世界文化遺産に登録されたばかりの富士山は1日、夏山シーズン到来を告げる山開きを迎えた。山梨県側の5合目や登山道には「記念の年に登りたい」と山頂を目指す登山者が次々と訪れ、神事も開かれるなど祝賀ムードに包まれた。だが富士山での事故は近年増加傾向にあり、装備や準備が不十分な登山者の姿も。自治体や警察などは登山道の各所で安全を呼びかけた。
標高約2300メートルの富士スバルライン5合目。小御嶽(こみたけ)神社(山梨県富士吉田市)では午前5時から「開山祭」が開かれ、神輿(みこし)の練り歩きなどで安全を祈願。近くの土産物屋には「世界文化遺産万歳」などと書かれた看板が立てられ、女性販売員は「世界遺産効果で、既に例年以上のにぎわい」と来場者増加を期待していた。
5合目には明るくなり始めた午前4時ごろからカラフルなウエアに身を包んだ登山者が続々と訪れ、準備運動をして登山道に向かった。30年以上登り続けているという千葉県四街道市の無職、松戸正治さん(67)は「苦しいけれど神聖な気持ちになる山。世界遺産に登録され、区切りの意味で訪れた」と話した。
山頂を目指す列が続くなか、体調を崩して休む人の姿も。同僚4人で訪れた埼玉県鶴ケ島市の男性会社員(25)は7合目付近で足に違和感を覚えた。「本格的な登山は初めて。準備もあまりしていなくて、甘く見ていた」と反省しきり。ご来光を目的に前夜から登ったものの、体調不良で引き返してきた40代の女性は「睡眠不足で登ってしまい、ガイドにも怒られた」。
登山道では案内所などの設置も始まった。富士スバルライン5合目には「世界遺産を安全に登るために やめよう弾丸登山」と日、英、中、韓国語で書かれた案内板が新設され、6合目には山梨県や警察などが運営する「富士山安全指導センター」も開設。24時間体制で注意事項を書いたビラを配ったり、サンダルを履いた登山客には引き返すよう呼びかけたりする。
同センターの担当者は「おめでたい年だが、登山者増加で事故の不安は強まっており、喜んでばかりもいられない。安全第一で登ってほしい」と話し、特に1泊せず夜通し歩く“弾丸登山”はしないよう注意している。