■BS世界のドキュメント
“アメリカン・ゲットー” 麻薬戦争と差別の連鎖 前編2013年7月22日 月曜深夜[火曜午前 0時00分〜0時50分]
“アメリカン・ゲットー” 麻薬戦争と差別の連鎖 後編2013年7月23日 火曜深夜[水曜午前 0時00分〜0時50分]
友人の黒人女性ナニーの家族がドラッグによって崩壊していることを知り、麻薬問題の取材を開始したヤレッキ監督。全米で麻薬犯罪の取締りに携わる警官、連邦裁判事、受刑囚、ジャーナリストなどを取材するうちに、麻薬撲滅政策が黒人社会に壊滅的な被害をもたらしていることが明らかになる。
アメリカでは、白人の麻薬使用者の数が黒人を大きく上回るにもかかわらず、麻薬関連の逮捕の8割以上を黒人が占めている。その理由は、警察が黒人が住む地域を取締りの標的にしているからだ。前科があると就職できないため、再犯を重ねるケースも多い。
また、レーガン政権時代に成立した厳格な麻薬取締法では、黒人の使用が多いとされる固形コカイン「クラック」に対して、粉末コカインの100倍の懲役年数が課せられる。こうした理由から、黒人の家庭では父親や息子が長期間不在になり、残された家族は精神的にも経済的にも被害を受ける。そして、貧困のサイクルから抜け出せないゲットーの子どもたちは、唯一の選択肢として麻薬取り引きを始めてしまう・・・。
1970年代にニクソン大統領が始めた“アメリカ社会最大の敵”麻薬との戦争は、これまで拡大の一途をたどってきた。しかし、数十年間で膨大な予算をつぎ込み大量の黒人を刑務所に収監してきたにもかかわらず、アメリカ全体で麻薬の使用は減っていない。
2回シリーズの前編は、黒人を標的にした麻薬取締りと、大量投獄を可能にするゆがんだ司法制度を浮き彫りにする。
黒人をターゲットにした麻薬犯罪の取締り強化と長期の懲役刑を強いる法の制度が大量投獄システムを作り出したことを背景に、現在アメリカの受刑者総数は220万人。セキュリティシステム、スタンガンメーカー、民間刑務所経営会社などを含む“刑務所産業”は急成長を遂げた。
ゲットーの住民たちが何世代も続く負のサイクルに苦しむ一方で、麻薬戦争の被害は、白人社会の底辺にいる人々にも到達し始めている。
麻薬戦争に終止符を打ち、差別と貧困の連鎖を断ち切ることはできるのか。
2回シリーズの後編は、麻薬戦争はホロコーストと同じ特定の人々を社会から排除し、追いつめる連鎖によって今や間接的に人々を死に至らしめていると指摘する。また、麻薬戦争の被害者たちに寄り添い、法改正を求めて制度と闘う人々を紹介する。
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麻薬をアメリカ社会最大の敵と規定し、その麻薬との戦争が、ホロコーストと同じであることを証明して見せた番組。アメリカ人は「目的を手段とする国民」だと揶揄されることが多いが、麻薬との戦争も、また、目的であるはずの”麻薬取り締まり”ではなく、人種差別の”手段”としていることは衝撃である。
その原因のひとつが政治家にあるという。彼らは当選したいために、ただ量刑を重くして、麻薬犯罪者を社会から排除すればいいことを有権者に約束する。有権者もそれを支持する。前科があると就職できないため、再犯を重ねるケースも多い。こうして麻薬犯罪は一向に解決されない。もっともニクソン大統領などは更生プログラムの重要性を理解していた。しかし選挙になると、そうしたこがかき消されるらしい。それを主張すると当選しないという認識がアメリカ社会にはあるらしい。
そうした認識は怖いものだが、それより怖いのは、アメリカでは「貧乏人を殺せば生活が豊かになる」という思いが社会に蔓延していることだ。麻薬戦争は、今やホロコーストと同じ特定の人々を社会から排除し、追いつめる連鎖によって今や間接的に人々を死に至らしめているという。
ホロコーストは、識別・排斥・剥奪・収容・殲滅の5段階で行われる。麻薬戦争は、今、収容の段階にあるという。いつどんな形で殲滅が行われるのか!?
日本にも麻薬戦争と似た事例がある。交通戦争である。交通違反や交通事故に対して、警察は取締りに重点を置いている。その対処は正しいのだろうか? 沖縄では「交通違反の取り締まりはビーチ・パーティーの資金集め」と揶揄する人が多い。これは反権力者の警察への単なる言いがかりなのだろうか。それとも目的を手段化しているという印象から生じたものだろうか。
もし私が知事なら、部下である県警本部長に対して、免許取得の簡素化を求めるだろう。目的は増収である。もっとも建前は理屈で飾るが…同時に交通違反取り締まりの強化も要請する。これも増収になる。この場合の私の手法は「交通違反や交通事故を無くそう」という目的を、増収のための手段としたものである。