現在のホラーの原点を強く意識させる作品が、日米でそろった。
「クロユリ団地」(1時間46分、有楽町・丸の内ピカデリーなど)は、1998年、「リング」でJホラーブームを巻き起こした中田秀夫監督の新作だ。Jホラーは90年前後に登場し、日本独特の恐怖表現を世に知らしめた。これはその集大成的な作品と言える。
家族で団地に引っ越してきた女性(前田敦子)は、隣室の老人の孤独死を発見して以来、様々な怪異に襲われる。老人の部屋の清掃を請け負う会社の青年(成宮寛貴)に、除霊の専門家(手塚理美)を紹介されるが、物語は意外な展開を見せる。
高度成長期に建設され、朽ち果てたような巨大団地。そこで起きる孤独死。中田監督は極めて現代的な風景から、Jホラーの様々な手法で恐怖を引き出す。そして、主人公たちの罪の意識という、伝統的な怪談にも通じる、普遍的な恐怖に迫っていく。
娯楽性は保ちつつ、人間の心の闇まで描く手腕は、職人的な高い完成度を見せる。前田は暗い表情に終始して好演。アイドルのイメージが強い彼女だが、初めてうまいと思った。
「死霊のはらわた」(1時間31分、新宿ピカデリーなど)は、81年に米国で公開されたサム・ライミ監督のデビュー作のリメークだ。オリジナルは、過剰な残酷描写で恐怖を超えて笑いを誘い、スプラッター(血しぶき)と呼ばれるジャンルを確立した。
スプラッターには時として、笑いで安っぽさをごまかす作品もある。だが、ウルグアイ出身の新人フェデ・アルバレス監督は、スプラッターとしての残酷描写は存分に見せながら、笑いには逃げない。5人の男女が山奥の小屋で死霊にとりつかれるというストーリーを、大量の血と人体破壊で描きつつ、シリアスさと緊張感を保っているのは、剛腕と言うしかない。ホラー史を変えた傑作のリメークとしては上出来だ。
他に3本のホラーが公開される。「フッテージ」(ヒューマントラストシネマ渋谷など)は、イーサン・ホーク主演。殺人を記録した8ミリフィルムを見つけた作家の恐怖を描く佳作。子供が大人を殺し始める「ザ・チャイルド」(同館)は1976年のスペイン映画のリメークで、惨殺場面に容赦のない力作。「シー・トレマーズ」(シネマサンシャイン池袋)は巨大モンスターもの。ブライアン・ユズナ監督、マイケル・パレ主演という布陣に、ファンならグッとくるに違いない。