円売りの勢いが鈍っている。主要７カ国（Ｇ７）の緊急共同声明が円安を容認したという解釈を、米当局が否定したとの見方が浮上したためだ。米当局の真意は何なのか。その点を探っていくとわかってくるのは、円安誘導と解釈されかねない「金融緩和偏重」の政策運営が海外の理解を得にくくなっている事実だ。米当局は日本の構造改革の重要性を指摘しており、大胆な金融緩和に規制改革なども加えたバランスの良いポリシーミックス（政策の組み合わせ）を打ち出すことが、円安の流れを止めないために必要になってきた。
12日発表のＧ７声明について、市場参加者はいったん、デフレ脱却を目的とした日本の金融緩和の結果として進む円安は容認していると解釈した。「（日本などの）財政・金融政策が国内の手段を用いてそれぞれの国内目的を達成することに向けられてきている」などの文言があったためだ。
そうした空気に冷や水を浴びせたのが、日本時間12日深夜に流れたロイター通信の記事だった。「Ｇ７声明は誤って解釈された」という「Ｇ７高官」の発言を報じたのだ。米ワシントン発だったことなどから「発信元は米財務省との見方が広がった」（野村証券の池田雄之輔チーフ為替ストラテジスト）。ユーロ高に不満を示してきたフランスなどであればともかく、ドル・円相場への影響力が大きい米当局が情報源となると重みが違う。
一体何があったのか。米当局の内情に詳しい関係筋によると、そもそもの発端は11日のブレイナード米財務次官の発言だった。「デフレを終わらせ、成長を取り戻すための日本の努力を支持する」と語ったのが円安容認と解釈され、円相場は１円程度下落し１ドル＝94円台半ばを付けた。これに、輸出への悪影響を懸念する大手自動車メーカーなどからクレームがついたという。次期財務長官に指名されているルー大統領首席補佐官の人事承認公聴会を控えていたこともあり、米当局は火消しの必要に迫られたと同筋は言う。
この情報が正しいなら、円が一時92円台後半に急反発するきっかけとなったロイター記事のソースは米当局だったとする見方は説得力を増す。では、米当局は円安を容認しないのか。実はそう単純ではない。
前出の関係筋によれば、米当局は、日本の金融緩和の結果として自然に進む円安に文句を付けるつもりはなく、黙認する考えだという。この点は仏などと温度差がある。日本がデフレ脱却をなし遂げることは、米国の対日輸出促進につながるだけではない。経済的、軍事的に存在感を増す中国に対抗するためにも、同盟国、日本の復活は必要なのだ。
ただ、円安に対する米自動車メーカーなどの不満もあり、「うまくやってほしい」というのが米側の考え。Ｇ７声明が「為替レートを目標にしないことを再確認する」とした通り、円売りを促すことを狙った口先介入や円安誘導ととられかねない金融政策手法はやめてほしいと考えているという。日銀による外債購入策も難しくなったとみていい。金融緩和偏重の印象を与える政策スタンスも望ましくないものとみられているだろう。
アベノミクス（安倍晋三政権の経済政策）が金融政策を偏重しているというイメージを与えないようにするために何が必要か。ヒントは前出のブレイナード米財務次官の発言内容にある。「日本がデフレを終わらせ、成長を取り戻すという目的を達成するためには、構造改革がマクロ経済政策に伴うことが重要」という部分だ。
アベノミクスは「大胆な金融政策」「機動的な財政政策」「民間投資を喚起する成長戦略」の３本の矢で構成する。「大胆な金融政策」では２％のインフレターゲットが導入され、「機動的な財政政策」でも今年度補正予算案と来年度予算案合わせて100兆円超の歳出規模を確保した。
自民党の石破茂幹事長が最近の講演で語ったとおり、「金融緩和と機動的な財政出動は、多くの期待をいただきながら成功裏に推移しつつある。過剰な円高水準を脱しつつあり、株価も上昇しつつある」のだ。だが、石破氏はこう付け加えた。「それだけで十分かといえば全然そうではなく、核心はどうやって経済成長を実現するかだ」。米側が注視するのもまさにこの点であり、そのために必要な構造改革などの成長戦略に全力で取り組むことこそが、金融緩和偏重の印象を薄めるために必要だ。
安倍政権は成長戦略を６月にまとめる予定で、本格的な議論はこれからだ。そのために、政府は日本経済再生本部を設け、その下に産業競争力会議を置いた。