしろ、少年と少女の恋に近いんです。どうして宮さん(宮崎監督)って、男女関係をそういう風に描くんだろう?

瀧本 どうしてだろう。監督が、100%を信じているから。あるいは、そうあってほしいと願っているからかな。

鈴木 若いときに辛い思いをしたんじゃないかなぁ(笑)。そういえば美織ちゃん、前に、鋭いこと言ってたよね。72歳で、なぜこんなに純粋な恋愛を描けるんだろうって話をしたときに……。

瀧本 監督は、きっといまも、恋をしているからだって。

鈴木 そう。それです。宮さんは今でも?現役?なんですよね。

―ヒロイン役を瀧本さんにオファーしたきっかけは何ですか。

鈴木 結果論だけど、美織ちゃんと菜穂子は明らかに共通点があったと思う。菜穂子はB型だと思うんだよね。気持ちのままに、衝動的に行動しちゃう。美織ちゃんも、自分の気持ちに素直でしょ。

瀧本 素直でありたいとは思ってます。でも鈴木さん、私、O型なんですけど!意外と、人のこと気にしてますよ。

鈴木 そういう一面があることも知ってます(笑)。宮さんはヒロインの声に対して、確固たるイメージを持っているんです。それは、僕に言わせれば、この世には存在しない声。言葉で表現すれば、透明感のある、澄んだ声ですね。今回も、何人か声を聞いてもらったんだけど、上手くいかなかった。そんなときに、現在制作中の『かぐや姫の物語』の監督・高畑勲さんが大推薦してくれたのが、美織ちゃんでした。とにかく芝居が素晴らしいと。

瀧本 そうだったんですか。大推薦って初めて聞きました!

鈴木 高畑さんは宮さんの5年先輩で、宮さんは、高畑さんの言うことなら99%聞くんです。今回も「パクさん(高畑監督)が言うならそうしよう。決めた」って。

瀧本 即決ですか。

鈴木 そう。声も聞いてない段階でね。実際に聞いてもらったら、芝居はいいけど声質が違うなぁと。それでも、あの芝居があれば何とかなりますよと僕が言って、決定したんです。ところが本番になったら声質が変わった。宮さんが理想とする、透明感のある声が出たんだよね。なんで変わったの?

瀧本 絵を見たからです。はじめての時は、何も見ずに読んでましたから。

鈴木 えっ、(菜穂子の絵)置いてなかったの? そうだったのか。あれ(本番の声)には本当にびっくりしたんだよね。

瀧本 絵を見たら自然に変わったんです。普段からとくに役作りはしないんですけど、今回も、直感を大事にして。

鈴木 それができるのは、美織ちゃんのキャラクターもあるよね。

瀧本 えっ、どんな?

鈴木 ヘンだもんね(笑)。

瀧本 ヘン!? 何ですか、ヘンって!?

鈴木 この前の記者会見、報道陣がたくさんいたでしょ。それを見て美織ちゃん、盛り上がっていくんだよね。周囲の注目を糧にして、より強く自分を打ち出していくタイプ。いい性格です(笑)。

瀧本 私、そんなに強くないんですけど……。不安とか、プレッシャーとかは、あまり感じないほうかもしれません。

鈴木 会見のエピソードを宮さんに話したら、ぽつりと一言、「大物だ」って。

瀧本 それは初耳! 大物かどうかは別として、嬉しいです。

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―印象に残っているシーンは?

瀧本 「手をください」という場面です。

鈴木 いやらしいんだよね(笑)。

瀧本 いやらしくないです! 綺麗なセリフです! 病床の菜穂子が、横で仕事をしている二郎さんにかけた言葉ですけど、こんな表現があるのか、昔の人はこんな言い方をしたのかって感動して。

鈴木 僕がいいなと思ったのは、大竹しのぶさんが演じた黒川夫人の「ねえ、あなた」。この一言。

瀧本 はい。あの夫婦は、凸凹コンビで、面白いなと思いました。

鈴木 実は黒川は、宮さんなんです。姿かたち、歩き方からしゃべり方までそっくり。三菱内燃機製造株式会社(現・三菱重工)の本庄も服部も、もちろん二郎も実在するんだけど、黒川だけは映画オリジナルのキャラ。宮さん自身が登場してるんです。

瀧本 二郎さん=宮崎さんじゃないんですね! いま、鳥肌立っちゃいました

鈴木 二郎にもなりたいんだけどね。これは大きな声では言えないんだけど、宮さんは、顔にコンプレックスがあるんじゃないかな(笑)。人の顔って、大きく分けると細面か横長になる。二郎は細面で黒川は横長。宮さんは、いつも主人公を細面と横長の2つ描くんです。それで、スタッフに「どっちが主人公にふさわしいか」と聞いて回る。細面が票を集めるんですが、少し寂しそうで。自分の顔が横長だから、細面に憧れるんでしょうね。

―ほかに印象に残ってるシーンは?

瀧本 関東大震災です。あの映像には衝撃を受けました。家が崩れ落ちる音も炎の音も、全部、人の声なんですよね。

鈴木 そう。あれでも音をずいぶん抑えたんですよ。最初はもっと迫力があって、怖かった。僕は、昭和の日本の風景を見てほしいですね。あの時代、貧しかったけれど空気は澄み、空と雲は美しく、緑は豊かだった。実際には内陸にあった工場を海辺にあるように描いたり、関東大震災で壊れた建物でも宮さんのイメージに合うものは残して描いていたり、歴史に忠実ではないですが、ありえたかもしれない理想の昭和のイメージがこの映画には描かれているんです。

―鈴木さんは、この映画を監督の「遺言」と表現されました。

鈴木 それは「この映画を一言で表現すると」と問われて、ふと出た言葉。深い意味ではないんです。この映画に限らず、映画監督はどんな作品でも、遺言を書いているようなものですし。でも宮さんも、僕も年です。今朝もね、宮さんと「長生きするのはどういう人だろう」っていう話をしてたの。先の保証はない。だから『風立ちぬ』はたぶん、宮崎駿72歳の、現時点での遺言なんです。


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