エジプト軍によるクーデターのあと迷走していた暫定政権づくりがようやく動き出した。マンスール暫定大統領は9日、暫定政権の首相に経済専門家のビブラウイ元財務相を指名し、組閣を命じた。副大統領にはエルバラダイ国際原子力機関(IAEA)前事務局長を指名した。いずれも政教分離を重視するリベラル派として知られる。中東通信が伝えた。
エルバラダイ氏は外交担当の副大統領に就任する。民政移管プロセスの作成に参加していたイスラム原理主義政党「光の党」への配慮からエルバラダイ氏の首相指名は見送ったが、国際機関のトップを務めて国際的な認知度が高く、モルシ前大統領に反発する勢力で指導的な役割を担ったことから、副大統領に起用したもようだ。
リベラル派を中心に暫定政権を組織することで「軍政復活」を懸念する欧米諸国からの批判をかわす狙いもありそうだ。
暫定首相の指名を巡っては「光の党」がエルバラダイ氏の起用案に反発し、協議からの離脱を表明していた。
今回の人事を受けて「光の党」が協議に復帰するかどうかが焦点となる。ビブラウイ氏の首相指名について同党は「(内部で)検討中」としている。仮に復帰しても、イスラム勢力を閣僚に登用するよう求める可能性もあり、リベラル派との調整が難航することも予想される。
今後組織する憲法改正委員会の人選などを巡ってリベラル派とイスラム勢力が対立すれば、憲法制定作業に遅れが生じかねない。実際、2012年に施行し、クーデター後に停止された憲法の制定作業ではメンバー選定を巡って議論が紛糾。一度発足した委員会が解散に追い込まれるなど作業が大幅に遅れた。
暫定政権首相にビブラーウィ元財務相が指名されたエジプトに対し、9日、サウジアラビアが総額50億ドル(約5057億円)、アラブ首長国連邦(UAE)が30億ドル相当の支援を行うことを決めた。ロイター通信などが伝えた。エジプトで組閣作業が本格化するのを受け、湾岸産油国は暫定政権支援の態勢を整えつつある。
サウジは、エジプト中央銀行への20億ドル預け入れや20億ドル相当の石油製品提供、10億ドルの現金供与を行う。UAEは総額30億ドルの中銀預け入れと現金供与を行い、追加支援も検討するとしている。
エジプトは貿易赤字の拡大や高いインフレ率など経済情勢の悪化に見舞われており、サウジとUAEは、今回の政変の根源となった国民の生活苦を緩和し、経済専門家であるビブラーウィ新首相の施策を支えることで、暫定政権の安定的発足を支援したい考えとみられる。
君主制の湾岸産油国では、エジプトのモルシー前大統領の出身母体、イスラム原理主義組織ムスリム同胞団の勢力拡張によって支配体制が揺らぐことへの警戒が強い。