インターネットの掲示板「2ちゃんねる」で、違法薬物の密売に関する書き込みを放置したことで、結果的に去年起きた覚醒剤の密売事件を助長した疑いがあるとして、警視庁は、掲示板の元管理人を、麻薬特例法違反の幇助の疑いで書類送検しました。違法な薬物に関する書き込みを巡って、掲示板の運営者側が書類送検されるのは異例です。
「2ちゃんねる」は、平成11年に開設された国内最大規模のインターネットの掲示板で、違法な薬物に関する書き込みが放置され、問題となっていたことから、警視庁は去年からことしにかけて、2ちゃんねるの関係先を捜索して、捜査を進めてきました。その結果、薬物の密売に関する書き込みが、再三の削除の依頼にもかかわらず放置され続けたことで、結果的に去年5月の書き込みで覚醒剤が密売された事件を助長した疑いがあるとして、警視庁は、掲示板を開設した西村博之元管理人(36)を、麻薬特例法違反の幇助の疑いで書類送検しました。
西村元管理人は3年前、2ちゃんねるの運営の権利を海外の会社に譲渡したと発表していましたが、警視庁によりますと、実質的な責任者の立場にあるということです。
西村元管理人は警視庁の事情聴取に応じず、捜索後のことし5月、自分のブログで「警察からの削除依頼のメールは2通で、削除済みだ。ほかの削除の依頼は適切な手段で行われてない」などと反論していました。一方で、警察庁によりますと、2ちゃんねるでは削除を求められた書き込みが放置されるケースが、ことしは去年に比べ大幅に減っているということです。
違法な薬物に関する書き込みを巡って、掲示板の運営者側が書類送検されるのは異例で、専門家からは、今の法律で刑事責任を問うのには限界があるのではないかという指摘も出ています。
インターネット上の掲示板を巡っては、薬物取り引きや児童ポルノなどの違法な書き込みや画像が削除されずに放置されるケースが相次ぎ、問題になっていました。
こうした違法な書き込みは、警察庁が委託する「インターネット・ホットラインセンター」が掲示板の管理者などに削除を要請していますが、去年確認された違法な書き込みは3万6500件余りと、過去最多となりました。このうち「2ちゃんねる」では、去年、削除の要請を受けた書き込みの97%に当たる5068件を削除せずに放置しており、ネット上に放置された違法な情報のほとんどを「2ちゃんねる」が占めている状態でした。内容は、覚醒剤など薬物の取り引きに関するものが4611件と最も多く、次いで、振り込め詐欺などに悪用される、通帳や携帯電話の売買に関するものとなっていました。
しかし、こうした実態が明らかになってからは、書き込みが削除されるケースが大幅に増え、ことしは、削除要請を受けながら放置された書き込みは半年間で173件にまで減少しています。警察庁は、違法薬物を密売する書き込みを放置したとして警視庁が捜査に乗り出したことなどが影響して、管理者側の自主的な削除が進んだほか、新たな書き込み自体も減ったとみています。
「2ちゃんねる」は、去年11月に関係先の捜索を受けたあと、薬物の取り引きに関する書き込みを規制する対策を打ち出し、放置される違法な書き込みは大幅に減っています。去年12月からは、薬物売買の書き込みを自主的に削除するようになったほか、「薬、違法」という掲示板に違法な書き込みが行われた場合、パソコンに割り当てられた固有の番号「IPアドレス」を強制的に表示して、書き込んだ人の特定が容易になる措置を取りました。さらに、ことし4月以降は、警察から削除依頼があった書き込みをいったん掲示板の中の専用の閲覧場所にまとめ、7日以内に利用者から反論がない場合は削除する仕組みを取り入れています。
西村元管理人はことし5月、自身のブログに、容疑に対する反論を掲載しています。この中では、警察からの削除要請のメールは2通届いただけで、その投稿については「削除済みだ」としています。そして、「インターネット・ホットラインセンター」から届いた数千件の要請については、「センターは財団法人にすぎず、掲載された情報を違法と決めることはできない。合法の可能性もある情報の削除依頼を、不適切な手段で送ってきて、対応されなかっただけだ」と主張しています。また、「2ちゃんねる」の管理については、2009年1月に、ブログでシンガポールの会社に権限を譲渡したと発表し、自身は「2ちゃんねる」の運営とは関係がなくなったとしていました。
インターネットに関する法律問題に詳しい森亮二弁護士は、「掲示板に限らず、インターネットには無数の情報が投稿されている。これを管理者がすべてチェックできるわけはないので、投稿の内容に対して管理者は責任を負わないというのが大原則だ。しかし、自分から違法な情報の投稿を呼びかけた場合や、違法な情報の削除要請に応じず放置していた場合には、刑事責任を問われてもしかたがない。また、匿名の掲示板だから違法な情報が投稿されるのだという意見もあるが、匿名性を制限すれば、内部告発や権力者への批判が難しくなることも考えられ、匿名であること自体に違法性はないのだということは強調しておかなければならない」と話しています。また、元検事で薬物犯罪の捜査に詳しい若狭勝弁護士は、「掲示板の運営者と書き込みをした人が全くの見知らぬ者どうしであれば、犯罪を手助けするという認識があったことを立証するのは難しく、違法な書き込みを放置した行為を罪に問うのは困難なのではないか」と指摘しています。そのうえで「現在の法律を駆使して犯罪を摘発する方法もあるが、今後は、今回のようなサイバー犯罪にしっかりと対処するためにも、武器となる専門の法律を作るべきだ」と話しています。
インターネット掲示板「2ちゃんねる」に覚醒剤の売買をもちかける書き込みを放置したとして、警視庁は20日、2ちゃんねるの元管理人の男性(36)を麻薬特例法違反(あおり、唆し)ほう助の疑いで書類送検した。掲示板の違法な投稿を巡って管理人が立件されるのは異例。
2ちゃんねるに対する警視庁の捜査の背景には、投稿に絡む薬物犯罪の多発がある。警察当局によると、10〜11年、2ちゃんねるへの投稿をきっかけとする薬物密売などの事件検挙は11件。神奈川県警などが摘発したグループは延べ4500人から1億円以上を売り上げ、インターネットを利用した密売事件としては過去最大規模だった。
警視庁は、昨年11月以降、関係先など10カ所を家宅捜索するなど運営実態を捜査。(1)問題のある投稿の削除を受け持つボランティアが、削除の可否に関する判断を元管理人に求めている(2)収益の一部を元管理人が得ている(3)元管理人が譲渡先としているシンガポールの会社はペーパーカンパニーである−−などの状況が判明し、元管理人が現在も運営の決定権をもつと判断した。
しかし、元管理人の刑事責任を問うことには慎重論も強い。捜査関係者によると「薬、違法」の掲示板には、昨年5月に無職の男が広告を投稿した時点で約9800件の違法情報が放置されていたが、全投稿に占める比率は約6%。800以上の掲示板の集合体である2ちゃんねる全体でみると、比率はさらに低くなる。
IHCの削除依頼に限界があるとの指摘もある。園田寿・甲南大学法科大学院教授は「掲示板の書き込みを削除する義務が管理人に課されるのは、裁判所から命令を受けた場合などに限られる。法的に削除の義務がない限り、書き込みを放置した管理人の刑事責任を問うのは難しい」と話す。
一方、警視庁が捜査に着手した直後から、2ちゃんねるの自主的な規制で違法情報が大幅に減少した。昨年12月から半年間の削除依頼は123件で、11月までの半年間に比べて約94%減った。捜査幹部は「薬物犯罪の抑止という成果につながった」と話す。堀部政男・一橋大学名誉教授は「ネット上の情報に対する法規制や公権力の介入を最小限に抑えるためにも、掲示板の管理人は、違法情報の排除に社会的な責任をもたなければならない」と話している。
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警察庁は、違法薬物を密売する書き込みを放置したとして警視庁が捜査に乗り出したことなどが影響して、管理者側の自主的な削除が進んだほか、新たな書き込み自体も減ったとみています。日本は送検されただけで社会的制裁を受けうという法治国家としてはあり得られない事態は起こる社会である。たとえば万引きだが、社会的名誉ある地位にある男性の奥さんが万引きしたとして、この件を送検するか否かは、犯罪の内容に依らず警察官の胸算用によるとことが大きい。送検すれば奥さん前歴がつくだけでは済まされず、夫が地位を失う可能性がある。これを考慮して通常「あぶらしぼる」として送検せず、警察留置にする。これを逆にいえば、日本んいおける法的責任は法律に依らず社会制裁に依っていて、その執行人は裁判官ではなく警察官だということである。
これは悪用することも可能である。たとえば麻薬特例法違反の幇助の疑いでは明らかに起訴できないだろうと踏んでも、送検してしまう。すると日本では社会制裁が行われる。これは警察のあり方の問題である以上に、日本人の特殊な法意識・感覚の問題もあるだろう。
西村元管理人はことし5月、自身のブログに、容疑に対する反論を掲載しています。この中では、警察からの削除要請のメールは2通届いただけで、その投稿については「削除済みだ」としています。そして、「インターネット・ホットラインセンター」から届いた数千件の要請については、「センターは財団法人にすぎず、掲載された情報を違法と決めることはできない。合法の可能性もある情報の削除依頼を、不適切な手段で送ってきて、対応されなかっただけだ」と主張しています。また、「2ちゃんねる」の管理については、2009年1月に、ブログでシンガポールの会社に権限を譲渡したと発表し、自身は「2ちゃんねる」の運営とは関係がなくなったとしていました。
掲示板の書き込みを削除する義務が管理人に課されるのは、裁判所から命令を受けた場合などに限られる。法的に削除の義務がない限り、書き込みを放置した管理人の刑事責任を問うのは難しい(園田寿・甲南大学法科大学院教授)のだから、西村氏の反論は法的にも正しいと言えるはずである。
警察の社会的制裁を狙った送検という制度の悪用は「ネット上の情報に対する法規制や公権力の介入を最小限に抑えるためにも、掲示板の管理人は、違法情報の排除に社会的な責任をもたなければならない(堀部政男・一橋大学名誉教授)」という意識を生む結果となるようである。